京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ベナン中都市における廃棄物管理システムを取り巻く価値観――日本の生ごみ資源化事業の研究動向から――

神立資源リサイクルセンターのメタン発酵槽(左奥)(報告者撮影)

研究全体の概要

 アフリカ諸国では、近年の急激な人口増加と都市化に伴い、経済発展における中小都市の重要性が高まっている。将来のさらなる人口増加に備え、アフリカ中小都市の廃棄物管理体制の整備が重要であり、ごみの資源化は有効な方策の一つである。国立環境研究所でのインターンシップでは、日本の人口減少・高齢化社会の生ごみ資源化事業の知見を得た。メタン発酵及び堆肥化を行う神立資源リサイクルセンターは、多様な利害関係者との関係性の下事業を実施していた。また、特に地域循環型共生圏の文脈で、ごみ処理事業が地域社会に創出する多様な価値が注目され始めている。他方、先行研究では、ごみ処理事業の計画から導入初期において、事業に資本が投じられ地域社会から受容されるプロセスに関する知見の蓄積は少ない。ベナン中都市においてこれに実証的に取り組むにあたり、利害関係者の把握と、メタン発酵により得られるガス及び液肥の定量的把握を進めていく。

研究の背景と目的

 アフリカ諸国では、近年の急激な人口増加と都市化に伴い中小都市に住む人口が増加し、経済発展における中小都市の重要性が高まっている。増加するごみの量に対する不十分な廃棄物管理体制は大都市を中心に報告されているが、中小都市においても財源の不足及び専門人材の不足が指摘されており、将来のさらなる人口増加に備え廃棄物管理体制の整備が重要である。最終処分量を削減する方策の一つにごみの資源化があるが、資源化を促進させるためには、ごみの分別をはじめ利害関係者の協力が必要である。そのため、利害関係者の参加を促す仕組み作りが求められる。
 本研究の目的は、アフリカ中小都市でのごみの資源化方策を検討するために、ベナン中都市の廃棄物管理の利害関係者の意欲を高める要因とその背景を明らかにすることである。より質の高い問いを設定するため、研究分野の動向に関する知見を得る目的で、国立環境研究所でインターンシップを行った。

ピットへの生ごみの投入。付近は生ごみ独特のにおいがした。(報告者撮影)

調査から得られた知見

 インターンシップでは、資源循環領域・河井紘輔主任研究員の指導の下、日本の人口減少・高齢化社会のごみ処理システムに関する知見を習得した。
 従来は公共責任の下で行政が果たす役割が大きかった一般廃棄物の処理において、人口減少・高齢化の進展に伴い自治体の財源、人材、適用可能技術の制約が大きくなることが予想され、住民や企業との連携がますます重要となっている。一般廃棄物の中でも生ごみの資源化は、堆肥利用により生態系サービスへ寄与するだけでなく、焼却処理効率の向上と化石燃料の使用量削減に効果的である。河井研究員による聞き取り調査に同行し訪問した神立資源リサイクルセンターでは、㈱日立セメントが、土浦市、ごみ排出事業者、ごみ収集運搬業者との連携の下で家庭系・事業系一般廃棄物中の生ごみ及び産業廃棄物中の食品廃棄物のメタン発酵と堆肥化を行っている。生ごみ由来の悪臭対策としてセンター内に負圧環境が作られ、ごみ投入ピットでミストが散布されていた他、市民への堆肥の無料配布や堆肥を使った干し芋生産が行われ、周辺住民や土浦市民への配慮が見られた。本センターの事業に関連した研究には、分別収集導入の影響、及び環境負荷と雇用創出効果の評価等がある。
 また、共同研究を行う鹿児島県大崎町との会議や、ごみ処理事業への投入資本と創出価値に関する勉強会へ出席した。これらを通し、特に地域循環型共生圏の文脈において、ごみ処理に関する従来の評価対象だったリサイクル率や温室効果ガス排出量等の環境負荷に留まらず、ごみ分別を通した社会関係資本の蓄積による治安維持効果や地域への愛着の強化等、ごみ処理が地域社会に創出する多様な価値が注目され始めていることを学んだ。

今後の展開

 これからのごみ処理事業は、地域資源を活用し、自立した地域社会の形成に寄与することが期待される。しかし、その実現のための研究蓄積は十分でないことが明らかになった。具体的には、先行研究において、実施中の生ごみ資源化事業の環境負荷・経済的価値を中心に評価する研究[Iacovidou, E. et al. 2017]が多くある一方で、事業の展開に関する研究[稲葉ほか2017;岡山2013]では、計画から導入初期に、どのような資本がどのように投入され、地域社会にどのように受容されていくのかに関する蓄積は少ない。アフリカ中小都市は、将来の人口増減に備えるために、住民の現在の協力が必要である点で、日本の小規模自治体と共通性がある。ベナン中都市で上記の問いに実証的に取り組むにあたり、調査地の廃棄物管理の利害関係者の特定と関係性の把握を進めながら、導入を想定する分散型メタン発酵から得られるガスと液肥の活用方法を、収集されるごみの定量的データに基づき、具体的に検討していく。

参考文献

 Iacovidou, E., Velis, C. A., Purnell, P., Zwirner, O., Brown, A., Hahladakis, J., Millward-Hopkins, J., & Williams, P. T. 2017. Metrics for optimising the multi-dimensional value of resources recovered from waste in a circular economy: A critical review. Journal of Cleaner Production 166: 910–938.
 稲葉陸太, 田崎智宏, 小島英子, 河井紘輔, 高木重定, 櫛田和秀. 2017.「バイオマス地域循環事業活動の戦略的視点からの経緯分析―実践知の蓄積と普及のために―」『廃棄物資源循環学会論文誌』28: 87–100.
 岡山朋子. 2013.「名古屋市と札幌市のバイオマスタウン構想における食品廃棄物の資源化政策比較」『廃棄物資源循環学会誌』24(1): 24–31.

  • レポート:平尾 莉夏(2021年入学)
  • 派遣先国:(日本)茨城県つくば市
  • 渡航期間:2022年1月31日から2022年3月18日
  • キーワード:生ごみ資源化、地域循環型共生圏、人口減少・高齢化社会、中小都市

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