京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

カメルーン農村におけるキャッサバ生産・加工の商業化に関する研究/住民によるキャッサバ改良品種の受容に注目して

92/0326というキャッサバ改良品種の芋

対象とする問題の概要

 カメルーン南部州のエボロワの近郊にある調査地では、政府、国際機関、日本の援助機関が森林保全、住民の現金収入の増加を目的にキャッサバ・プロジェクトを実施し、キャッサバの生産・加工の商業化を促進するため、多収で耐病性のある改良品種の普及、加工施設の建設を行なってきた。プロジェクトは一部の住民に恩恵をもたらしたが、親族集団間での不平等な利益分配、キャッサバの品種に対する住民の嗜好といった問題も引き起こした。

研究目的

 研究目的は住民生活への農業の商業化の影響、プロジェクトに対する住民の反応、プロジェクトの実施過程で生じる問題を明らかにすることで、キャッサバの品種に対する住民の認識、キャッサバの加工をめぐる住民の関係に着目した。キャッサバの品種に対する住民の嗜好・利用を知るために、キャッサバ改良品種を受け取った26人の住民に聞き取り調査を行ない、また、他人のキャッサバでウォーターフフ(写真)という加工品を作る若い男性の仕事から誰が恩恵を受けているかを知るために、その仕事を観察した。

ウォーターフフというキャッサバ加工品

フィールドワークから得られた知見について

 親族集団Aに属するこの若い男性はウォーターフフを作るために親族集団Aからのみキャッサバを購入するが、自身の商売のためには、親族集団Aとの関係が悪い親族集団Bの労働者を多く雇用する。親族集団Aの多くはキャッサバ改良品種と大きなキャッサバ畑をもっているため、彼はもっぱら親族集団Aからキャッサバを購入する。また、自身の親族集団Aが妬んで仕事を手伝ってくれず、親族集団Bの労働者を多く雇っている。親族集団Aの社会内には多くの相互扶助活動が存在するが、親族の成功を望まない者に妬まれることもある。 また、住民のキャッサバへの認識を調べたところ、芋・葉の多収性と味、耐病性、芋の筋の少なさという利点から92/0326というキャッサバ改良品種を好むことがわかった。他の2つのキャッサバ改良品種は、芋が苦く、筋を多く含むため、あまり好まれない。

注:キャッサバの品種名を知らない回答者は、好きな・嫌いなキャッサバの特徴を説明した。

反省と今後の展開

 さらなる研究のためには、キャッサバの品種の認識・利用に関する地方市場のキャッサバ転売者への聞き取り、若い男性のウォーターフフを購入して加工・販売する人々を含むキャッサバ加工業者の仕事の参与観察による調査が重要である。

  • レポート:魚住 耕司(平成26年(編)入学)
  • 派遣先国:カメルーン国
  • 渡航期間:2020年2月9日から2020年4月1日
  • キーワード:キャッサバ、改良品種、商業化

関連するフィールドワーク・レポート

アフリカ同時代美術とその表象:コンゴ人芸術家の美術活動に着目して/アール・ポピュレールの地域的表象

対象とする問題の概要  アフリカ現代美術は,『大地の魔術師』展(89年パリ・ポンピドゥセンター)を契機として欧米のアートワールドで大きく扱われるようになった。「黒人美術」「原始美術」における「原初」性「神秘」性のみの称揚といった批判に対応し…

ミャンマー・シャン州南部の農業システムにおけるヤマチャ利用

対象とする問題の概要  東南アジア大陸部山地では急激な森林減少が観測されており、原因の一つとして農地の拡大が指摘されている。ゴム等の大規模プランテーションや換金作物の集約的栽培は、森林破壊だけでなく、不安定な価格に伴う経済的リスクの増大等、…

エチオピアにおける伝統的ダンスの継承と新たな表現の創造

対象とする問題の概要  アフリカにおいて、伝統的ダンス(以下、「ダンス」と表記)は結婚式、収穫祭などコミュニティにおける冠婚葬祭の重要な場面で演じられるとともに、コミュニケーションや娯楽のツールにもなっている。エチオピアの首都アディスアベバ…

「自然-社会的なもの」としての水の利用・分配に関する研究――東アフリカ乾燥地の町における事例をもとに――

対象とする問題の概要  東アフリカの乾燥・半乾燥地域に分布する牧畜社会を対象にした民族誌的研究では、「水」は不足しがちな天然資源として捉えられてきた。そして、水不足の問題が人道的・倫理的な介入の対象となってきた。それゆえ、この地域を対象にし…

ミャンマーにおける農山村地域の生業の変遷

対象とする問題の概要  私はこれまで、ミャンマー・バゴー山地においてダム移転村落に暮らすカレンの人々の焼畑システムの変遷と生業戦略についてフィールドワーク及び論文執筆を行ってきた。ミャンマー国内の情勢は近年大きく変化している。調査対象地の村…