京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ザンビア北東部のマンブウェの人々における作物生産と生業の変化

2023年11月に新たに造成されたマウンド:60cmほどの高さになるまで鍬で表土を切り返して盛る(2023年12月13日撮影)

対象とする問題の概要

 現在アフリカでは増加している都市人口に食料を供給し、食料を安定的に獲得・生産することが求められている。ザンビアでは政府が1970年代なかばに銅輸出に依存した経済からの脱却のため農業開発を重要視し、化学肥料を用いたF1ハイブリッド・トウモロコシ栽培を推進した。このトウモロコシ栽培は農家の現金獲得手段の一つとして確立するとともに、増加し続ける都市人口を支える重要な食料供給源となった。また、農村における従来の生業構造に変化を与えてきた。一方で、インフラの未整備による肥料の遅配や、化学肥料と種子をローン購入するために生じる農家の負債の増大、化学肥料の多用による土壌の劣化といった課題を抱えている。さらに、政権交代に伴うトウモロコシ栽培への補助金の打ち切りなど、国の農業政策の変化に対して脆弱である。そのためトウモロコシ栽培は、食料安全保障および農村の人々の生計のリスクと不安定性を高める要因の一つとなってきた。

研究目的

 研究対象であるマンブウェの人々は、タンザニア国境に近いザンビア北東部に居住する。トウモロコシの大消費地である首都ルサカやコッパーベルト等の都市部から離れた遠隔地に居住し、草本とともに表土を切り返し、その腐植を無機化して養分を蓄え、有機物である草本の腐植を肥料として利用するマウンド農法を営んできた。この農法は他地域でみられる焼畑耕作と比較すると、持続可能性が高く環境負荷の小さい方法であると評価されている。一方で、焼畑と比べ低い労働生産性を高める栽培戦略が必要であるという指摘や、都市部から離れた地域であることによる物資輸送面の課題も指摘されていた。しかし1990年代以降、マンブウェの生業や農耕、生活については調査がされていない。本研究では、マンブウェの人々が国の農業政策の変化にどのように対処してきたのか、そして現在の生業や農業はどのような生計戦略の上で営まれているのかを明らかにすることを目的とする。

収穫後のキャッサバ:皮を剥いて毒抜きをする(2023年12月15日撮影)

フィールドワークから得られた知見について

 今回のフィールドワークでは、マンブウェの農村において、参与観察と聞き取り調査を実施した。得られた知見として第一に、1990年代と比較して農耕形態に変化が生じていた。マウンド農法を営む世帯は少数になっており、表土を切り返して円形のマウンドを造成するのではなく、長い畝を造成する農法や平耕作が見られた。また栽培する作物も、1990年代と比較するとシコクビエやソルガムを栽培する面積、世帯数ともに減少し、代わりにジャガイモやサツマイモが増加していた。また、平耕作の畑においては、収量の多いF1ハイブリッド種のトウモロコシと自家採種したトウモロコシを区別せずに同じ畑に播種し、化学肥料が同様に使用されていた。
 第二に、収穫したトウモロコシはほとんど自家消費されており、主要な現金獲得手段ではなかった。現在の現金獲得手段はトウモロコシやキャッサバ、タバコ、ジャガイモ等の野菜類の都市部への出荷または村内での売買や、頼母子講、家族の出稼ぎと多岐にわたっていた。とくに、頼母子講の会合は頻繁に開催されており、100世帯ほどの村内に規模の異なる4グループがあり、毎週決まった曜日に開かれていた。また、村内においては、キャッサバが盛んに売買されており、キャッサバの販売は重要な現金獲得手段となっていた。
 第三に、キャッサバの嗜好性についてである。ザンビアの人々にとってトウモロコシの粉を使用して作る主食のシマ(練り粥)は、食事において非常に重要なものである。マンブウェ農村社会においては、全粒のトウモロコシ粉のみで作られたシマは、エネルギーを得られかつ美味しいとされる一方で、キャッサバは美味しいが腹持ちが悪く、シマに多く使用することは好まれない傾向にある。マンブウェの人々はトウモロコシとキャッサバの粉を混ぜてシマを作ることがあるが、キャッサバ粉の割合が多いほど美味しくないと認識され、トウモロコシ粉でシマを作ることに重要性を置いていた。

反省と今後の展開

 今回のフィールドワークにおける反省としては、一つは調査許可の申請手続き及び取得の過程で、多くの時間を割いてしまったことである。渡航前に現地大学の教職員とより密に連絡を取る必要があった。また、公用語である英語を理解できない人が多い農村において円滑なコミュニケーションを取るために、言語の習得も必要である。今回は言語の習得が十分ではなく、インタビューの対象者が少数となってしまった。そのため、次回の調査では対象者の第一言語であるマンブウェ語で、より広範な人々に聞き取り調査を実施したい。加えて、今回は断片的にしか記述できなかった年間の農事暦の作成、過去の生業や農業からの変化に対する人々の認識を重点的に調査したい。

参考文献

 Hara, M. 2017. Regional Food Security to Cope with Agricultural Policy Changes in North-Western Zambia, Japanese Journal of Human Geography (Jimbun Chiri), 69(1):9–25.
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 Kakeya, M. and Sugiyama, Y. 1987. Agricultural change and its mechanism in the Bemba village of northeastern Zambia, African Study Monographs, Supplementary Issue, 6:1–13.
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 Stromgaard, P. 1990. Effects of Mound-Cultivation on Concentration of Nutrients in a Zambian Miombo Woodland soil, Agriculture. Ecosystems and Environment, 32:295-313.
 Siame, J. A. 2006. Magazine on Low External Input and Sustainable Agriculture. LEISA, 22(4).
 Sugiyama Y. 1992. The Development of Maize Cultivation and Changes in the Village Life of the Bemba of Northern Zambia. Senri ethnological studies, 31:173-201.
 大山修一. 1998. 「ローンはどこへ消えていく—ザンビア北部のトウモロコシ栽培—」『アフリカレポート』26:38-41.アジア経済研究所.
 島田周平・大山修一編. 2020. 『ザンビアを知るための55章』明石書店.

  • レポート:笠原 望(2023年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2023年11月1日から2024年1月29日
  • キーワード:ザンビア、農村、マウンド耕作、トウモロコシ

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