京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

マラウイ小規模農家へのし尿の農業利用促進に向けた伝達方法の比較

写真1 小規模農家に対してのワークショップ

対象とする問題の概要

 マラウイ共和国では極度の貧困状態と言われる1日2.15ドル以下で生活する人の割合が70.6%である [NSO 2021]。また、GDPの28%を農業が占め、農産物が輸出総額の9割を占める農業立国である。農家が総人口の80%以上を占め、そのうち75%以上が農村に住む家族労働を主体とする小規模農家である [FAO 2018]。このように小規模農家はマラウイの農業従事者の大部分であるが、天候不順や価格変動などの外的ショック、政府支援の縮小などのリスクの影響を受けやすい [原島2011]。化学肥料の価格は2021年に比べ2倍以上になっていることから、農業を基盤とする国のマラウイでは、化学肥料に代替する肥料に対する期待が高まっている。

研究目的

 研究目的はマラウイの小規模農家に、肥料不足の問題の解決、暮らし向上につながるし尿の農業利用を促進することである。また、農家がし尿の農業利用行動に至る大きな要因の一つには土壌改善需要で、そのためにはし尿の肥料効果の認識が必要である [Lagerkvist et al. 2015]。よって圃場を使った実験にて、肥料効果を実証し、実証実験の結果を踏まえたワークショップを複数の情報伝達方法で行う。伝達方法の違いによって理解度、受容度、モチベーション、その後の定着状況が変わることが分かっている [佐々木ほか 2012]ため、伝達方法を比較することで、し尿の肥料効果を効果的に伝達する方法を検討する。

写真2 動画視聴グループにメイズ生長動画を見せている様子

フィールドワークから得られた知見について

 日本の教育現場において、インターバル撮影をした動画が、植物生長などの変化を理解しやすくすることが分かっている [水谷ほか 2022]。このことから、し尿とそれ以外の肥料ごとのメイズの生長の様子をインターバル撮影、編集した動画を小規模農家に見せることで、し尿の肥料効果の理解、農業利用の促進につながるのではないかという仮説を立てた。これに基づき、前回のフィールドワークでは、圃場実験と撮影を行い、今回はその結果を編集した動画を利用し、小規模農家に対して3つの村でワークショップを行った。対照実験として、同じ内容で写真と口頭説明を加えた。ワークショップ前後に5段階のリッカート尺度で、この満足度、理解度、肥料効果、収量増加、他者推薦度、使用意欲について、現地語を話せるアシスタントが一人一人に聞き取り調査を実施した。ワークショップ後のアンケート結果、ワークショップ前からの各項目の評価点(5段階)の伸び率は、満足度、理解度、他者推薦度、使用意欲については口頭説明が最も高く、収量増加と肥料効果については口頭説明と動画がほぼ同じくらい効果的であった。口頭説明の話し手は身振り手振りを交えながら、テンポよく話し、時には参加者からの笑い声も確認できた。宣教師などの布教は口頭で行われ、植民地時代以降の農業技術導入の際にも宗主国や開発機関などの外部者から現地農家に対面でのデモンストレーションを通じて行われてきた [Havnevik et al. 2007]。よって今回のワークショップでも口頭説明は、従来からの説明方法に近く、馴染みのない動画より受け入れやすかった可能性も考えられる。他の国での事例の結果が必ずしもアフリカ諸国にあてはまるわけではないということが今回の結果から得られた。

反省と今後の展開

 いずれの伝達方法が参加者のし尿の農業利用を促進し,持続させたのかを判断するにはワークショップ直後だけでなく、半年後、1年後等に、参加者の行動がどう変化したのかを長期的に追跡調査、フォローアップする必要があるが、今回はワークショップ後の参加者の満足度、理解度、他者推薦度、ワークショップ前後での肥料効果認識度、収量増加認識度、使用意欲の変化だけを測定した。今後、ワークショップ参加者の行動変容度(持続的なし尿の農業利用の実現度合い)を測るには、プロジェクト終了後も地域と連携をし、調査を続ける必要がある。

参考文献

 Havnevik, K., D. Bryceson, L. E. Birgegård, P. Matondi and Beyene, A. 2007. African agriculture and the World Bank: development or impoverishment?. Nordiska Afrikainstitutet.
 Lagerkvist, C. J., K. Shikuku, J. Okello, N. Karanja, and C. Ackello-Ogutu. 2015. A conceptual approach for measuring farmers’ attitudes to integrated soil fertility management in Kenya. NJAS-Wageningen Journal of Life Sciences 74, 17-26.
 佐々木夕子・伊ヶ崎健大・田中樹・真常仁志・飛田哲. 2012.「西アフリカ・サヘル地域の村落において外部技術の導入経緯がその後の普及状況に与える影響」『システム農学』28(2): 73-83.
 原島梓.2011.『マラウイの農業政策と小農民の反応に関する実証研究』
 水谷好成,金澤俊成.2022.「タイムラプスに注目した遠隔指導対応可能な栽培学習の実践と提案」『宮城教育大学情報活用能力育成機構研究紀要』(2): 71-79.
 Food and Agricultural Organization of the United Nations (FAO). 2018. Country factsheet on small family farms: Malawi. https://www.fao.org/documents/card/en/c/I8912EN/(2023年12月7日閲覧)
 National Statistical Office (NSO). 2021. Malawi Poverty Report 2020. (2023年12月7日閲覧)

  • レポート:吉村 龍典(2022年入学)
  • 派遣先国:マラウイ共和国
  • 渡航期間:2023年10月1日から2023年11月19日
  • キーワード:マラウイ小規模農家、し尿農業利用、エコロジカルサニテーション

関連するフィールドワーク・レポート

キャッサバ利用の変化と嗜好性からみるタンザニアの食の動態

対象とする問題の概要  キャッサバは中南米原産の根菜作物であり、現在世界中でさまざまに加工・調理され食べられている。タンザニアでもキャッサバはトウモロコシやコメとならんで最も重要な主食食材の1つである。キャッサバを主食としていない地域でも、…

ウガンダ都市部におけるインフォーマリティに関する研究/バイクタクシー運転手を事例として

対象とする問題の概要  ILOは、発展途上国における都市雑業層をインフォーマル・セクター(以下、ISと略記)と定義し、工業化が進めばフォーマル・セクター(以下、FSと略記)が拡大して、ISは解消すると予測した(ILO, 1972)。しかし、…

焼物を介した人とモノの関係性 ――沖縄県壺屋焼・読谷村焼の事例から――

研究全体の概要  沖縄県で焼物は、当地の方言で「やちむん」と称され親しまれている。その中でも、壺屋焼は沖縄県の伝統工芸品に指定されており、その系譜を受け継ぐ読谷山焼も県内外問わず愛好家を多く獲得している。 本研究ではそのような壺屋焼・読谷村…

近代教育と牧畜運営のはざまで――ケニア、コイラレ地区における就学の動機――

対象とする問題の概要  1963年に英国からの独立を果たしたケニアでは、国家開発のためのさまざまな教育開発事業が取り進められてきた。例えば、2003年に初等教育無償化政策が導入され、それによって子どもの就学率が急速に増加した。また近年では、…

都市周縁に生きる人々と政治的暴力の関係についての研究――ザンビアの鉱業都市の事例――

対象とする問題の概要  独立後のアフリカ諸国の特徴のひとつとして、都市への急激な人口流入が挙げられる。この人口流入は、独立後の都市偏重型開発政策によって広がった都市と農村の所得格差、雇用機会の安定性の相違によって、都市における労働力需要を超…