京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ジョザニ・チュワカ湾国立公園におけるザンジバルアカコロブスと地域住民との共存

グアバ(Psidium guajava)の実を頬張るザンジバルアカコロブス

対象とする問題の概要

 調査地のジョザニチュワカ湾国立公園は、約50㎢と小さな国立公園だが、そこに絶滅危惧種のサル、ザンジバルアカコロブス(Procolobus kirkii) が生息している。その数は、わずか5800 頭あまりで、” 炭食い” という世界的にも珍しい行動をとる。しかし、地元の住民らにとっては農作物被害をもたらす害獣として扱われてきた歴史があり、住民にとっては、薪を取る場所として利用したい森に住む厄介なサルという側面がある。
 この限られた森林資源を、ヒトとサルで、いかに共存関係を保ち保全していくかが、調査地の大きな課題で、本研究ではその保全方法を探り、熱帯林の持続的な活用について探る。

研究目的

「コロブスがどんな森をどのように利用しているか」を把握するため、2つの方法で、調査を行なった。
<調査方法(1)>
 最も国立公園ゲート周辺で、目撃されている群れ1グループ対しての、終日追跡調査を計15日間、行なった。日の出から日の入りまで約12時間、追跡し、行動エリアを把握するととともに、行動生態を調べるために、5分間隔で行動を5パターンに分け、データを採集した。5パターンとは、「移動」「採餌」「休憩」「その他」で、交尾やグルーミング、ケンカ、炭食いは「その他」に分類し、その都度、記録した。
<調査方法(2)>
 どのような森を活用しているかを調べるために、重点的に利用しているエリアを6つ選び、50×50メートルの区画を決め、毎木調査を行った。記録したのは「樹種」「区画内における位置」「樹高」「胸高直径」「樹冠の大きさ」「健康状態」で、必要に応じ、写真やGPSポイント、植物標本などのデータを採取した。

コロブスに食べられて枯れたと言われるTerminalia catappa の木

フィールドワークから得られた知見について

 調査方法(1)から、樹種別での採食時間の上位5位は、Psidium guajava19%、Calophyllum inophyllum14%、 Syzygium cumini14%、Ficus bussei14%、Vitex doniana8%となった。このうち、Psidium guajava,とSyzygium cuminiは、かつて耕作地だった場所に生えている園芸種で、採食時間全体の33%を外来種に頼っていることがわかった。休息時間についての上位5位は、Psidium guajava 31%、Calophyllum inophyllum 13%、Syzygium cumini 13%、Ficus bussei 10%、Albizia adianthifolia 5%となり、休息時間全体の44%の時間を外来種で過ごしていることがわかった。
 調査方法(2)において、この群れが重点的に利用しているエリアを6区画選定した。これらは、「①マホガニー主体の高木林」「②低木林」「③グアバ林」「④ザンジバルアップル林」「⑤パンノキなどの中高木林」「⑥農地」である。
 ①は、かつて材木用に営林を行っていた場所で、1962年のイギリスからの独立以降、森林保護区となり、現在のジョザニチュワカ湾国立公園の元となっている森林である。 
 ②は、①に隣接し、国立公園の一部となり、地域住民の利用は制限されている。5−6mの低木林であるが、樹種の多様性は多く、最も自然植生に近い森とされている。
 ③④はかつて耕作地として地域住民に利用されていたが、現在は国立公園当局の管理下となっている。地域住民は、耕作や伐採が禁止され、公園当局が、外国人観光客向けに観光業を行っている。
 ⑤は私有地だが樹高15m以上の高木が多い。⑥は今も地域住民が耕作を行なっているが、頻繁にコロブスが行き来し、農作物被害をもたらしている。
 これらの区画で測定した樹高から、平均樹高15メートル以上の「①マホガニー主体の高木林」や「⑤パンノキなどの中高木林」で夜間は休息し、昼間は採食のために、平均樹高6メートル程度の「③グアバ林」に降りてきていることが分かった。すなわち、昼間の活動時間の多くを国立公園の外の森で過ごし、夜間の休息時間を国立公園内で過ごしていることが分かった。

反省と今後の展開

<反省点>
 地元の調査助手と連携して調査したが、帰国後データの一部が取れていないことが判明した。今後は、現地で確実に確かめてから帰国するようにしたい。
<今後の展開>
 コロブスは、4つの胃を持ち植物の若い葉や新芽を主に食べている。群れは20−30頭程度で、集団で行動し、行動範囲は2㎢程度。群れで行動するため、群れの動線上にある食用の樹種を集中的に食べ、群れの動線上には多くの枯れた大木が見られた。多くは人間が持ち込んだ園芸種である。
 地元の人たちは、枯れ木について「コロブスに食べられたから枯れた」と話す。コロブスの地元名は、Kima Punju “毒猿“”呪い猿“と訳され、「食べた木が枯れる」と言われている。
「ザンジバルアカコロブスは、園芸種の樹木を駆逐し、結果的に自然植生を取り戻す役割を果たしているのではないか」
今後は、この問いについて、動物と人の両方の視点の両点から追究していきたい。

  • レポート:野田 健太郎(平成29年入学)
  • 派遣先国:タンザニア連邦共和国
  • 渡航期間:2018年6月29日から2018年9月15日
  • キーワード:ザンジバルアカコロブス、ジョザニ・チュワカ湾国立公園

関連するフィールドワーク・レポート

現代イスラーム世界における伝統的相互扶助制度の再興と新展開――マレーシアのワクフ制度に注目して――

研究全体の概要  本研究は、ワクフ制度と呼ばれるイスラーム世界独自の財産寄進制度に焦点を当て、その再興が見られるマレーシアに着目し、その実態を解明することを目指す。 ワクフ制度とは、収益化できる財産を持つ者が、そこから得られる収益を特定の慈…

2023年度 成果出版

2023年度における成果として『臨地 2023』が出版されました。PDF版をご希望の方は支援室までお問い合わせください。 書名『臨地 2023』院⽣臨地調査報告書(本文,13.4MB)ISBN:978-4-905518-41-9 発⾏者京都…

マレーシアにおけるイスラーム型ソーシャルビジネス――その社会的起業の実態と傾向――

対象とする問題の概要  本研究の対象は、東南アジアで活発化しているイスラーム型ソーシャルビジネスである。特にマレーシアに注目して研究を進める。マレーシアでは、10年程前から社会的起業への関心が高まっている。2014年には社会的起業を促進・支…

駅がアフリカにもたらす近代都市経験――ガーナ・クマシの事例研究――

対象とする問題の概要  クマシはガーナ共和国内陸部アシャンティ州に位置する、同国第二の人口を有する都市である。クマシは17世紀以来アサンテ王国の首都として発展してきたが、沿岸部を植民地化した大英帝国との競争に敗れ、1896年に英領ゴールドコ…

ベンガル湾を跨ぐタミル系ムスリム移民のネットワーク――マレーシア・ペナン島における事例に着目して――

対象とする問題の概要  ベンガル湾沿岸地域は従来、海を跨ぐ人の移動を介して相互に繋がり合う1つの地理的空間であった。一方、近代国家体制とそれに基づく地域区分の誕生により、ベンガル湾の東西はそれぞれ東南アジアと南アジアという別の地域に分断され…