京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

日本の喫茶店とタイ北部山地のコーヒー農家の繋がりと関係性

木のインテリアや観葉植物、幾何学模様を散りばめたA店の内装。チェンマイにあるX氏のカフェの色調を彷彿とさせる。

研究全体の概要

 本研究は北タイ産コーヒーに焦点をあて、その生産地であるタイ北部山地と日本で同コーヒーを取り扱う人々がどのように繋がり、関係を持ったのかインタビューを通して明らかにすることを試みた。本研究が対象とする北タイ産コーヒーは歴史が浅く、世界各地のコーヒー生産地と比較しても生産量・輸出量が少ない。そのため日本のコーヒー市場での知名度は低く、マイナーな商品だ。日本への輸入に際しては、消費者と直接関わる小売業者自身が生産現場に直接赴き生産農家と直接もしくはそれに近い形態で交渉され行われることが多い。そして販売に関しては、知名度の低さも相まって他の産地のコーヒーとの品質的・価格的な差別化が難しいとされる。そこで本研究では、日本の喫茶店において北タイ産コーヒーが取り扱われるようになった経緯と、どのように販売されているのかを把握し、コーヒーを介した北タイ山地社会の国際的な拡がりの一端を示すことを目的とした。

研究の背景と目的

 タイ北部山地でコーヒーが積極的に栽培されるようになったのは20世紀後半のことだ。当時タイ社会では、タイ北部山地におけるケシ栽培やそれに伴う焼畑が森林破壊を引き起こしていることが問題視され、王室を筆頭に国内外の組織がケシの代替換金作物を導入するプロジェクトを展開した。その一つにアラビカ種コーヒーがあり、今では北タイ産コーヒーの代表格となっている。また近年、タイ国内ではアラビカ 種コーヒーの飲用機会が年々増加し人気を得てきている。一方、日本において北タイ産コーヒーは個人が企図して行う少量輸入が主で、取り扱いが少ない。それは他国のコーヒー生産国と比較し、歴史が浅いことに加え、生産量・輸出量の少なさや原価の高さ、ブランド力の弱さが理由として挙げられる。そこで本研究では①北タイ産コーヒーを販売するに至った経緯について、②販売者である喫茶店が生産者とどのような関係を構築しているのか把握することを目指した。

白と紺を基調とした温かみのある北欧調なB店の内装。
あえて民芸調にせず、安易にタイを連想させないことで、コーヒーそのものの良さを伝えたいとのこと。

調査から得られた知見

 今回調査した喫茶店(A店、B店)は、両店とも生産者と直接的に繋がり交流して豆を輸入しているが、生産者との関係性には以下の違いがある。
 まずA店のオーナーは世界中を旅する最中、山地出身のX氏のカフェ(北タイ産コーヒー専門)と出会った。そこでコーヒーそのものの美味しさ、そしてコーヒーによって山地の村や人々の生活に役立ちたいというカフェオーナー(兼生産者) X氏の熱意に感動し、共感してX氏のコーヒーを日本で提供するに至ったという。そしてA店は現在、X氏のカフェの日本支店という形で展開し、豆はX氏の店と同じものが輸入される。
 一方B店のオーナーのきっかけは、サラリーマン時代に旅行でタイの雰囲気や人の良さに魅かれ、タイとの継続的な繋がりを希望したことだ。こうしてタイ関連のビジネス立ち上げに向けアイディアを探し、バンコクでカフェW店(北タイ産コーヒー専門)と出会った。そこでW店の創造するタイ北部の世界観に魅了され、また北タイ産コーヒー誕生の背景を知ったことで、同コーヒーを販売すると決めた。当初、輸入はW店からしていたが、現在は別の経路で、B店オーナーが直接知る生産者から豆を購入している。また生産者との交流に関しては、オーナーだけでなく、B店の客にも実際にタイのコーヒー農園に行く機会を提供し、ツアーを実施している。
 このように北タイ産コーヒーやその生産地との関わりに関して、A店は「X氏」を中心軸に、B店は自ら築く販路上で「北タイ産コーヒー」を中心軸に置いていることが示唆される。また両店とも、山地の人々が地域や生活を良くするために熱意をもってコーヒーを栽培している姿をみて、それを応援し、役に立ちたいという想いを持つ。しかしそれは慈悲的な姿勢ではない。ビジネスとして妥協せずに厳しく品質も求め、その上で両店とも、自らの使命は北タイのコーヒーの美味しさを日本の人々に伝えることだと述べていた。

今後の展開

 上述の通り、北タイ産コーヒーは社会問題の解決策としてのストーリーを持つ。しかしこうした側面の強調は、フェアトレードでしばしばみられるように、山地の人々を搾取的売買の被害者や困窮する生産者としてステレオタイプ化し描く危険性をはらむ。ただし本調査で明らかとなったのは、A店やB店がこのような危険性の回避に努める一方、自らの喫茶店の繁盛が山地の人々の収入となり、社会・経済・自然環境に好影響をもたらすことを望む姿勢だ。
 そこで今後は上記の視点を踏まえ、支援活動として北タイ産コーヒーに携わっている組織も含めて、より多くの喫茶店や組織を対象とし国内調査を行いたい。具体的には、各人、各組織による山地の生産者やその社会との関わり方の違いや、活動過程でみられた関係性の変化を明らかにしたい。そして将来的には、生産者の日常的な実践やその視点、置かれている状況を理解し、外部からのまなざしとのずれを検討するつもりだ。

  • レポート:奥野 衣莉香(2019年入学)
  • 派遣先国:(日本)東京都、千葉県
  • 渡航期間:2021年3月8日から2021年3月14日
  • キーワード:タイ北部山地、日本、喫茶店、コーヒー

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