京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

タイにおける文化遺産マネジメント/マルカッタイヤワン宮殿の事例を中心に

マルカッタイヤワン宮殿で働く考古学者(右)と筆者(左)

対象とする問題の概要

 タイにおいて文化遺産の保護管理の多くは、法的規制のもとに国家機関である文化省芸術局が担っている。政治的背景や文化行政における予算や人員の不足から、芸術局による文化遺産マネジメントの取り組みは特定の文化遺産に偏重するものであることが指摘されてきた[Rasmi2011、Stent2013他]。しかしその歴史的変遷については十分な整理や議論がおこなわれていない。
 一方近年では、芸術局以外のアクターによる文化遺産マネジメントの機運が高まっている。また、対象となる文化遺産は先史時代の遺跡や近現代の建造物など、芸術局のそれよりも多岐にわたり、その動向に注目が集まりつつある。

研究目的

 本研究の目的の一つとしては、芸術局を中心とするタイの文化遺産マネジメントの来歴や系譜を探り、現在の歴史的位置付けを解明することがある。主に文献資料に依拠し、社会的背景との関係性のなかで文化財法制史・行政史や考古学史などを総合的に理解したいと考えている。
 また同時に、最近広がりつつある芸術局以外の手による文化遺産マネジメントの取り組みについても調査をおこない、タイにおける文化遺産マネジメントの現状や今後の展開を考察する手がかりとしたい。

修復中の宮殿と発掘調査中の道路

フィールドワークから得られた知見について

 研究目的のうち前者については、渡航期間を通じて文献資料などの閲覧と収集をおこない、現在その整理や分析をおこなっている。そのためここでは、主に後者の目的の一環としておこなった調査について報告したい。
 今回訪れたのは、ある財団によって実施されているマルカッタイヤワン宮殿(Mrigadayavan Palace)の文化遺産修復プロジェクトである。マルカッタイヤワン宮殿は首都バンコクの南西170kmほどのペッチャブリー県チャアム郡に所在する。ラーマ6世の病気療養のために1923年に建てられ、彼の死後は国境警察が利用していたが、現在はラーマ6世の娘ペッチャラット王女の財団によって修復や管理がおこなわれるとともに、博物館として一般に公開されている。  現在のプロジェクトは、劣化が著しいチーク材の建物の修復・保全だけでなく、ラーマ6世時代の景観を取り戻すことも目的としているところに特徴がある。建築家や考古学者による後年に塗り替えられた壁や埋められた道の調査や、植物学者による当時の植生の調査などによって、往年の宮殿の姿やその周囲の環境の復元に挑んでいる。このような文化遺産マネジメントの形はタイでは新規的であり期待感の持てるものであったが、一方でマスタープランがなく中長期的な見通しが不明であるなどの課題も感じられた。

反省と今後の展開

 今回の調査全体を通じての反省としては、文献資料の収集などは比較的順調に進んだ一方で、事前の準備不足で関係者への聞き取り調査などはあまり実施できなかった点がある。ただマルカッタイヤワン宮殿への訪問など、現地到着後に知人の紹介によって思いがけずおこなった調査もあり、改めて現地での人脈作りの重要性を感じた。
 これまでの調査は主に芸術局に焦点を絞ってきたが、今後はその他のアクターによる文化遺産マネジメントの取り組みなどにも視野を広げて調査を進めていきたい。

参考文献

【1】Shoocongdej, Rasmi. 2011. Public Archaeology in Thailand. In Katsuyuki Okamura and AkiraMatsuda ed., New Perspectives Global Public Archaeology. Springer, pp.95-111.
【2】 Stent, James. 2013. Introduction: Siam’s Threatened Cultural Heritage. In Chris Baker ed., Protecting Siam’s Heritage. The Siam Society and Silkworm Books, pp.1-12.

  • レポート:白石 華子(平成27年入学)
  • 派遣先国:タイ国
  • 渡航期間:2018年9月28日から2018年10月15日
  • キーワード:文化遺産マネジメント、マルカッタイヤワン宮殿、タイ

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