京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ルサカ市周縁の未計画居住区における生活環境の糞便汚染実態の調査

写真1 Communal tap

対象とする問題の概要

 下痢は世界における死因の中で最も重大なものの1つである。特にアフリカでは下痢は重大な問題で、2019年に世界で150万人の人が下痢が原因で亡くなっているが、その約3分の1となる49万6千人がアフリカで亡くなったと報告されている[WHO]。下痢を防ぐうえでWASH(水、サニテーション、ハイジーン)が果たす役割は重要である。2019年にはWASHが不十分であることが原因で100万人以上の人が亡くなったとされている[WHO]。近年サハラ以南のアフリカでは都市部の人口が急速に増加しているが、サニテーションの普及率はいまだに低い状況にある。衛生環境の悪い状況では糞便汚染が生活環境に蔓延し、下痢のリスクが増加する。本研究ではそのような現状にある、ザンビアの首都ルサカ市周縁の未計画居住区を対象に衛生環境の現状を調査した。

研究目的

 本研究では、ルサカ市周縁の未計画居住区の1つであるChawama地区の生活環境の衛生状態、特に生活用水に焦点を当てて、その汚染状況の実態を明らかにすることを目的とした。まず調査地における聞き取りや観察を通じて、生活用水の取得の仕方やその管理方法など現地住民の水の扱い方について調査した。さらに水質の定量的な分析を進めるため水試料をサンプリングした。その際生活環境の衛生状況も併せて分析するため、コップなどの生活用品や、トイレやキッチンの床からもスワブすることで試料をサンプリングした。その後実験室内で、調査地で得られた試料から糞便汚染の指標の1つである大腸菌および大腸菌群を培養し、汚染状況を数値化した。そしてフィールドおよび実験室から得られたこれらのデータをもとにChawama地区における生活用水の汚染状況を総合的に評価した。

写真2 水のサンプリングの様子

フィールドワークから得られた知見について

 まず現地住民の水の扱い方について述べる。Chawama地区において住民たちが水を得るための水道栓はCommunal tapとPrivate tapという2種類に大別された。Communal tapはその周辺に住む世帯で共有して利用されており、20世帯程度と多くの世帯に共有されていることが特徴であった。Tap Attendanceという管理人がおり、住民はその人に料金を支払うことで水を取得することができる。一方で、Private tapは1つのコンパウンド内に住む数世帯でのみ共有されていた。Communal tap は1日の内で利用できる時間が限られているのに対して、Private tapは任意の時間で利用できる場合が多かった。Private tapのないコンパウンドに住む世帯がCommunal tapを利用することになるが、Private tapが断水などで機能しない状況ではPrivate tapを共有している世帯もCommunal tapを利用する場合があった。いずれの水道栓もほとんどの場合屋外に位置しており、住民たちは20 L程度の容量のバケツを各々で用意し、水道栓で水を満たし自宅へ運んでいた。水を満たしたバケツを自宅にストックし様々な用途で利用していた。               
 続いて、実験から得られたデータをもとにChawama地区の衛生状況について述べる。水については、水道栓、及びバケツに貯留している水からサンプリングした。基本的に水道栓から得られた水サンプルからは大腸菌は検出されなかったものの、バケツ内から得た水サンプルの中には多数の大腸菌が検出されたものもあった。複数の家庭のコップから得られた試料からも大腸菌が検出された。したがって水を取水・運搬・貯留・利用している過程で汚染が進んでいることが予想され、不衛生な生活環境が生活用水の汚染に関係していることが推測された。供給源の水の水質に問題がなかったとしても、実際に利用する際に汚染されているということは問題である。

反省と今後の展開

 今回は初めての渡航であり、調査地の全体像をつかむことに時間を費やした。本格的な調査に入る前の予備調査的な意味合いが強く、衛生状態を中心とした調査地の生活環境の様子を概略的には理解することができたものの、興味深いテーマをより深く掘り下げることができなかった。また実験室での実験についても日本ほど設備が充実していない環境での作業に慣れるまで時間を要した。今後は、今回の調査で知ることのできた現地の状況を踏まえた調査が可能となるので、より洗練された研究計画を立てて渡航したいと考えている。

参考文献

 WHO.https://www.who.int/data/stories/leading-causes-of-death-and-disability-2000-2019-a-visual-summary(2023年12月05日)
 WHO.https://www.who.int/data/gho/data/themes/topics/water-sanitation-and-hygiene-burden-of-disease(2023年12月05日)

  • レポート:髙橋 侃凱(2023年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2023年9月11日から2023年11月16日
  • キーワード:アフリカ地域研究専攻、ザンビア、水、衛生

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