現代ネパールにおける中学生・高校生の政治活動の実践に関する研究
対象とする問題の概要 近年ネパールでは、子どもが政党に付随した活動に参加することを規制する立法や啓発活動が、政府や国際組織の間で見られる[MoE 2011等]。子どもと政治の分離を主張する言説の背景には、政治的争点を理解するための理性が未…
タンザニアのインド洋沖に浮かぶザンジバル諸島には、絶滅危惧種であるザンジバルアカコロブス(Procolobus kirkii)が生息し、その保護などを目的として2004年に島中部がジョザニ・チュワカ湾国立公園に指定された。
しかし、国立公園が設置されたあとも、コロブスは公園内だけを生活圏とするわけではなく、設置以前と同様に隣接する集落にも出没し、果樹や農作物を荒らしていた。住民はこのサルを現地語で「毒ザル」を意味する‘kima punju’と呼び倦厭してきた。時に、コロブスは民家の庭先まで訪れ、調理場に燃え残った消し炭を食べる姿がしばしば目撃された。しかし、住民は積極的にサルを傷つけず、その姿が受容されてきた。炭食いは野生動物においてきわめて珍しい行動であり、その理由はよくわかっていない。しかし、住民とザンジバルアカコロブスのあいだには、炭を介した特殊な関係が存在していると考えられる。本研究では同一地域に暮らす野生動物と人のあいだに築かれる関係性を、動物の食性と住民の生活という2つの視点から捉え、野生動物との共存のあり方に新しい視座を設けることを試みる。
これまでの筆者の観察から、コロブスは2、3日に1度くらいの頻度で公園を出て集落へ向かい、マンゴーなどの果樹の葉を食べまわっていて、その途中で、民家の庭先に立ち寄って三石カマドの中で燃え残った炭を食べていたることが分かっている。そこで、今回の調査では、①炭食いがコロブスの食性のなかでどのような位置付けなのか、また②コロブスの行動は住民の目にどのように映っているのかを調査した。
<調査①>
炭食いとそれ以前に採食した樹種との関連性を調べることを目的として、群れの個体識別したうえで、午前6:30から午後6:30までのあいだ5分ごとの行動(「移動」、「採餌」、「炭食い」、「休息」、「毛繕い」など)を60日間に渡って記録した。採食した樹種を特定しつつ、糞の状態を観察してサンプリングした。
<調査②>
コロブスに対する地域住民の認識を調べるため、集落の全世帯を訪問して住民にインタビューした。訪問調査では世帯の属性などとともに、農作物の被害状況、コロブスへの感情などを尋ねた。
調査①では、群れの各個体を識別したうえで、特に5個体を各10日間以上追跡し、採食した樹種と炭食い行動を記録した。データはこれから分析するが、特定の植物と炭食い行動が関連付けることができれば、炭食いが生体に与える影響や集落への出没を考察するうえで、重要なヒントになると考えている。
調査②では、国立公園に隣接する集落に少なくとも、2つのエスニックグループが存在していることが分かった。1つはスクマと呼ばれる人びとで、ここ数年のあいだにタンザニアの大陸部分から入植してきた集団である。タンザニア最大のエスニックグループであるスクマはもともとヴィクトリア湖南側の原野で農牧複合型の生業を営んでいた。言語、信仰、生活習慣も独特であるが、全国に分散して暮らし、この地域でも人口の約8割を占めていた。かたやザンジバル出身者はわずか2割であった。
聞き取り調査から、国立公園に隣接する地域は農地として利用できるものの、コロブスによる食害が常態化していることに加え、湿地帯であるがゆえにマラリアなどの発症率が高く、居住環境としてはあまり好まれていないことが分かった。古くからこの地に住んできたザンジバル人の多くは、2004年に公園が設置されたのを機に、当局から補償金をもらって出て行き、代わってその跡地にスクマが入植してきたのである。
コロブスに対する感情は、個人差があるものの概ねスクマの方が寛容で、ザンジバル人の方が被害を強く訴える傾向があった。内陸の原野ではアフリカゾウやライオンが集落に現れることもあり、スクマにとって「コロブスによる食害なんてゾウに比べたら全然たいしたことない」という意見が聞かれた。
<反省点>
樹種の栄養分析のために、コロブスが採食した樹種の標本の輸出を試みたが、許可取得に時間がかかり、出国直前まで役所を奔走することになった。次回からは時間的な余裕を持って対応したい。
<今後の展開>
炭は、林の開墾、焼畑、炭焼き、炊事などの人間活動の中で生成される。コロブスが利用する炭食い場所のすべてを観察することで、人間と野生動物がどのような場所で「炭」を介して接触しているのかを明らかにしたい。また、集落に出没して‘kima punju’として倦厭されるながらも、駆除の対象とならず孤島で人間と同所的に暮らしてこることができた要因についても探っていきたいと考えている。
Copyright © 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター All Rights Reserved.