インド指定部族の社会移動への意識とその実践/タミル・ナードゥ州指定部族パニヤーンを事例に
対象とする問題の概要 これまでインド政府は貧困問題を解決するために様々な政策を実施してきた。その成果はある程度認められるものの、依然として多くの貧困層を抱えており、貧困削減はインド社会において重大な社会問題として位置づけられている。なかで…
本研究は内戦後の第二共和制レバノンの政治体制を内戦との継続性と変化という観点から明らかにすることを目的とする。対象国であるレバノンは宗教・宗派を基礎とした政治体制を有し、国家が公認する18の宗教・宗派集団のあいだで政治権力が配分されていることから「権力分有体制」と呼ばれている。これまでの研究では、レバノンの「権力分有体制」の内戦(1975~1990)を分水嶺とした「変化」、たとえばイスラームとキリスト教の間の議席率の変化や大統領権限の縮小と首相・内閣の権限の強化などが強調されてきた。それに対して、本研究が目指すのは「変化」と「継続性」の双方への着目によって新たな視点を発見することである。すなわち内戦前後で大きな枠組みの変化がなかった「権力分有体制」ではあるが、 それを担う新たな主体が内戦中に登場し、 それが内戦後の議会政治のなかで活躍することとなった。
本研究の目的は、 ①レバノン内戦中に戦闘に関与した軍事組織の組織としての凝集性の程度を明らかにすること、 ②内戦中の軍事組織の活動や凝集性の程度が、 内戦後に政党になった際に選挙・議会などの政治活動に対していかなる関係しているかを明らかにすることである。①を明らかにするために、 内戦中に軍事組織が行った種々の公共サービスに着目して調査を進めた。ここでいう公共サービスは、 シーア派主体のヒズブッラーやドゥルーズ派主体の進歩社会主義党などが自らの組織に属する市民に対してのみ行った生活物資の供給や敵対するグループからの防衛という安全などを意味する。次に②を明らかにするために、 時期を内戦直後から行われたシリアの実質的な支配が終結した2005年以降に絞り、 各軍事組織の内戦中の支配地域と選挙戦での獲得票数がどの程度関連性があるのかを調査した。
約1か月間のフィールドワークでは、 元軍事組織の成員や政治家への質的なインタビューを行った。また、 内戦に関わる資料の収集とりわけ軍事組織が発刊する機関誌や、 アラビア語で書かれた二次文献などを集めた。以下では一人の元軍事組織成員と行ったインタビューの事例を紹介することで、 内戦中の軍事組織の活動が内戦後にどのように引き継がれるのかという一端を示す。
元軍事組織の成員のインタビューでは、 イスラームのドゥルーズ派の進歩社会主義党に属していた成員から情報を得ることができた。レバノン山岳地帯バアクリーンのドゥルーズ派の修行場近くに住居を構えるA氏は、 内戦中のドゥルーズ派の革命的なリーダーであるカマール・ジュンブラートの下で軍事作戦における重役を務めており、 自身の家にもその当時の様子が分かる写真や実際に使用した銃などが飾ってあった。彼は内戦中に支持していた進歩社会主義党を内戦後も継続的に支持しており、 2018年現在ドゥルーズ派内の反主流派として立場を異にするレバノン民主党(2001年~)に対して批判的な意見を持っていた。その背景には、 進歩社会主義党が内戦中にレバノンに介入してきたシリアに敵対的な態度をとっていたことがある。現在の政治において後に挙げたレバノン民主党は現在のシリア政府を支持しており、 進歩社会主義党は一貫して反シリアの姿勢を保ち続けている。ゆえに、 内戦中に反シリア政府の立場であった進歩社会主義党は、 レバノン民主党のような宗派内の亀裂をもちながらも、 内戦中に支配した地域においてドゥルーズ派の第一党として2018年の選挙でも宗派内で最多得票を獲得している。このように、 内戦中の軍事組織による領域支配や安全の供与は、 内戦後の政治においても市民の支持態度として引き継がれ、 選挙などの場面において表出されることとなる。
今回の調査では、 文献収集とインタビュー調査を中心として行った。アラビア語の文献収集が充実していた反面、 元軍事組織の成員とのコンタクトが難しく、 インタビュー調査のさらなる充実が求められる結果となった。今後は今回の調査で得られた質的なデータと軍事組織の出す刊行物や選挙結果などから得られる量的なデータの双方を参照して、 「混合研究(mixed method)」の方法による分析を行いたいと考えている。
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