京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

インドネシア熱帯泥炭地における水文・気象現象の把握

写真1 泥炭地火災跡地

対象とする問題の概要

 いま、気候変動による異常気象などが多発しており、温室効果ガスの排出や炭素吸収源として熱帯泥炭地の役割は世界的に注目されている。インドネシアにおける熱帯泥炭地の炭素貯留量は57.4Gtであり、これは東南アジアにおける熱帯泥炭地の泥炭由来の炭素の65%を占めるといわれている [Page 2011]。しかし、この熱帯泥炭地は人為的な土地被覆の変化によって様々なリスクにさらされている。例えば、1)土地の乾燥化による火災リスクの増加、2)河川への土砂供給の増加による海岸変化があげられる。また、これらの人為的な影響によって引き起こされる環境の変化はその地域のみならず近隣の地域を巻き込みながら地域住民の生活を変化させる。

研究目的

 博士予備論文では、熱帯泥炭地域で現在起こっている泥炭地火災や海岸変化などのインパクトに関してそのメカニズムやそれによる地域住民への影響を把握することを目的としている。そこで今回の調査では、全面積の半分近くを熱帯泥炭地が占め、インドネシアで最も森林破壊が進んでいる地域の一つであるリアウ州を研究対象地域とし、泥炭地域全体と地域レベルの2つの視点で現在なにが問題となっているのかを明らかにすることを目的とした。そのために、地元研究者との交流や地域住民へのインタビュー調査を行った。熱帯泥炭地域で起こっているこれらの現象と地域住民への影響を明らかにすることで持続可能な泥炭社会に寄与することができると考えている。

写真2 すべて近年の堆積により陸域が拡大した地域

フィールドワークから得られた知見について

 まず、リアウ州で最近泥炭地火災が発生した場所を調査した。この地域は3日前に火災が発生した場所であり、焼け跡の地面を触るとまだ熱を持っていることがわかる。他にもいくつか火災跡地を調査し、実際に調査した火災跡地とNASAのFireSpotデータを比較した。結果として、今回調査した跡地はFireSpotデータでは検知できていなかったことがわかった。理由としては衛星画像の空間解像度の違いなどが影響していると考えられるが、地域住民にとっては大規模な火災でなくても煙などによる健康被害が出ていることや火災発生の際の迅速な消火活動のためにも適切な火災の検知の方法を確立することが重要だとわかった。
 また、現地の研究者の方と議論をした際に熱帯泥炭地を取り巻くリスクに関して海岸の土砂移動変化についての話を伺った。近年、スマトラ島東海岸の熱帯泥炭地を有する海岸において大規模な土砂移動が発生している。リアウ州のブンカリス島では泥炭地崩壊と呼ばれる大規模な沿岸泥炭の崩壊と海岸の浸食が進んでいる。この地域での沿岸泥炭の浸食速度は最大33m/年に達する [Sutikno 2017]。こうした海岸の浸食による泥炭の消失が発生している地域がある一方、ブンカリス島と同じリアウ州に位置するロカン・ヒリル県の沿岸では堆積による陸域の拡大が発生している。2000年から14年間の海岸変化を衛星画像から解析した結果より87m/年の堆積があった [Sutikno 2016]。今回の渡航では、調査地の選定のため近年堆積による海岸変化が発生している地域を可能な限り訪問した。訪問した地域の中でSungai Bakau地区をコアエリアに決め、地域住民への聞き取り調査とドローンを用いた調査を行った。この地区は近年の堆積が著しい地域であり、20年前は村が海岸に面していたが現在では堆積により海岸から1km内陸に位置する。地域住民への聞き取りから漁業に大きな影響があり、漁師の減少によるジャカルタへの出稼ぎ・アブラヤシ農家への転職などの変化があることがわかった。

反省と今後の展開

 今回の渡航で、泥炭地火災についてはローカルレベルでの火災検知のためのシステム構築の必要性と海岸で発生している土砂移動の影響について明らかにすることができた。これらはインドネシア全体として問題になっているアブラヤシ農園などの人為的な土地被覆の変化が大きな影響を与えている。特に、熱帯泥炭地の海岸で発生している土砂移動は現在も進行し続けている現象であり、地域住民への影響も含めて今後も調査を続けていくべき問題であると考えている。ただ、堆積現象に対する土壌サンプリング調査やドローンによる地形標高図の作成はできていない。これらの調査によってこの地域の堆積がどのようなプロセスで進行しているのかを明らかにできると考えている。また、今後は土砂移動が地域住民へどのような影響を与えているか把握するためにインタビュー調査や人口センサスデータを用いることで人の流れを空間的・時間的に明らかにしたいと考えている。

参考文献

 S.E.Page,J.O.Rieley,C.J.Banks. 2011. Global and regional importance of the tropical peatland carbon pool. Glob.Change Biol.17,798.
 Sutikno,S. Fatnanta,F. Kusnadi,A. Murakami,K. 2016. Integrated Remote Sensing and GIS for Calculating Shoreline Change in Rokan Estuary, KnE Engineering, 1(1)
 Sutikno,S. Sandhyavitri,A, Haidar,M, Yamamoto,K. 2017. International Journal of Engineering and Technology 9(3):233-238.

  • レポート:吉位 優作(2023年入学)
  • 派遣先国:インドネシア
  • 渡航期間:2023年10月15日から2023年12月15日
  • キーワード:泥炭地火災、海岸変化、陸域拡大

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