屋台をとりまく社会関係の構築による場所の創出――福岡市・天神地区を事例として――
対象とする問題の概要 福岡市には100軒(2022年4月1日時点[1])の屋台が存在する。第二次世界大戦後に闇市の担い手として営業を開始した屋台は、その後減少の一途を辿っていた。しかし、現在、福岡市によって屋台は都市のにぎわいを作る装置と…
今日のカンボジアの障碍者福祉は、1980年代の人道支援を源流とし、1991年のパリ協定を皮切りとした国際援助とともに形成されてきた。カンボジア政府は、2014年からと2019年からの4年間、障碍者戦略計画を掲げ、障碍者の貧困削減や差別の禁止を目指している。しかしながら、現在も障碍者福祉は、外国のNGOや外国から支援を受けた現地NGOなどが一翼を担っており、例えば1994年に社会福祉・退役軍人・青年更生省(以下、MoSVY)と国際NGOが共同で設立した理学療法センターは、現在もその資金源の半分以上を国際NGO側が占める。このように、国際援助は、現在に至るまで紛争後の障碍者福祉を担ってきた一方で、支援の対象は国際的なトレンド(関心)を反映し、他の課題を軽視させる可能性が指摘されている。例えば、地雷問題への関心によって、障碍者への支援が地雷・不発弾の被害者としての身体障碍者に集中し、それ以外の原因による障碍者に対する支援が立ち遅れた[吉崎ほか 2006]。
本研究は、①現在のカンボジアにおける障碍者に対する支援の実態と、②復興期以後の障碍者への援助が「いつ/誰を対象に/どのような活動を通じて」なされたのかという動態と国際支援の関係を明らかにすることを目的とする。
そのために、今回の渡航では、カンボジアで障碍に関連した活動を行うNGOや当事者団体から資料収集および聞き取りを実施した。市民団体に着目する理由は、障碍者福祉においてNGOの役割が大きいことに加え、NGOの分析により、国際的なトレンドと障碍者福祉の実態との相互関係を分析できると考えたためである。
現地調査中、障碍分野で活動する団体10件を訪問し、活動の見学と聞き取り調査を行った。内訳は、NGOとMoSVYが共同で運営する国立理学療法センター1件、現地NGO 7件、外国のNGO 2件である。調査日のうち1日は、現地NGOの1つが実施する障碍についての啓発ワークショップに参加した。また、国内で活動する団体の概要を把握するため、カンボジア開発研究機関(CDRI)の資料室にて、障碍者支援に関する資料を収集した。
今回の聞き取りで、次の知見を得られた。第一に、国内で多様な活動を展開する各NGOは、障碍という大きな括りの中で密接に連携を取っている。例えば、身体障碍者の支援において、あるNGOが車椅子を支援することになった際、車椅子を製造している他のNGOに発注をするなどである。他にも、義肢製作技師を養成するNGOでは、卒業生を、義肢義足を提供する政府とNGO共同運営の理学療法センターに派遣・就職斡旋をするという連携がシステム化されていた。知的障害児の教育支援においても、複数のNGO間でノウハウの共有がなされている。
第二に、確かに地雷被害者への支援は、内戦と地雷というショッキングな問題に呼応する形で寄せられた国際的関心が影響したが、現在のNGOの活動を観察すると、国際的な枠組みの方が強く影響していると言える。例えば、女性障碍者に対する暴力の撲滅とエンパワメントは、近年の障碍分野で最も注目されるトピックである[Astbury and Walji 2013]。実際に、この課題に取り組むNGOにもドナーがついていたが、これは「カンボジアの女性障碍者が抱える問題」について市井の関心が寄せられたためではなく、女性障碍者が開発分野において重要視され、取り組みの枠組みが決定されたためである。ただし、市井の関心もなく国際的な枠組みでも強調されない課題に関しては、ドナーが離れ、資金調達に課題を抱えている団体も複数あった。援助が国際的なトレンドに影響され行われてきたことの弊害は否めない。
今回の調査では、障碍分野で活動するアクターと繋がりを作ることができた。特に、NGO・当事者団体の統括機関Cambodian Disabled People’s Organization(以下、CDPO)のスタッフと複数回接触し、活動の参与観察も行ったことは、ここに加盟する75団体と繋がる際にも活かせるであろう。他方で、約5週間の渡航の中、調査目的を広く設定しすぎたため、目的に対し具体的な知見を示すことができなかった。特に、国際的トレンドに左右される国際支援が障碍者福祉に与える影響については、「国際的トレンド」を「世間一般の関心」と「地域や国家が重視する分野」などに細分化して考える必要がある。また、聞き取り調査は、件数を優先したためCDPO以外には一度しか訪問・聞き取りしていない。しかし、関係性がない中、調査者が直接的な質問をするだけでは回答を得られないことがあったため、次回の調査では活動現場の参与観察を含めて複数回訪問することで、より詳細な分析を行う必要がある。
吉崎基弥. 青山温子. 永井真理. 小林明子.2006. 「カンボジアにおける身体障害者支援の現状と課題」『Journal of International Health』21(1):43-51.
Astbury, J. & Walji, F., 2013. “Triple Jeopardy: Gender-based violence and human rights violations experienced by women with disabilities in Cambodia.” AusAID Research Working Paper 1, 2013.
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