京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ギニア共和国におけるフルベ商人に関する研究 /都市部における食肉流通に着目して

マーケットに出回る牛肉。早朝に解体された牛肉は、トラックですぐにマーケットに輸送される。

対象とする問題の概要

 本研究の対象となるのは、ギニア都市部で経済活動に従事するフルベという民族である。フルベは西アフリカを中心に広く生活圏を築く民族であり、牧畜民として知られている。ウシをはじめ家畜に対して高い価値をおき、フルベの多くは、生きたウシの売買は行うものの、屠畜、精肉販売を行わないとされてきた。しかし、ギニアにおいては屠畜、精肉販売といった都市部への食糧供給プロセスがフルベによって行われるなど、他国で暮らすフルベとは異なる特徴を持つ。そこで本研究では、ギニア中部で暮らすフルベ社会で、ウシから肉へと商品化するプロセスがどのような論理のもとで実践されているかについて人類学的見地から明らかにする。

研究目的

 現在、アフリカでは都市部の人口増加によって安定した食糧供給が求められている。本研究の目的は、そのような食糧供給が社会制度だけではなく地域固有の文化や慣習といった側面によって支えられていることを明らかにすることである。その事例としてギニアの地方都市ラベにおけるフルベによる食肉供給に着目する。ラベはフルベが多く住む中部ギニアで最大の都市である。本研究の目的は、ラベにおける屠殺業者と精肉販売者によるウシを商品化するプロセスがこの土地に特有のものである可能性を示し、都市部の食肉産業を支える文化的背景を明らかにすることである。

屠殺が終わった後の屠殺場。毎朝20〜30頭のウシがここで屠殺される。

フィールドワークから得られた知見について

 今回のフィールドワークでは、まず、都市部における精肉販売者への聞き取り調査を、その後、屠殺業者への聞き取りを行った。精肉販売店に対しては、肉の仕入れを目的とした商業ネットワークがどのように形成されているのかについての質問を中心に行った。その過程で、ヒルサイベ(Hirrsaibhe)とフッタイベ(Huttaibhe)と呼称される2つの職業グループが屠殺の主なアクターであることが明らかとなった。前者は屠殺場でウシの首切りを行う人のことを指しており、限られた人間にしかできないとされる。ラベの屠殺場には2人しかヒルサイベがおらず、毎朝屠殺場に来なければならない。彼らは行政組織に依頼されて首切りの仕事を行なっているが、賃金は受け取っていない。その代わり、自身が首を切ったウシの喉の肉を受け取ることが認められている。一方で、フッタイベは首切りされたウシの解体作業から市場に食肉を届けるまでの業務を担う。毎朝屠殺場には15〜20人のフッタイベがウシを連れてきて肉の解体を行うのである。それ以外にフッタイベは屠殺前のウシの都市放牧をする役目も兼ねている。フッタイベは精肉販売者との“契約”に基づいて雇用されているが、賃金の支払いはなく、代わりに解体したウシの脚と皮と少量の肉をもらう権利が与えられる。このようにヒルサイベとフッタイベは食肉供給においてかなり重要な存在であるが、経済的には恵まれているとは言い難い。
 調査助手を務めたフルベ人青年によるとヒルサイベとフッタイベはフルベではあるものの、フルベ社会の中では異質な存在として認識されているという。屠殺を認められているのはヒルサイベとフッタイベのみであり、それ以外のフルベは基本的に屠殺を行わないのだという。都市部の食肉供給を支えているのは、同じフルベという民族アイデンティティを共有しながらも、特別な地位を占める少数の屠殺業者の存在だったのである。

反省と今後の展開

 今回の調査では、屠殺業者に対して調査を始めるタイミングが遅れたため、彼らに関する十分なデータを集めることができなかった。しかし、彼らがこの土地における食肉供給において重要なアクターであることに加えて、フルベという民族の中でも特別な位置を占めていることは明らかにできた。そのため、今後は屠殺業者により着目し、彼らの生活を丁寧に追っていくことでフルベ社会と食肉供給という2つの文脈においてどのような立場に置かれているのかを明らかにしたい。

  • レポート:宮城 敬(平成31年入学)
  • 派遣先国:ギニア共和国
  • 渡航期間:2019年9月4日から2019年11月26日
  • キーワード:フルベ、食肉流通、屠殺

関連するフィールドワーク・レポート

「物語」とは何か――『遠野物語』32話を主題とする芸術展の観察――

研究全体の概要  『遠野物語』の舞台である岩手県遠野市では、作中に登場する河童が赤いことが広く知られている。河童が赤い理由について、地域住民は、河童はかつて飢饉の時に口減らしのために川に捨てた赤子であるから赤いのだと語る。遠野郷土史研究を参…

ジブチ共和国における嗜好品カートの流通と販売に関する研究

対象とする問題の概要  東アフリカおよびイエメン地域ではカート(Catha edulis)というニシキギ科の植物が嗜好品として消費されている。カートについての研究はエチオピア、イエメンといった生産地を含む地域内での利用実態を対象としたものが…

ナミビア南部貧困地域における非就業者の扱われ方についての人類学的研究

対象とする問題の概要  ナミビア南部に主にナマ語を話す人々が生活する地域 がある [1] 。この地域は非就業率と貧困率が高く、多くの非就業者は収入のある者や年金受給者と共に生活し、その支援を受けている。1990年代初めに地域内の一村で調査を…

都市への移動と社会ネットワーク/モザンビーク島を事例に

対象とする問題の概要  アフリカ都市研究は、還流型の出稼ぎ民らが移動先の都市において出身農村のネットワークを拡大し濃密な集団的互助を行う様子を描いた。これらの研究は、人々が都市においてどのように結び付けられ、その中でどのように行為するのかに…

ガーナのワックスプリントを用いた文化の政治に関する研究――ナショナル・フライデー・ウェア・プログラムに着目して――

対象とする問題の概要  ワックスプリントとは、工場でバティック染めを模して作られ、サハラ以南アフリカ各地において衣服の仕立て等に使用されている色鮮やかな布のことである。このワックスプリントは、アフリカ地域で内発的に生まれた布ではなく、近代以…