夢を奪われる在日クルド人の子どもたち――不安定な在留資格がもたらす教育への影響――
対象とする問題の概要 本研究で対象とするクルド人は、「国を持たない最大の民族」と言われる。クルド人とは、ティグリス・ユーフラテス川上流域や山岳地帯で遊牧生活を営み、独自の言語や文化を持つ先住民族である。しかし、居住域である「クルディスタン…
本研究の関心の対象はフィールド霊長類学者の長期野外研究拠点における研究者と地域住民の対面的相互行為である。調査地であるコンゴ民主共和国・ワンバ(Wamba)村周辺地域は類人猿ボノボの生息域である。1970年代から日本の学術調査隊によるボノボの調査がはじまり、現在まで40年以上にわたって研究が続けられている。
ワンバの研究体制の大きな特徴の一つとして、他の霊長類学の長期野外調査地と比較しても特に研究者と地域住民のかかわりが深いことが挙げられる。ワンバの霊長類研究者は、森を歩く、ボノボを探索する、個体の識別をするといった活動を研究者単独でおこなうのではない。トラッカーと呼ばれる調査を支援する地域住民(通称、森の案内人)との間でなされる言語・身体的な相互行為を通してそれら活動は成り立っている。
本研究の目的は、霊長類研究者とトラッカーという言語的・文化的に背景の異なるアクターの参与する活動がいかにして成り立っているのかを、対面的相互行為の観察・分析から明らかにすることにある。
霊長類学の黎明期より、日本の霊長類学の方法論・認識論は世界的にも非常にユニークなものと評価されてきた。例えば、サルの群れの個体ごとに特徴を見分け名前をつける「個体識別法」や、対象となるサルに人格を付与して自らの感情を移入する「共感法」といった擬人主義的な見方は、非科学的だと非難されつつも次第にその有効性が認められ、グローバルな標準として定着した。
本研究は、研究者以外のアクターも巻き込んだ微視的な相互行為分析という特徴により、このような日本の霊長類学の方法論・認識論の理解に対して新たな視点を与えることが期待できる。
以下の3つの場面を中心にビデオカメラによる録音・録画をおこない、きわだったやりとりの見られる部分を選択し現地アシスタントの協力を得てトランスクリプションを作成した。
(1)ボノボの個体識別場面
主に研究者1人トラッカー2人という体制でおこなう。新人研究者の場合、トラッカーが研究者に個体名を教示することが多い。「トラッカーを自分の目として使え」というベテラン研究者のアドバイスに顕著なように、調査のはじめは個の認知として識別するのではなくトラッカーとの相互行為を通して識別していることがわかる。ベテラン研究者の場合、自らの識別の確認・補助としてトラッカーを使うなど、相互行為の中の役割の配置に新人研究者との相違がみられる。
(2)ボノボの探索実践
研究者も同行するが主にトラッカー2人体制でおこなう。ボノボの集団を見失った場合に、足跡、食痕、鳴き声、匂いなどを頼りに森の中を探索する。「目、耳、鼻をよく澄ますことが肝心だ」とあるトラッカーが言うように、日ごろから森に親しんで生活する地域住民の間で共有される感覚や民俗知が活動の中で積極的に用いられる。一方で研究者が調査のために切り拓いた道の名前など、長期野外研究拠点という場に特有の背景知識を参照しながら探索をするようすも観察される。地域住民同士の相互行為は民俗知と研究者が持ち込んだ枠組みとを柔軟に活用しながら進行している。
(3)ラポールの場面
ラポールには研究者数名とトラッカーをはじめとした地域住民数十名が参加する。その日の調査に関する報告・記録、研究者からトラッカーへの仕事上の注意、トラッカーらから研究者への提言など会話の内容はさまざまである。ここでの相互行為の進行のためには、研究者が地域住民との会話に用いる言語に習熟していることのみならず、研究者とトラッカーの間でボノボの親子関係といった背景知識の共有を要する。
本研究で明らかになったことの一つに、霊長類研究者とトラッカーは言語的・文化的に背景が大きく異なるにもかかわらず、霊長類の長期野外研究拠点という共通のコンテクストを参照することで互いに折衝し相互行為を進行させていくということが挙げられる。またそれぞれの活動の中で研究者とトラッカーの役割の布置は一定ではなく、それは時間の経過によっても変化していく動的な過程であることも、研究者とトラッカーの相互行為を捉える上で重要な視点である。
対面的相互行為というミクロな現象が霊長類の長期野外研究拠点というより大きなコンテクストとの関係の中でいかに進行・展開しているのかについて、映像やトランスクリプトを利用した詳細な分析を進めることで今後より具体的に検討を加えていく。
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