Genealogy of Thai Studies in Thailand during the Cold War
Research background The study of Thai studies is not new; however, the focus on institutionalization and the attempt to…
本研究では、近年のザンビアが、アフリカでは例外的に政治的暴力を経験しなかった要因について、暴力の潜在的行使主体となりやすい若年貧困層の政治への認識と行動の分析を通じて考究する。アフリカ諸国は1990年代に相次いで一党制から複数政党制に移行したが、同時にエリート間の権力闘争が暴力的な大衆動員を引き起こした。本研究が対象とするザンビアも、他のアフリカ諸国に比べはるかに平和であるものの、近年は政治エリートの離合集散によってたびたび競争的な選挙が生じ、排外主義的・部族主義的なポピュリズム言説が政治的暴力を引き起こす例がみられるようになっている。
政治的暴力の発生要因として、従来は欲望(greed)と不満(grievance)の2つが提唱されてきた。すなわち、前者の分析では、権力を追求する政治エリートの欲望(greed)が、経済的合理性の高い権力闘争手段を選択した結果暴力が起こるとされ、後者の分析では、貧困や経済的不平等などから生じる不満が動機となって暴力が起こるとされる。Kapesa et al. [2020]は、上記の2要因を相補的関係にあるものと提起し、さらに、いずれの視座においても「経済的不平等が客観的に、正確に認識されている」ことが前提化しており、むしろ様々なアクターの主観的な不平等の認識を問うべきであると批判している。本研究はKapesa et al.の所論に基づいて、近年増加しつつある都市の若年貧困層が、自身の経済的政治的立場をいかに認識しているかを明らかにしようとするものである。
前年度に引き続き、コッパーベルト州キトウェ市ウサキレ地区で調査を行なった。コッパーベルト州は現野党「愛国戦線(PF)」の強力な地盤であり、特に都市周縁部の若年貧困層はPFの強力な支持母体であったが、2021年にPFが大統領選挙に敗れ、現与党「国家開発統一党(UPND)」に政権交代したことによって、若者たちの間でも支持が分裂しつつある兆候が確認できた。筆者に対してUPND支持を言明したインフォーマントのうち、その理由として興味深いものは①UPNDの施策から利益を得たため②UPNDの政権党としての政策実行力に期待しているため、の2点があった。一方、PFを支持するインフォーマントは、その理由として①UPNDへの政権交代によっても生活の程度が改善しなかったため②UPNDを(南部州に多い)トンガ人のための部族主義政党であるとみなしているため③天然資源を外国企業に引き渡し、地元の人々がアクセスできないようにしたため、などを挙げた。これらの(往々にして主観的な)理由は、大統領に多くの権力と資源が集中するザンビアの政治制度や、天然資源とその国際価格に依存した経済構造、かつてのPFが流布したUPNDに対するネガティブなイメージの残滓など、先行研究が明らかにしてきた「有権者の認識に影響する様々な要素」が現存し拡大再生産されていることを示していると言えるだろう。
また、主にUPND支持者に見られる傾向として、自身の支持政党を隠したり、偽ったりする事例が確認された。コッパーベルトではいまだにPF支持も根強くあり、UPND支持者は新興勢力としての警戒心を持っているものと推測される。特に、選挙期間においてたびたび暴力が生じてきた記憶が何らかの影響を持っているかもしれない。
上記のように、インフォーマントは自身の選好やその理由を必ずしも正確に開示していない可能性がある。今回の調査はほとんど開かれた空間で、他者が会話を聞きうる状況下で実施されており、正確な把握の障害となっていたかもしれない。もっとも、異なる選好をもつ人々が、いかなる方法で共存し/対立しているのかを明らかにすることにも意義はあると言える。また、インフォーマントのほとんど全員が同一地区の若年貧困層に集中したことで、比較の観点からは不十分な調査となった。この不足点については、今後は同世代のエリート層にも聞き取り調査をするなどして補完していきたい。
Kapesa, R., O. Sichone and J. Bwalya. 2020. Ethnic Mobilization, Horizontal Inequalities, and Electoral Conflict. In T. Banda et al. eds., Democracy and electoral politics in Zambia. Leiden: Koninklijke Brill NV, pp. 212-241.
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