フィールドワークでは、資料収集と聞き取り調査の二つをおこなった。まず、資料収集に関しては、アウジャマ文化センター(ACC: Awjama Cultural Centre)とケニア国立公文書館(KNA: Kenya National Archives)にてそれぞれ実施した。 ACCは、ナイロビ市内のソマリ人難民を対象に教育や文化イベントを提供するNGOであるが、元来現地のソマリ人向けの公共図書館としてオープンしたことから、ソマリの文化・歴史に関する書籍を多く所蔵しているほか、個人・団体からの書籍の寄贈も受け付けている。このACCでは、資料調査として同センターに収められているすべての販売用・貸出用書籍の書誌情報を収集した。この結果、120冊を超える多様な出版地のソマリ語書籍が、販売用・貸出用を問わず、同センターに集積していることが判明した。つまり、ACCがソマリ語書籍の流通におけるハブの一つを形成していることがわかった。また、常駐していたスタッフへ英語による聞き取りをおこない、センターの来歴や所蔵書籍の著者などに関する貴重な情報を得ることができた。 また、同センターの利用者への聞き取り調査をおこなった。この結果、利用者の多くが学生であること、およびACCが主に学習スペースとして利用されていることがわかった。加えて、ACCがナイロビ市内で主催していたソマリ語書籍の出版イベントにも参加し、参加者層をおおまかに把握することができた。このほか、ACCのスタッフよりソマリ語の個人授業を週2回、約1ヶ月の間受けることができた。 第二のKNAの調査では、ソマリ人に関する出版物の流通に関する資料の入手を目的として臨んだ。しかし、散逸し、あるいは未整理のままのものが多く、請求した資料のほとんどを入手できなかった。他方で、KNAでは、1940〜1950年代のソマリアにおける主力政党のケニア支部に関する資料、およびその規制に関する資料を入手することができた。これらの資料は、ケニアにおけるソマリ人の移動規制に関する情報を含んでおり、今後の研究に裨益するものと考える。