京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

クルアーン学校を「近代化」するとはどういうことか/カメルーン・ヤウンデの事例

「近代的」クルアーン学校の例

対象とする問題の概要

 カメルーンを含む西アフリカのムスリムたちは、こどもたちにクルアーンの読み方や初歩的なイスラームの知識を教える、クルアーン学校(coranic schools)と呼ばれる組織をもっている。クルアーン学校は、ムスリムたちの暮らす場所には必ず存在するが、植民地支配による公教育やミッション系学校の出現以降、相対的に重要性が低下しているといわれる。その結果、クルアーン学校をはじめとするイスラーム教育の「近代化」改革が、西アフリカ各地で進められてきた。これら改革についてはこれまで、制度(国家の公認)、インフラ(教室の使用)、教育手法(集団指導)といった側面や、それを取り巻く環境との関係といった観点から論じられてきた。しかし、そうした様々な改革が具体的にどのような方法で導入され拡大されるのかについての詳細な記述の試みは、いまだ着手されたばかりという状況にある(Launay 2016)。

研究目的

 筆者の調査地であるカメルーン・ヤウンデでは、しばしば「私のクルアーン学校は『近代的』だ」とか、「クルアーン学校の『近代化』をしたい」と述べる者に出会う(写真1)。彼ら彼女らにとっての「近代化」なるものは、これまで指摘されている近代化改革の特徴と、公立学校の教室を使用するといったインフラ面で、部分的に重なり合う。しかし、制度的には国家による公認を目指すことはないといったように、先行研究における類型化に完全におさまるものではないことが、筆者のこれまでの調査で明らかになっている。そこで本研究では、ヤウンデにある「近代的」と自認するクルアーン学校とその関係者を事例として、彼らにとっての「近代化」なるものがどのような環境のもとで、どのようなものとして達成され拡大されているのかを記述する。その記述を通じて、従来のイスラーム教育の近代化研究に対して、新しい視点を提示したい。

成績ノート

フィールドワークから得られた知見について

 第一に観察されたのは、「近代的」クルアーン学校では、コンピュータ上で作成された出席カードや成績ノートといった様々な書類が、運営業務遂行のために用いられているということである(写真2)。出席カードは、クラスごとに作成されており、そこには氏名・学籍番号・連絡先・出欠状況が記入されるようになっている。各クラスの教師は、担当クラスの生徒の出欠管理を、この出席カードを用いておこなわなければならない。また成績ノートには、生徒の個人情報に加え、授業日での学習範囲およびその評価、そして自宅で学習した範囲およびその評価が、細かく(例えば20点満点の点数評価や、クルアーンの章句単位での範囲指定など)記録される。そしてその記入内容は、教師および保護者の署名によって認可されるという仕組みになっている。このように、コンピュータ上で決まった型にしたがって作成された種々の書類は、「近代的」クルアーン学校の業務遂行において、必要不可欠になっている。
 そして第二に観察されたのは、それら各種書類の型の配布において/として、「近代化」という事態が、カメルーン各地の「近代化志向」のクルアーン学校関係者に拡散しつつあるという事実である。上述したように、「近代的」クルアーン学校には、様々な書類の型が存在する。これらの型や、クルアーン学校の新規設立のための各種認可用書類の型等が、知人のネットワークを通じていきわたっている。その結果、ヤウンデで筆者が観察している一つの「近代的」クルアーン学校のあり方が、「近代的」クルアーン学校の模範型として複製され、カメルーン各地に広まりつつある。
 まとめると、クルアーン学校の「近代化」なる事態は、様々な型の作成・複製と、知人ネットワークによるそれらの型の拡散という状況下において、それらの型を既存のクルアーン学校に画一的に導入するという実践から構成されているということになる。

反省と今後の展開

 本研究では、クルアーン学校の「近代化」という事態を論じる際に、型の作成(複製)と拡散、およびそれらの画一的導入という実践を見逃すことはできないということがわかった。これはすなわち、先行研究における、近代化改革の理念への過剰な注目(=具体的・物質的側面の見落とし)(Launay 2016: 4)を修正する知見である。また、近代化改革における様々な知識の抽象化および拡散という事態(Launay and Ware III 2016: 262)の具体例を提示できたといえる。一方で、本研究が未だ明らかにしていない点が2点ある。1つは、それらの型自体がそもそも何を模範としているのかということである。もう1つは、導入後の過程で、型にどのような変化が起きるのかということである。以上の2点を明らかにし、型の複製という観点から、カメルーンにおけるクルアーン学校「近代化」の全体像を記述していくことが求められる。

参考文献

【1】Launay, R. 2016. Introduction: Writing Boards and Blackboards. In Launay, R. ed., Islamic Education in Africa: Writing Boards and Blackboards. Bloomington: Indiana University Press, pp.1-26.
【2】Launay, R. and Ware III, R. T. 2016. How (not) to Read the Qur’an?: Logics of Islamic Education in Senegal and Côte d’Ivoire. In Launay, R. ed., Islamic Education in Africa: Writing Boards and Blackboards. Bloomington: Indiana University Press, 254-267.

  • レポート:平山 草太(平成28年入学)
  • 派遣先国:カメルーン共和国
  • 渡航期間:2018年9月17日から2018年12月19日
  • キーワード:イスラーム教育、サブサハラアフリカ、近代化、クルアーン学校

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