京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

都市周縁部への居住背景について―ザンビア・ルサカのチャワマコンパウンドの事例―

写真1 コンパウンド(Chawamaコンパウンド)の風景

対象とする問題の概要

 ザンビアの首都ルサカにおける人口は2024年8月現在で約332万人と報告されている。その内、約7割の人々がルサカ都市圏の未計画居住区(以降、コンパウンド)で生活をしている。現在、コンパウンドでは、インフラの未整備やコレラをはじめとする健康や衛生の観点から開発・改善を目的としたプロジェクト等が多く行われている。一方で、コンパウンドで生活を営む人々に関する報告は少ない。そのため、私たちは、住民の人々が貧困ゆえにコンパウンドに住まざるを得ない状況であるかのように捉えてしまう。つまり、どのようにコンパウンドを認識し、どのようにコンパウンドに人々が集まってくるのかが不透明である。

研究目的

 研究目的は、どのようにして人々が対象のコンパウンド(チャワマコンパウンド)に住む選択を行ったのかを明らかにすることとする。特に、彼らの居住歴とライフコースの関係性に着目した。

写真2 調査させて頂いたお宅でのお昼ご飯(写真手前から調査者と協力者)

フィールドワークから得られた知見について

 調査の結果から、住民に対して4つの特徴が挙げられる。一つ目は、居住形態には賃貸と持ち家の2種類があることである。二つ目は、賃貸世帯は持ち家世帯よりも多いことである。三つ目は。賃貸世帯は居住期間が短く、持ち家世帯は居住期間が長いことである。四つ目は、賃貸世帯の主な担い手には子育て世代が多く、持ち家世帯の主な担い手には子育てを終え、孫のいる高齢世代が含まれていることである。ライフヒストリーの聞き取り調査を2名に行った。そのうちの一人は持ち家に住む69歳の女性であった。彼女の生まれはルサカ市内の別のコンパウンドで、最終学歴はPrimary Schoolの7年生(大体13歳にあたる)である。彼女のライフヒストリーにおける特徴として、彼女の両親や姉弟は対象地域のコンパウンドと直接的な繋がりが無い点と、また、彼女の二人目の夫が亡くなった後も同じコンパウンドに子供たちと住み続ける選択をし、持ち家の購入に至った点が挙げられ、これらは上記4つの特徴と合致する。つまり、彼女自身がかつては子育て世代としてコンパウンドの貸家で生活をし、年齢を重ねると同時に将来性を考えて持ち家を所有し住み続けることを選択しているということである。他の調査者の例でも、子育て期間にコンパウンドに移住をしている事例が多く挙げられる。
 以上より、人々がコンパウンド移住を選択する背景には、貧困というよりも、むしろ彼ら彼女らのライフコースや将来性を考慮したものがあると考えられる。そして、ライフコース上で別の地域に引っ越しをする者もいれば、そのまま住み続ける者もいる。

反省と今後の展開

 今回の調査では、主に日中の家事仕事を行っている女性達に聞き取りを行った。結婚をきっかけに現在の住居に越してきた人々も多かったが、そのことを深堀することができなかった。性別によっても移住体系が異なるように推測されるので、次回調査で焦点を置きたい点の一つである。また、対象のコンパウンド自体も広く、地域によって特色が異なるため、調査地の拡大や地域の歴史についてのフィールド調査と文献調査を進めていきたい。

  • レポート:江角 理佐子(2024年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2024年9月4日から2024年11月28日
  • キーワード:コンパウンド、移住、ライフコース

関連するフィールドワーク・レポート

マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園における 外来食肉目の生態系への影響

対象とする問題の概要  マダガスカルの生態系は、豊かな生物多様性と高い固有率に象徴される。近年、マダガスカルにおいて、イヌ(Canis familiaris)、ネコ(Felis catus)、コジャコウネコ(Viverricula indi…

インドネシア中部ジャワ農村地域における共有資源管理/住民による灌漑管理とその変容

対象とする問題の概要  インドネシア政府はこれまで多種多様な農村開発プログラムを実施してきた。特にスハルト政権下では、例えば稲作農業の技術的向上を目的としたビマスプログラムのように、トップダウンによる開発政策がおこなわれてきた。しかし、こう…

在タイ日本人コミュニティの分節とホスト社会との交渉/チェンマイ、シラチャ、バンコクを事例に

対象とする問題の概要  2017年現在、在タイ日本人の数は7万人を超え、これは米国、中国、豪州に次ぐ規模である 。タイでは、1980年代後半から日系企業の進出が相次ぎ、日本人駐在員が増加している。加えて1990年代以降は日本経済の低迷や生活…

オーストラリアにおけるブータン人コミュニティの形成と拡大――歴史的背景に着目して――

対象とする問題の概要  オーストラリアでは1970年代に白豪主義が撤廃されると、東アジア系、東南アジア系、南アジア系など移民の「アジア化」が進展してきた。またオーストラリアは移民政策として留学生の受け入れを積極的に行ってきた。特に1980年…

ラオスの小規模輸送を可能にする長距離バス――家族経営の公共交通機関――

対象とする問題の概要  東南アジアの内陸国であるラオスは、山岳地帯が国土の多くを占めている。道路輸送が全モードの輸送量のうち大半を占めるにもかかわらず、道路の舗装率は周辺国に比べて低い。時間と費用共に輸送コストが高く、大規模なサプライチェー…

モロッコにおけるタリーカの形成と発展(2019年度)

対象とする問題の概要  モロッコにおいては、15世紀に成立したジャズーリー教団が初の大衆的タリーカである。ジャズーリー教団は後のサアド朝(1509-1659)によるモロッコ統一に助力するなど政治的にも存在感を発揮し、現在の北アフリカ・西アフ…