京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

インドネシア・カリマンタンにおける森林保護の動向 /複数ステイクホルダーによる活動から

NGO職員と東カリマンタン州職員によるワークショップ

対象とする問題の概要

 2019年9月の国連気候変動サミットにおいて、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが環境問題に対する力強いスピーチが話題となった。彼女以前にも気候変動に対する警鐘は長きにわたってならされたはずであるが、この問題についての具体的な解決策はまだ見つかっていない。それどころか、アメリカのパリ協定離脱やブラジルの積極的アマゾン開発政策など、世界のある一方では真逆の方向に進んでいる。
 そのような2つの潮流はインドネシアの小さな農村でも似たような状況だ。寺内によれば、東カリマンタン州の農村部では、開発から富を得ようと考える住民とそうでない住民との間で摩擦が生じている。
 本研究ではインドネシアにおける様々なステイクホルダーを対象に調査を行い、インドネシアの社会構造を都市から農村まで垂直的に見ることによって、森林保護と農園開発に揺れる人々、対立する断層の構造を明らかにする。

研究目的

 本研究は森林火災の主な要因であるとされる大規模農園造成がもたらすアクター間の断層と摩擦に焦点を当てる。アブラヤシ農園を造成する際は、収益をあげるために大規模な面積を必要とするため、住民と企業の間で対立が生じやすい一方、企業から何らかの利益を享受する住民もいることから、農園開発に賛成の住民と反対の住民との間で対立を招く場合もある。開発に反対する住民には国際的な環境保護、先住民文化の保護など多種多様な団体が合流し、ときに反対運動を巻き起こしてきた。
 この対立は村の中ではなく、それぞれ、国際市場と環境保護の国際的な潮流からきている。そこで本研究はカリマンタン島の農村部の構造を分析しつつ、村の外を取り巻く環境というものにも注目して対立の原因と構造を明らかにする。

T村における聞き取り調査の様子

フィールドワークから得られた知見について

 今回のフィールドワークではインドネシア首都のジャカルタ(①)、西カリマンタン州都のポンティアナク(②)、東カリマンタン州の都市サマリンダ(③)、同州農村T(④)を訪問し、NGO(①②③)、林業会社(①のみ)、農村Tの元村長と住民(④のみ)にそれぞれ聞き取り調査を行った。
 今回訪問した対象者/団体において扱う課題はそれぞれ異なるものの、それぞれが連携しながら環境保護、あるいは先住民文化の保護プロジェクトを進めていた。民主化後、市民アクターが伸長し、政府が行う政策に提言をしている様子がうかがえた。その一方で、開発に賛同ないし賛成派を否定するような住民や団体にアクセスできなかったのは残念であった。
 当該調査で最も興味深く感じた点は、村においての開発拒否の経緯であろう。この地域では近隣の村同士で複雑な親族ネットワークが張り巡らされており、元村長は数十キロ離れた村の親族から農園開発がもたらす影響について話を聞いていた。その親戚の話は明るいものではなく、⑴村にもたらされる金銭が少ないこと⑵開発が進んでから森林の涵養機能が低下し、川の水位が低下したために船での行き来が難しくなったというのだ。この2点により、元村長はアブラヤシ企業からの話を断ったというのだ。
 私が知っているケースでは、村長やその下位に位置する区長が企業との金銭のやり取りの中で他の住民の同意なしに森林を売り渡してしまうことをよく聞いていたため、興味深い話であった。また、WWFインドネシアがこの村に入り、アブラヤシによる現金収入の代替案として炭素取引による現金収入の提案を行なっていたことも興味深い。

反省と今後の展開

 今回の調査では興味深い地域を見つけることができた。しかしながらこの村一つから何かを述べることは困難であるから、いくつかのケースと比較しなければならない。よって今後調査に赴く場合、他の村、地域に入る必要があるだろう。また、インドネシアには現地のNGO団体職員も把握しきれないほどのNGOが乱立し、多種多様な活動、住民のサポートを行なっている。今回の調査で明らかになったように、NGOだけではなく政府や企業など多種多様なアクターが関わっていることから村での調査だけでなく、それを取り巻く環境にも注視し続ける必要がある。 
 しかしながら今回の調査ではいくつかの関連するアクターに聞き取り調査を行えなかったから、アポイントメントをとって確実に行けるようにしたい。

参考文献

【1】UU Nomor 41 Tahun 1999 tentang Kehutanan.
【2】UU Nomor 18 Tahun 2004 tentang Perkebunan.
【3】UU Nomor 32 Tahun 2009 tentang Perlindungan dan Pengelolaan Lingkungan hidup.
【4】Crops and livestock products, FAO Stat, January 8 2020, http://www.fao.org/faostat/en/#data/TP.

  • レポート:谷島 亘(平成31年入学)
  • 派遣先国:インドネシア
  • 渡航期間:2019年8月4日から2019年9月28日
  • キーワード:インドネシア、森林保護

関連するフィールドワーク・レポート

日本及びマレーシアにおける高齢者の生活の質の向上につながるカフェの特徴及びその影響

研究全体の概要  日本におけるカフェ・喫茶店[1]及びマレーシアにおける伝統的な喫茶店(Kopitiam)は約1800年代後半に出現し普及した。明治時代に出現した日本の喫茶店は都市において西洋文化の普及、庶民への上流階級層の持つ知識の共有、…

DRコンゴ・ボノボとヒトの共生の場の人類学的研究

対象とする問題の概要  本研究の調査地であるワンバ(Wamba)周辺地域およびバリ(Mbali)地区は類人猿ボノボの生息域である。ワンバ周辺地域では1970年代からボノボの調査がはじまり、内戦時の調査中断とその後の再開を経て、現在までおよそ…

カメルーンのンキ国立公園におけるカメラトラップを用いた 食肉目の占有推定

対象とする問題の概要  食物網の高次消費者である食肉目は、草食動物の個体数調整などの生態学的機能を通じて、生物多様性の高い森林構成維持に関わる生態系内の重要な存在であるが、近年世界各地で食肉目の個体数減少が報告されており、その原因究明と保全…

湾岸域内関係の変容とカタルの政治・経済

対象とする問題の概要  湾岸地域の小国カタルは、域内の大国サウディアラビアとイランに挟まれている。これは地理的な関係のみならず、政治的にも両者との関係が発生することを意味している。サウディアラビアとイランは域内のライバルであることから、一方…