2020年度第5回フィールドワーク研究会のお知らせ
第5回フィールドワーク研究会では、ドイツの修道院におけるフィールドワークを通して社会言語学な観点からコミュニケーションに関する研究をおこなわれている柴田さんをお招きして、下記の要領で研究会を開催します。
『修道士の身体をつくる修道院手話―手まねという実践に着目して―』
日時 :2020年8月28日(金) 13:30~15:00
場所 :Zoom(要事前登録)
参加登録→ Google Form(https://forms.gle/2qzSX9sj9bb5oR7z8)
発表者:柴田香奈子 氏(創価大学総合学習支援センター助教)
【摘要】本発表では、ドイツの厳律シトー会で使用されている修道院手話(手まね)を対象にして、修道院内で観察された手まねの発話分析から、手まねがもつ真の役割について考察する。本発表では、厳律シトー会で使用されている修道院手話は、彼らの慣習に従って「手まね」と呼ぶ。
これまで修道院手話は、修道士が沈黙の戒律を守るために使用する手話と認識されてきた〔斉藤くるみ 2003『視覚言語の世界』彩流社〕。しかし、修道院手話が単に「声を出して話をする」ということを避けるために使用されているのなら、ろう者が使用する手話でも構わないのではないだろうか。また、中世から使用が始まったとされる修道院手話が現代でもなお使用されているのは、果たして沈黙の戒律を遵守するためだけなのかという疑問が残る。
修道院手話に関する先行研究は、言語学的なアプローチが中心であった。例えばBarakatは、アメリカの修道院でデータを収集し、音声言語やろう者が使用する手話との文法的な比較を行なっている〔Barakat Robert A(1975)The Cistercian Sign Laguage: A Study in Non-verbal Communication. Cistercian studies series, 11, Cistercian Publications.〕。また最近では、修道院手話の発話には、音声言語からの影響ではない独自の文法的規則と考えられる疑問文や否定文などの構文が観察されると報告されている〔柴田香奈子 2019「修道院手話の疑問表現にみる文法化―ドイツ・オランダ・日本のフィールドワークから―」『社会言語科学』〕。
本発表では、手まねの使用が残るドイツ(Dannenfels)の修道院で実施したフィールドワークから、手まねに備わる言語的な側面のみならず、これまで議論されてこなかった手まねの実践に注目して検証したい。具体的には、ドイツの修道院で観察された手まねの発話分析を行い、手まねには修道士の感情や心の動きが付加されないことを明らかにする。その上で、手まねが、「裁く(Urteil)」ことから修道士を解放するために作られ、単なる音声言語の代用ではなく、ろう者が使用する手話も彼らの目的には資さないことを指摘したい。あわせて、修道院では、手まねという実践から共同体を形成し、やがてその実践からコミュニケーションの概念を少しずつ変化させ、修道士としての身体を形成していることも考察する。これらの分析では、修道士への聞き取りも加えて、これまで議論されることがなかった修道院手話の真の役割について検証する。
また、発表の中では以下の点についても触れたい。
>> 手まねの調査を始めた経緯(フィールドワークを開始した当初は、食文化に関する調査を行っていた)
>> 調査の経緯と方法(修道院の調査が実現した経緯と調査手法など)
>> 解析ソフトELANを用いた分析について(ビデオで撮影された手話の記述・翻訳・記録・分析使われるELAN(EUDICO Linguistic Annotator)と手まね分析について)