京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ガーナにおける呪術実践の現状――伝統司祭への聞き取りから見る人々の選択――

写真1 アンロガの女性司祭のshrine(呪術実践を行う場)(2025年11月12日撮影)

対象とする問題の概要

 ガーナにおいて呪術とは、伝統宗教に基づき、霊の存在から不幸や病気の原因を理解し、それに対処するための実践を指す。人々は神託や儀礼などの呪術実践を行う伝統司祭のもとを訪れ、不幸や病気の原因究明と解決を求める。
 そのようなガーナ社会において、現在キリスト教徒は人口の約70%を占めるほど拡大し、人口増加にともなって増え続けている。その一方で伝統宗教の割合は2010年の11.2%から2021年には8.8%へと減少している [Abrahams-Appiah 2023: 460]。
 キリスト教の中でも、ペンテコステ派/カリスマティック教会の信者は最も多くの割合を占め、社会において強い影響力を持っている。ペンテコステ派/カリスマティック教会は、「聖霊の力の直接体験」を重視する一方で、悪魔祓いを行うなど、呪術と対立する立場をとっている。
 先行研究の多くはキリスト教側の視点に立ち、キリスト教と伝統宗教との敵対関係を論じてきたが、呪術実践の現状を十分に扱ってこなかった。

研究目的

 本研究は、ガーナの農村部アンロガ(Anloga)および都市部クマシ(Kumasi)におけるフィールドワークをもとに、呪術実践を担う伝統司祭へのインタビューを中心として、現代における呪術実践の実態を明らかにすることを目的とする。
 具体的には、司祭がどのような呪術実践を行っているのか、どのような人々がどのような悩みを抱えて訪れるのか、また過去と比べて来訪者に変化がみられるのかといった点に注目する。さらに、キリスト教との関係について司祭自身がどのように捉えているのかを明らかにし、呪術が現在どのような位置づけにあるのかを検討する。
 加えて、農村部アグボズメ(Agbozume)において、伝統宗教の信者やカリスマティック教会の信者・牧師への聞き取りも行い、複数の視点から呪術実践を捉えることを目指す。

写真2 アグボズメのカリスマティック教会「Path of Life」の 2025年度最後の日曜礼拝の様子(2025年12月28日撮影)

フィールドワークから得られた知見について

 司祭たちは呪術を否定的なものとしてではなく、「世界の力そのもの」「神から与えられた力」と捉えていた。ヨーロッパ式教育の導入によって呪術や伝統が正しく理解されなくなったという指摘もあり、司祭側は呪術を危険視する現在の風潮に違和感を抱いていることがうかがえた。ある司祭は日常的な会話の中で「アーメン」という言葉を用いており、キリスト教と伝統宗教の神は同一であるという認識が共有されていた。また、司祭の中には聖書を用いて精霊を呼び寄せ、呪術実践を行う者もおり、両宗教の要素が実践の中で混在している様子が確認できた。白人が後から聖書を持ち込んだのであり、もともとこの地には伝統的信仰があったという語りも聞かれ、司祭側はキリスト教と自らの信仰を対立的には捉えていないことがわかる。
 来訪者の実態を見ると、アンロガでは近年、来訪者の数が増えないという声があり、その背景には教会の牧師が伝統宗教を認めず、信者に来訪を止めている状況があるという。一方、クマシでは短時間のうちに複数の来訪者が訪れる司祭もおり、地域差が確認できた。来訪者の多くは病院に行っても解決しない問題を抱えて訪れ、呪術実践が現代医療と共に機能していることが伺える。
 また呪術実践は宗教行為であると同時に経済活動としても成立していた。儀礼では高額な支払いが見られ、看板を掲げて営業する女性司祭も存在した。護符や呪物の制作所では実際に注文をする人の存在も確認でき、呪術への需要が現在も続いていることが明らかになった。
 一方、キリスト教徒への聞き取りでは、呪術は恐れるべき存在として語られ、特にカリスマティック教会では説教の中でよくないものとして頻繁に言及されていた。しかし司祭側には強い対立意識は見られず、この関係性には非対称性があることが示された。

反省と今後の展開

 本調査では、同一人物への継続的な聞き取りができなかったため、実践の変化やその後の経過まで十分に追跡できなかった点が反省点として挙げられる。また、司祭への聞き取りが中心となり、実際の訪問者に直接インタビューできなかったことで、なぜ呪術を選択したのかという当事者の意思決定過程を十分に明らかにできなかった。さらに、複数地域で調査を行ったことで、各フィールドへの関わりが浅くなり、研究課題や質問項目を十分に絞りきれなかった点も課題である。
 今後は、訪問者や呪術を選ばなかった人々への聞き取りを行い、選択の背景を多角的に明らかにしたい。また、同一人物への継続調査を通じて、呪術実践が今後も人々の選択肢として他宗教と共存していくのか、フィールドの場所を絞って検討していきたい。

参考文献

 Abrahams-Appiah, E J. 2023. Ghana to Become a Majority Muslim Nation by 2096: A Critical Examination of Ghana’s 2000, 2010, 2021 Censuses and Its Implications for Christian Missions, E-Journal of Religious and Theological Studies (ERATS)9(9): 455-471.

  • レポート:サノゴ 芙挺真(2025年入学)
  • 派遣先国:ガーナ共和国
  • 渡航期間:2025年10月7日から2026年1月9日
  • キーワード:ガーナ、呪術、キリスト教

関連するフィールドワーク・レポート

セネガルにおけるグラフィティの流行とその役割

対象とする問題の概要  セネガル共和国(以下セネガル)の都市部の壁には、多くの落書きや壁画が描かれている。それらは「グラフィティ」あるいは「ストリートアート」として市街の風景に溶け込み、グラフィティを描く人びとは、自らを「グラファー」や「ア…

西アフリカにおける装いの実践 ――布を仕立てた衣服の着用にみる価値観――

研究全体の概要  西アフリカは、サブサハラアフリカの中でも布を仕立てた服の着用が多く見受けられる地域である。人々は市場で布を買い、布を仕立屋に持っていき、自分好みのスタイルに仕立てる。布で仕立てた服は日常着から結婚式などの特別着としてまで幅…

ミャンマーにおける向都移動/エーヤワディー・デルタからヤンゴン・ラインタヤ地区へ

対象とする問題の概要  向都移動とは農村部から都市部へ向かう人口移動のことである。ヤンゴンでは現在、都市周辺部において工業団地の建設が進んでいる。その中で1番最初に開発され、ミャンマーにおいて最大の工業地区となっているのが、ヤンゴン北西部の…

住民組織から見る、ジャカルタ首都圏における空間政治

対象とする問題の概要  インドネシアにはRT・RWと呼ばれる住民主体の近隣地区自治組織(以後、住民組織)がある。日本軍占領下時代に導入された隣組から行政の延長として整備された住民組織は、30年以上続いたスハルト開発独裁体制の最末端を担った。…

ネパールにおける高カースト・ヒンドゥーと先住民族の対立について ――「牛」を事例に――

対象とする問題の概要  ネパールでは 1990 年の民主化まで、王制、ネパール語、そしてヒンドゥー教を 3 本柱とした国民統合政策が実施されていた。そのため、非ヒンドゥー教徒などは自らの文化・宗教実践が認められず、様々なヒンドゥー儀礼の実践…