From Gambling to Investment: Commercial banana production in Lao PDR
Research background China is currently the largest foreign investor in Laos and banana investment is the largest fruit …
南アジア社会における女性研究では、世俗としての家族と現世放棄としての出家という二項対立的な女性のライフコース選択は自明のものとされてきた。特に、女性のセクシュアリティは危険なものとされ、家族や宗教といった制度によってコントロールされるべきであり(八木祐子 1999)、それ以外の生き方を選択するということは、逸脱者として周縁的な立場に置かれることを意味していた。しかし、ブータン社会においてシングル女性は必ずしも制度や規範からの逸脱者として位置づけられていない。彼女たちは制度との関係を取捨選択し、自らの立ち位置をずらしながら、制度の内で生きている。本研究では、こうしたシングル女性を中心に据えつつ、「一般的」な既婚女性や出家して尼僧となった女性たちの生活世界をも見直し、ブータン女性のライフコースを丹念に見ることで、「女性がシングルとして生きる」ということが逸脱にならない社会のありようを明らかにする。
本研究の目的は、ブータン社会において「女性として生きる」とはどういうことか、女性たちの宗教実践とライフコースの選択を観察することを通して明らかにすることである。ブータン社会では、女性のライフコースの選択は出家か結婚という二者択一ではない。第三の選択肢、「在家であっても尼僧としてシングルとして生きる」という選択が可能であり、こうしたシングルとしての生き方が準制度として社会的に構築されつつある可能性がある。本研究では「一般的」な既婚女性、出家者、そしてシングル女性という三者に着目し、(a) 現代ブータン社会における女性の生き方の多元性、(b)宗教実践を通してみるブータン仏教の包摂性、(c)「はざま」に生きることを可能にする社会文化制度、を検討することで、女性たちの多元的な生き方を可能にしているブータン社会の宗教的諸相とジェンダーの関わりを明らかにする。また、ゾンカ語の習得も今回の渡航の目的の一つである。
今回のフィールドワークは上述した研究を遂行する為の予備調査と位置づけ、渡航中は主に言語習得、調査地の選定、研究の基礎となる情報の収集に努めた。日程の前半は受入機関であるシェルブツェ大学に滞在し、女性のライフコースに関する研究をする上で参考になるであろう、ジェンダーやブータン社会に関する授業を聴講した。また、家庭教師を雇いつつ、近隣の小学校にも通うことで現地語であるゾンカ語の習得に励んだ。
日程の後半は、主にパロ県とプナカ県の村落域での調査地の選定や、ティンプー市内・ティンプー郊外において女性たちを対象にライフコース選択に関するインタビューを行った。また、今回の滞在では、尼僧院を支援する団体である Bhutan Nuns Foundationへの訪問や、東部にある数箇所の尼僧院での滞在をとおし、(a) 現代ブータン社会における女性の生き方の多元性、の一側面である、尼僧としての生き方について理解を深めることができた。
ブータンに尼僧院が初めて設立されたのは 1980 年代に入ってからのことである。現在国内には 28 の尼僧院が存在し、そこで約 1000 人の尼僧が生活を送っている。彼女たちが出家を志した理由として様々な要因が挙げられるが、中には家庭内暴力や離婚、煩わしい家族関係からの逃避先として選んだという人、学校での落第や就職失敗を機に出家したという人もおり、尼僧院がシェルターやソーシャルセキュリティーの一つとして機能していることが明らかになった。また、出家が制度化されていた(Tsunthrel)男性と比べると、そのような規律が存在せず、尼僧院の数も限られている女性にとって、出家は容易に取りうる身近な選択肢とは言い難い。こうしたことから、「尼僧になる」という選択肢は、近年になり社会構造の変化と相まって広がり始めた新たな動きである可能性が高いのではないかと推測される。
これまでの研究では、女性のライフコース選択について分析する方法として、特に本人たちのエイジェンシーや家族・親族との関係性に焦点を当ててきた。勿論、本研究を進める上でそれらは大事な要素であり、今後も観察を続けていく必要がある。しかし、それに加え本調査では、社会変化や経済状況等が女性たちの選択に及ぼす影響についてもより深い考察をする必要性があると感じた。
また、今回のフィールドワークは時間や制度との兼ね合いもあり、広く浅くの表面的な調査になってしまった。特に、村落域での調査は、ゾンカ語が目指していたほどの習熟に至らなかったこともあって、村の人たちから深く話を聞くことは叶わなかった。次回の調査までにゾンカ語の運用能力を向上させられるよう尽力していきたい。
【1】八木祐子.1999.「結婚・家族・女性―北インド農村社会の変容」窪田幸子・八木祐子編
『社会変容と女性―ジェンダーの文化人類学』ナカニシヤ出版,36-65
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