現代イスラーム世界における伝統的相互扶助制度の再興と新展開――マレーシアのワクフ制度に注目して――
研究全体の概要 本研究は、ワクフ制度と呼ばれるイスラーム世界独自の財産寄進制度に焦点を当て、その再興が見られるマレーシアに着目し、その実態を解明することを目指す。 ワクフ制度とは、収益化できる財産を持つ者が、そこから得られる収益を特定の慈…
2017年時点におけるスーダンの人口増加率は約2.4%と高く、全人口のうち40歳以下が80%を占めている。2017年の失業率は約12.7%、物価も上昇し続けており、経済状況は悪化し続けている。(World Bank 2018) 貧困層や障がい者への支援や生活環境の改善などをおこなう行政サービスも、より手薄になってきている。このような社会経済状況の中で、スーダンの若者にとって、どのような仕事に就くかは重要な選択であると考えられる。
首都ハルツームでは、若者たちが主体となって、上記の社会経済的な問題に対処するために組織されたNGOが年々増加している。NGOを管轄するハルツーム社会開発省には、2018年時点で3000団体以上が登録され、その数は10年で2.5倍以上に増えた。このような中で、より持続的な活動を目指して運営されているコワーキングスペース(以下CWS)を見いだした。
ハルツームにおける社会経済問題の動向を捉えるために、NGOの活動を通して社会問題に関わろうとする若者に注目することは、現在のスーダンの人口構成から見ても重要である。本研究の目的は、ハルツームにおいて、(1) 先述のCWSにおいてNGO活動に参画する若者たちが、どのような動機の元に活動しているのかを描き出し、(2)彼ら/彼女らにとっての、このCWSが果たす役割、地域の社会問題との連関や影響を明らかにすることにある。
今回のフィールドワークでは、先述のCWSにおいて活動に参画する若者に聞き取り調査を実施した。
このCWSは、視覚障害者の支援を目的とした音声教材を製作しているNGO(写真1)、持続的な団体づくりを目的にNGOなどの団体へキャパシティビルディング講習をおこなうNGO(写真2)、社会起業を通して環境問題の改善を目指すNGO、の計3つのNGOによって運営されている。これらのNGOの主要メンバーである、20代前半〜30代後半の男性6人女性9人から、活動の背景や参画の動機などについて聞き取り調査をおこなった。その結果、男性ひとりを除いた全員が大卒以上であり、有給メンバーの12人の月給は、同年代の公務員の2倍以上であることがわかった。メンバーの両親や兄弟、同居者のほぼ全員が高等教育を受けており、そのうちの誰かが海外で働いていたり、高給取りであったりして、困窮しているメンバーはいなかった。また、無給のメンバー3名も、別に有給の職業をもっていたり、両親などから援助をうけており、NGOやボランティアの活動は、経験や人脈を得る良い機会だと考えて活動していた。
この3つのNGOは、共同して援助機関によるトレーニングに参加したり、事業計画書の書き方の講習を開催したりと、NGO活動に欠かせない経験や、援助機関との人脈を得られるようなネットワークを構築している。このCWSは、参画者のキャリアデベロップメントと人脈作りの機会をもたらすものとして役立っており、NGOの持続的な活動にも貢献している。政府に登録されているNGOの活動は、ナショナルサービス [1] とみなされる。男女各1名のメンバーは、ナショナルサービスとして活動に参画していた。メンバーの動機には、経験や人脈だけでなく、高給であることやナショナルサービスの代替として活用できるという利点もうかがえた。
[1] الزامية حدمة hidma ilzamiya:直訳すると「義務サービス」。現在は義務ではなく、高等教育を受けた後に1年間公務に就く制度である。健康な男性の場合は徴兵となる場合もある。これを完了すると証明書が発行され、公務員や外資系企業に就職する際有利になったり、海外に出るときに手数料を払わなくて済んだりする。
渡航期間をラマダン明けのイードと、犠牲祭のイードの間に設定したため、調査対象である事務所の休暇期間と重なってしまった。そのため、聞き取り調査の時間が予定通りには確保できなかった。前回の反省点であったビザの延長は最小限の手続きで手際よく完了させることができ、効率的に時間を使って、円滑な調査が実施できた。調査対象を絞ったことにより、より詳細な情報を入手することができた。今回得たデータを生かして博士予備論文の執筆をおこなう。
【1】World Bank Data Bank http://databank.worldbank.org/data/home.asp (2018年11月6日閲覧)
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