「アイヌ文化」を対象とした民族展示の調査
研究全体の概要 本研究は、民族文化の表象をめぐる問題を考察していくために、博物館展示のあり方を比較しようとするものである。本調査では、日本の先住民族であるアイヌに着目し、その中心的居住地である北海道の博物館・資料館の展示を対象として「アイ…
本研究の対象となるのは、ギニア都市部で経済活動に従事するフルベという民族である。フルベは西アフリカを中心に広く生活圏を築く民族であり、牧畜民として知られている。ウシをはじめ家畜に対して高い価値をおき、フルベの多くは、生きたウシの売買は行うものの、屠畜、精肉販売を行わないとされてきた。しかし、ギニアにおいては屠畜、精肉販売といった都市部への食糧供給プロセスがフルベによって行われるなど、他国で暮らすフルベとは異なる特徴を持つ。そこで本研究では、ギニア中部で暮らすフルベ社会で、ウシから肉へと商品化するプロセスがどのような論理のもとで実践されているかについて人類学的見地から明らかにする。
現在、アフリカでは都市部の人口増加によって安定した食糧供給が求められている。本研究の目的は、そのような食糧供給が社会制度だけではなく地域固有の文化や慣習といった側面によって支えられていることを明らかにすることである。その事例としてギニアの地方都市ラベにおけるフルベによる食肉供給に着目する。ラベはフルベが多く住む中部ギニアで最大の都市である。本研究の目的は、ラベにおける屠殺業者と精肉販売者によるウシを商品化するプロセスがこの土地に特有のものである可能性を示し、都市部の食肉産業を支える文化的背景を明らかにすることである。
今回のフィールドワークでは、まず、都市部における精肉販売者への聞き取り調査を、その後、屠殺業者への聞き取りを行った。精肉販売店に対しては、肉の仕入れを目的とした商業ネットワークがどのように形成されているのかについての質問を中心に行った。その過程で、ヒルサイベ(Hirrsaibhe)とフッタイベ(Huttaibhe)と呼称される2つの職業グループが屠殺の主なアクターであることが明らかとなった。前者は屠殺場でウシの首切りを行う人のことを指しており、限られた人間にしかできないとされる。ラベの屠殺場には2人しかヒルサイベがおらず、毎朝屠殺場に来なければならない。彼らは行政組織に依頼されて首切りの仕事を行なっているが、賃金は受け取っていない。その代わり、自身が首を切ったウシの喉の肉を受け取ることが認められている。一方で、フッタイベは首切りされたウシの解体作業から市場に食肉を届けるまでの業務を担う。毎朝屠殺場には15〜20人のフッタイベがウシを連れてきて肉の解体を行うのである。それ以外にフッタイベは屠殺前のウシの都市放牧をする役目も兼ねている。フッタイベは精肉販売者との“契約”に基づいて雇用されているが、賃金の支払いはなく、代わりに解体したウシの脚と皮と少量の肉をもらう権利が与えられる。このようにヒルサイベとフッタイベは食肉供給においてかなり重要な存在であるが、経済的には恵まれているとは言い難い。
調査助手を務めたフルベ人青年によるとヒルサイベとフッタイベはフルベではあるものの、フルベ社会の中では異質な存在として認識されているという。屠殺を認められているのはヒルサイベとフッタイベのみであり、それ以外のフルベは基本的に屠殺を行わないのだという。都市部の食肉供給を支えているのは、同じフルベという民族アイデンティティを共有しながらも、特別な地位を占める少数の屠殺業者の存在だったのである。
今回の調査では、屠殺業者に対して調査を始めるタイミングが遅れたため、彼らに関する十分なデータを集めることができなかった。しかし、彼らがこの土地における食肉供給において重要なアクターであることに加えて、フルベという民族の中でも特別な位置を占めていることは明らかにできた。そのため、今後は屠殺業者により着目し、彼らの生活を丁寧に追っていくことでフルベ社会と食肉供給という2つの文脈においてどのような立場に置かれているのかを明らかにしたい。
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