熱帯地域の屋敷林内に生育する外来有用樹としてのマンゴー――マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園での調査報告――
対象とする問題の概要 自然保護・環境保全活動の使命のひとつは、固有種や在来生態系の保護である。そして外来種の移入は、在来生態系の脅威として問題視されている[鷲谷 2007]。保護区域によってカバーされる領域は地球上の自然環境を構成する非常…
本研究の調査地であるワンバ(Wamba)周辺地域およびバリ(Mbali)地区は類人猿ボノボの生息域である。ワンバ周辺地域では1970年代からボノボの調査がはじまり、内戦時の調査中断とその後の再開を経て、現在までおよそ40年間に及び日本の調査隊による学術調査が続いている。地理的には、ワンバ地域はコンゴ盆地一帯に広がる熱帯雨林のただ中に位置している。一方、バリ地区は21世紀初頭に、ボノボ個体群の生息が確認され学術調査がはじまった地域である。また、サバンナ域に森林がパッチ状に存在するという、従来ボノボが観測された生息地に比して特異な環境である。これらボノボの生息域には当然ながら人も居住しており、地域住民はは長い間ボノボと共生してきた。本研究は、そのような環境下で、地域住民がどのように生活を営んでいるのか、またボノボの研究・保護活動が盛んにおこなわれる中で、彼らの生活がいかに変容してきたのか/変容しつつあるのかを明らかにすることを目的とする。
本研究では、ヒトとボノボが共生してきた/している場においてその環境と地域住民がどのように関わりあっているのかを文化?生態?人類学的な研究により明らかにしていくことを目的とする。現在もおこなわれているボノボの生態研究と並行して、ヒトの側から生態学的あるいは文化的な研究をおこなうことで、ヒトの生活、ボノボの保護、自然環境の保全といった包括的な観点から、本調査地の今後や類人猿とヒトの共生に関する知見を提供することが可能になると期待される。
今回の渡航では、予備調査をおこなった。具体的は主に、村の人口や親族関係、生業の形態や内容の聞き取り調査、GPSを用いた生活空間の調査、狩猟や農耕といった生業への参与観察である。これらの調査によって対象地域の全体性をおおまかに把握することができた。以下では、調査で得られた結果ではなく、調査過程で得られた知見について少し詳しく述べる。
今回の調査では、「地域住民」と一口に言ってもボノボの生息環境に対するさまざまなかかわり合いが存在することがわかった。例えば、ボノボの生息環境の周辺で焼畑農耕や狩猟採集を営みボノボとは間接的なかかわりを持つものから、ボノボ研究者や国際NGOといった外部のアクターに雇用されるボノボを追跡する職業者(通称トラッカー)という直接的にボノボの生息環境に入るものまでおり、かかわり合いは一様ではない。「地域住民」を単色の存在として捉えるのではなく、ボノボおよびボノボの生息環境に対するかかわりのグラデーションを理解することが重要であることが今回の調査でわかった。加えてボノボとヒトの共生について考える上では、地域住民の生活のみに着目するのではなく、先に述べたような研究者や国際NGOといった外部のアクターとのかかわりまで含めた広い視座が必要であることもわかった。
以上のような観点から、地域住民として生活を営みながらも、ボノボ研究者という外部のアクターとのかかわりも密であるという境界的な性質を持つ存在として、上に述べたトラッカーという職業に注目し掘り下げていくことを考えた。しかし、今回の調査では、トラッカー数人の来歴の聞き取り、ボノボ研究者とトラッカーのボノボ調査への数回の参与観察のみにとどまり、まとまった知見を得るまでには至らなかった。
「予備調査によって今後の研究・調査を方向づける」というのが今回の渡航の目的のひとつであった。上述したように、トラッカーという存在に注目することで研究対象については焦点を絞ることができ、今後の足掛かりを得られた。しかし、どのような方法で、どのような観点で研究していくかについてはこれからより深めていかなければならない。現在のところ、トラッカーを単体として見ていくのみではなく、霊長類研究者とのあいだで交わされる相互的なやりとりといった両者の関係性を見ていくということを検討している。さらに、霊長類研究者-トラッカー関係というこの地域に特有なローカルな事象の記述を、いかにして普遍的な問題へつなげていくかということについても考えていく必要がある。
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