違法路上市と公共空間利用による根源的ストリート化――あいりん地区の泥棒市を事例に――
研究全体の概要 本研究の目的は、歴史的な開放性と現代的な閉鎖性がせめぎ合う路上空間における公共空間の利用と「根源的ストリート化」の動態を明らかにすることである。そこで、大阪市西成区のあいりん地区で行われている「泥棒市」を事例に、西成特区構…
調査の主対象であるブルーリ潰瘍は、抗酸菌のマイコバクテリウム・アルセランス(Mycobacterium ulcerans)などが原因で発症する、潰瘍などの皮膚病変を主症状とする感染症である。ブルーリ潰瘍は「顧みられない熱帯病」の一種であり、WHOが17の疾患群を挙げている。顧みられない熱帯病は三大感染症(エイズ・結核・マラリア)と比べてあまり関心が向けられていなかったが、特に21世紀に入り焦点が当てられるようになった疾患群である。これまでブルーリ潰瘍に対する研究は、治療や診断などの疫学的な面や医療設備や能力開発といった医療従事者からの面、あるいは政府やNGOの施策といったことに大きく焦点が当てられていた。
ガーナ共和国におけるブルーリ潰瘍の患者数は、2017年時点で世界一である。1年間で1,000人以上報告されていたブルーリ潰瘍の新規患者数は300人まで減少していたが、2015年以降患者数が増加している。
本研究では、ブルーリ潰瘍患者の治療前後の世帯内や地域コミュニティとの関わり合いの変化や、リハビリテーションを含む日常生活を明らかにすることが目的である。まず、ブルーリ潰瘍と診断され治療中の患者、あるいは治療を行い完治した罹患歴のある患者に対して日々の生活の様子を聞き取っていき、調査対象者が生業に従事する様子や地域社会との関わりを明らかにする。また、患者が日常生活で感じる行動面での不便さを調査する。またその不便さへの対処法や、家族や地域住民から受けている支援内容について明らかにする。
それと同時に、患者と生計を同一にする世帯の人々の患者や地域社会との関わり合いを調査し、世帯内の社会的・経済的な状況を明らかにする。
調査対象者の生業は農業が中心であったが、小売業やサービス業(自動車修理や美容室など)に従事している人々も見られた。その中で農業従事者はブルーリ潰瘍に感染したことによって、健常者と比べて生業への支障が大きく見受けられた。自宅と農地の間の移動や農作業、収穫した作物の運搬など、あらゆる行動に支障をきたしている。特に収穫した作物を街や市場まで運搬するのは重労働であり、労働者を日雇いしたり、家族や兄弟姉妹に支援を求めたりする事例が複数見られた。こうした支援以外にも、金銭、農産物や日用品などの物品、家事の代行など多岐にわたる支援を親や兄弟姉妹、親族や友人など地域社会の人々から受けている。
また、発症してから病院で治療を受けるまでの一連の流れについても聞き取り調査を行った。まず、発症直後は伝統的な薬草を使用した治療を受ける患者が半数以上であった。治療法としては、薬草をゆでて加熱した後、ペースト状にしたもので患部を拭いた後、そこに薬草を張り付ける方法や、キャッサバをおろし金ですり潰し、それに塩を混ぜて患部に塗る方法などである。また、伝統療法を実施した期間も患者によって大きく差がある。3日から1週間ほど実施したが症状が改善せず病院を受診した人々が最も多かった。中には1ヶ月や半年以上も病院を受診することなく、薬草による治療を受けている患者も存在し、こうした患者は、重症化したり運動機能に後遺症が残ったりすることが多い。
地域社会との関わりでは、ブルーリ潰瘍感染後に外出する回数が減少したり、集落の行事に参加しなくなったりといった変化が生じる。これは、潰瘍の状態や運動機能の後遺症によって外出ができなくなる場合、患者が自らの意思で行為を取りやめる場合、周囲の人々が患者を忌避することによって行為をやめる場合など様々なケースに分かれる。特に後者2つは患者と地域社会との関わり合いに大きな影響をもたらしている。
今回の調査では、年齢、性別、民族、症状の重症度、罹患時期などを限定せず、広く調査対象地域に住む患者に対して聞き取り調査を行った。本調査によって、患者に対する様々な支援が家族・親族らを中心に行われていることが判明したが、このような調査対象者の周囲の人々に対する聞き取り調査は不十分であった。今後の調査では、家族や友人に対しても聞き取り調査を行い、患者に対する具体的な支援内容やその頻度、支援に対する思いや考えなどを明らかにする。また、広く調査地域の住人に対してブルーリ潰瘍に対する意識や知識を調査していくことで、その地域でブルーリ潰瘍がどのように理解されて、どのように捉えられているかを明らかにできる。このように、ブルーリ潰瘍に対して患者本人と地域社会の両面から調査する必要がある。
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