湾岸域内関係の変容とカタルの政治・経済
対象とする問題の概要 湾岸地域の小国カタルは、域内の大国サウディアラビアとイランに挟まれている。これは地理的な関係のみならず、政治的にも両者との関係が発生することを意味している。サウディアラビアとイランは域内のライバルであることから、一方…
タイは、年間約500億米ドルもの国際観光収入を得る [1] 、まさに観光立国と呼ぶにふさわしい国である。荘厳な寺院や伝統芸能、ビーチなどのリゾートと並んで、タイ観光の目玉の1つになっているのは、スコータイやアユタヤー、ピマーイなどの遺跡群である。それらの遺跡は歴史公園として整備され、内外に博物館やビジターセンター、飲食店、土産物店、宿泊施設を兼ね備えた観光地として賑わいをみせている。しかし一方で、毎年多くの遺跡が、発掘調査がおこなわれることなく土地開発と引き換えに破壊されている現実もある。横行する遺物の盗掘や密売も、タイにおける遺跡保存の取り組みにとって障壁となっている。また、タイに根強く残る公定史観も遺跡の保存・活用に少なからず影響を及ぼしている。
本研究では、そうしたタイの遺跡を取り巻く状況に考古学がいかに関わるのか、という点に焦点を絞る。
[1] 世界観光機関公表の2016年国別国際観光収入ランキングより。タイはアメリカ、スペインに次ぐ世界第3位の国際観光収入を誇る。
本研究は、タイにおける考古学の営みに着目し、それがどのように遺跡の保存・活用に関わっているのかを明らかにすることを目的としている。
考古学は、狭義には「過去の人類が残したモノや痕跡をもとに、その行動や思想を復元する」歴史学の1つである。しかしその資料となる遺跡や遺物の性格上、実際には、考古学(者)はそれらの保存や整備、活用といった取り組みにも主体的に関わる。また、そうした取り組みは現代社会の中の政治経済的背景あるいは制約のもとで行われる。ゆえにタイの考古学の社会的背景や指向性を分析し、それらと遺跡の保存・活用との関わり合いを批判的に考察することは、今後の遺跡の保存・活用の在り方やそこにおける考古学の役割を再考することに繋がると考えられる。
今回の派遣においては、博士予備論文の執筆に向けて、これまで調査が不十分であった文化省芸術局とシラパコーン大学考古学部 [2]の関係者への聞き取り調査を実施した。これらはタイにおいて、考古学の調査研究や文化財行政に大きく関わる機関である。またその他、シリントーン人類学センターやサイアム・ソサエティの図書館における文献資料の収集、バンコク国立博物館の見学などをおこなった。
芸術局職員に対する聞き取り調査では、芸術局が実施している遺跡の調査や歴史公園の整備について、その目的や戦略、課題などを尋ねた。その内容からは、芸術局が遺跡を観光資源として積極的に売り出している様子や、一方で人材や予算の不足から埋蔵文化財の調査が不十分である実態などが窺い知れた。
シラパコーン大学においては、考古学部考古学科の教員と学生、卒業生のそれぞれに聞き取り調査をおこなった。教員には、考古学部の教育方針や制度、芸術局との関係性などを尋ねた。また学生や卒業生は、大学での研究内容や卒業後の進路についてのみならず、彼らが参加したあるいは指揮をとった発掘調査や遺跡の保存・活用に関わるプロジェクトについても多くの情報を語ってくれた。特に若い世代が、現在のタイの考古学に強い危機感や不信感を持って、積極的に新しいことに取り組んでいる姿は印象的であった。
また、バンコク国立博物館では、昨年崩御した前国王プミポン・アドゥンヤデート陛下による長年の文化芸術関連事業への貢献を称える特別展が開催されていた。タイでは王室と考古学や文化財行政が長い関わりを持っており、本展の内容もその一端を示すものとして興味深いものであった。
[2] タイにおいて考古学の専門教育をおこなっている大学は、同大学1校に限られている。。
今回の派遣では、考古学に関わる法律や制度などについての事実確認と、その問題点への理解を深めることができた。また、遺跡の保存・活用に関わる事業についても、国家レベルのものから個人レベルのものまで、広く把握することができた。今後は、それらの中から特に重要であると思われる事項について詳細な調査を進めるとともに、遺跡の保存・活用に関わる考古学以外のステークホルダーに関するデータも収集していく必要がある。
技術的な面での反省点の1つは、言語の問題である。今回の聞き取り調査は、筆者のタイ語運用能力上の制約から、基本的には英語を用いて実施した。ゆえに聞き取り対象者が限定され、聞き取りが可能であった相手とも、一部で意思疎通に困難が生じたため、今後一層タイ語能力の向上を図る必要性があることを再確認した。
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