京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

アフリカ地域における企業労働文化について/モザンビーク共和国の製造業を事例に

マプト県ボアネ郡ベルルアーネ経済特区内に立地するベルルアーネ工業団地

対象とする問題の概要

 近年アフリカ諸国は高い経済成長率を記録してきたが、その多くが天候や国際価格の変動の影響を受けやすい一次産品に依存したものであり、産業の多角化は進んでいない。モザンビークも1992年の内戦終結以降、諸外国からの投資により世界平均を上回る経済成長率を記録したものの、産業の多角化が進んでいないという点では例外ではなく、多くの労働力を必要とする軽工業とアルミニウム製造業のみの成長が目立つ。GDPに占める工業の割合が増加してはいるが、その半分以上が2000年より操業を始めたアルミニウム精錬会社のモザール社一社の好調によるものであり[西浦 2014]、アルミニウムも国際価格の変動の影響を受けやすい。また、モザンビーク政府も各報告書において、一層の工業化を中期目標とする旨明記しており[Mnistério de Indústria e Comércio 2016]、職業訓練校の整備や海外への工業的技術研修を実施している。

研究目的

 本研究では産業発展の途上にあるモザンビークでの近代的企業活動と人々の働き方を調査することで、アフリカ製造業企業の発展に影響を与える文化的要因を明らかにすることを目的とする。
 アフリカ地域においてはその多様性を明らかにすべく、農業他の生業について多くの研究がなされてきたが、産業発展過程における近代的企業活動を研究したものが相対的に少なく、また、文化的側面を研究したものは乏しい。そのため、本研究では上述した「アフリカの典型例」であり研究事例の少ないモザンビークにおいて、政府や地方自治体が工業化を推進する中での人々の働き方や「近代的」労働への向き合い方を調査研究することにより、グローバル化が進む現代アフリカにおいて産業の発展に影響を与える文化的要因を明らかにすることを目的とする。

日本メーカー製設備を用い金属加工をするモザンビーク人

フィールドワークから得られた知見について

 本調査では、首都マプト市 [1] ならびにマプト県内に所在する中小製造業を調査対象とし、各企業の経営者と労働者に加え、マプト県産業商業局担当者への聞き取り調査を行った。
 首都マプト市では建築ラッシュが起こっており、それに伴い市内には建材や内装品を販売する外国人により経営されている店舗群が存在した。これらの多くの店舗では鍵や配管などの金属加工販売も請け負っていた。加工担当者の勤続年数はばらつきがあり、現場で加工方法を学んでいることがわかった。金属加工用設備の多くは南アフリカ、ドイツ、アメリカ、ポルトガルからの輸入品で対応していた。
 また、マプト県ボアネ郡ベルルアーネ地区内の製造業経済特区にも外国資本企業が多く存在した。同地区にはアルミ精錬大手のモザール社の協力会社が多く、アルミ精錬に用いられる電極の修繕加工や、精錬設備の部品加工を行っている会社が存在した。中には日本製の高度な設備を有し、南アフリカなどの外国出身講師を招いて高度な技術研修を行い、国外の金属製品量産企業との取引を目指す企業も存在したが、品質や納期の面で顧客の希望水準に満たないことから継続的な取引までには至っていなかった。
 上述した両地域は首都や経済特区という特性上、外国資本が集まりやすい環境であったが、マプト県マトラ市内には製材の買い付けから加工までを自社で全て行っているモザンビーク人家族経営の家具製造零細企業も存在した。
 また、マプト市内の企業を管轄するマプト市労働局、マプト県内の企業を管轄するマプト県産業商業局 [2]を訪問し、マプト市ならびにマプト県内に所在する製造業企業の住所、設立年、生産品目などの基礎情報を入手した。なお、マプト県産業商業局での担当者への聞き取りでは、県としては、今後高い失業率を改善するために女性や若年の雇用を積極的に行う中小零細企業に対し支援策を講じる考えであることがわかった。


[1] マプト市は独立行政都市のためマプト県の行政管理下には置かれていない。

[2] マプト市では労働局が、マプト県では産業商業局が企業情報を保持している。

反省と今後の展開

 今回の調査では、マプト市、マプト県内において、訪問企業の立地や設立の経緯、企業の保持する設備、大まかな取引関係を把握することができた。他方で、今回の調査では企業を多く訪問することを目的としていたため、特定の企業で長時間の滞在は行わなかった。そのため本研究の主目的であった企業内の規律や労働者個人の労働に対する勤労観や勤労倫理の確認までには至っていない。今後は調査対象とする企業の数を絞り込むことで、各企業で働く従業員との会話や観察の時間を増やし、製造業企業に従事する労働者の技術向上への取り組みや経営目標達成に向けた取り組みを観察していく。また、マプト市とマプト県内では外国資本の影響が強いことが判明したため、外国資本が人々の経済活動にどのような影響を及ぼしているのか、自国資本企業はどのように資金繰りをしているのかなど、文化的側面だけではなく経済的側面についての調査も行いたい。

参考文献

【1】西浦昭雄.2014.「南アフリカ経済論 企業研究からの視座」.日本評論社
Ministério da Industrial e Coméricio.2016. Política e Estratégia Industrial 2016-2025.
【2】http://www.mic.gov.mz/por/content/download/6210/44556/version/2/file/PEI+2016+Aprovada.pdf (2018年12月24日)

  • レポート:畔柳 理(平成30年入学)
  • 派遣先国:モザンビーク共和国
  • 渡航期間:2018年9月1日から2018年11月22日
  • キーワード:モザンビーク、ルゾフォニア、工業化、製造業

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