水俣臨地キャンパス
水俣臨地キャンパスでは、徹底した現場主義から立ち上がった「水俣学」の手法に学びながら、学問領域や専門家/市民の枠をこえた研究活動のあり方について、改めて考えることを目的とした。とくに、アジア・アフリカ地域における自身の「現場」で起きている事象を、日本というもう一つの身近な「現場」に照らし合わせて思考し、理解を深め、発信していくことを目指す。
スケジュール
- 2017年2月23日(水) 水俣市立水俣病資料館
- 2017年2月24日(木) 水俣病歴史考証館/チッソ(現JNC)水俣製造所の見学、熊本地裁義務付け訴訟第7回口頭弁論に同行
- 2017年2月25日(金) 水俣病患者連合会長・松村守芳さんにお話を伺う(御所裏島)
- 2017年2月26日(土) 水俣散策
- 2017年2月27日(日) 水俣病被害者互助会事務局長・谷洋一さんと互助会の方々にお話を伺う。水俣市役所・社会福祉協議会にて行政の取り組みについてお話を伺う
- 2017年2月28日(月) 茂道にて 漁業、農業、水俣病に関する聞き取り
- 2017年3月1日(火) 報告会(於熊本学園大学水俣学現地研究センター)
背景
水俣病は、戦後日本の高度経済成長のただなかでおきた、チッソ水俣工場から無処理で流された排水による環境汚染、汚染された魚介類を喫食した(食物連鎖)ことによる世界で初めての有機水銀中毒である。公式発見から60年経った今も、胎児性・小児性水俣病患者による訴訟はつづき、不知火海周辺では地域共同体の分断や再生が課題となっている。生態環境と社会文化、政治経済とが複雑に絡み合って起きたこの事態は、東京電力福島第一原発事故にまでつづく、(人)災害の構造を先取りした事例とも言われている。
本臨地キャンパスでは、そうした水俣病事件の全貌を理解すると同時に、水俣の「今」を知ることをモットーに、①漁村の人びとの暮らしと生業、②不知火海周辺の生態環境、③市民団体と社会運動、④水俣病をめぐる法・行政のとりくみなどを取り上げ、集中的な臨地調査を行う。その際、インタビューの方法や記録のとり方など、具体的な調査手法に関する情報交換を行うことも視野に入れる。
事前学習
臨地キャンパスに参加する前に、熊本学園大学水俣学現地研究センターの花田昌宣先生を京都にお招きして、水俣病に関する講義を受けた(2017年2月9日)。また、熊本県民テレビ製作のドキュメンタリー「生きる、伝える“水俣の子”の60年」(英語字幕付)を参加者と教員で鑑賞した。参加者はそれぞれの関心に従って水俣病関連の書籍を読み込み、現地での研修に備えた。
参加者
- 教員
- 藤倉達郎(ASAFASグローバル地域研究専攻)
- 中村沙絵(ASAFASグローバル地域研究専攻)
- 小坂泰之(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- 竹田晋也(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- 飯田玲子(ASAFAS附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター)
- 院生
- 師田史子(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- 長岡慶(ASAFASグローバル地域研究専攻)
- ティ・モニロッター(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- 中野真備(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- カトリーナ・ナヴァロ(文学研究科)
- 細田隆史(人間・環境学研究科)
- キア・メン・ブーン(ASAFAS東南アジア地域研究専攻)
- 高道由子(ASAFASグローバル地域研究専攻)
協力機関
熊本学園大学水俣学現地研究センター
現地からの報告
水俣病患者さんへの聞き取りだけではなく、多様な考え方や立場を取る支援団体の方々や行政の方からもお話を伺うことができた。参加した院生の学問的関心や研究地域も多岐にわたり、毎晩熱心に議論する姿があった。また、その日のプログラム終了後に、自主的に町歩きをおこない、水俣に住む様々な人から積極的に話を聞く院生の姿が見受けられた。
3月1日(水)におこなわれた熊本学園大学水俣学現地研究センターでの報告会では、様々な意見や議論が飛び交った。水俣臨地キャンパスから得た気付きをもとに、各自のフィールドワークに生かしていく事が目指される。
本臨地キャンパスの開催にあたっては、熊本学園大学水俣学研究センターの花田昌宣先生、田尻雅美先生のご協力により可能となった。また、貴重な時間を縫ってお話を聞かせてくださった水俣の皆様と御所浦の皆様に、心より御礼申し上げます。(中村沙絵・飯田玲子)