京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園における 外来食肉目の生態系への影響

写真1.GPS首輪をつけたイヌ

対象とする問題の概要

 マダガスカルの生態系は、豊かな生物多様性と高い固有率に象徴される。近年、マダガスカルにおいて、イヌ(Canis familiaris)、ネコ(Felis catus)、コジャコウネコ(Viverricula indica)という外来食肉目が、在来生物の捕食等により生態系へ影響を及ぼすことが懸念されている[Farris et al. 2015]。しかし、現時点で、マダガスカルにおける外来食肉目の食性や行動域などの生態情報は、生態系への影響を評価するには不十分である。
 マダガスカル北西部に位置するアンカラファンツィカ国立公園には、上記の外来食肉目3種が生息し、在来食肉目はフォッサ(Cryptoprocta ferox)とコバマングース(Eupleres goudotii major)の2種が生息している。同国立公園は、UNESCOのMAB(Man and Biosphere)計画に基づき、保全だけではなく自然と人間社会の共生に重点が置かれている保護区であり、公園内には多数の村落が存在している[Aymoz et al. 2013]。

研究目的

 目的①:自動撮影カメラを用いて、アンカラファンツィカ国立公園の森林における外来食肉目と在来食肉目の生息数および行動パターン、捕食される可能性のある在来生物の生息状況を明らかにする。
 目的②:公園内村落の一つであるアンピジュルア村に生息するイヌにGPS首輪をとりつけて行動域を記録する(写真1)。
 目的③:生態学的調査として糞分析、人類学的調査として地域住民へのインタビューという二つのアプローチから食肉目の食性の解明を試みる。

写真2.自動撮影カメラで撮影されたネコ

フィールドワークから得られた知見について

 表1のように、自動撮影カメラでは、外来食肉目3種、在来食肉目2種が撮影された。なかでもネコの撮影回数が顕著に多く、撮影場所に関しても、カメラの設置場所22か所のうち21か所で撮影された(写真2)。ネコに捕食されている可能性がある地上性の鳥や、ネズミ、テンレックなどの撮影回数も多かった。
 アンピジュルア村のイヌ4頭(オス3頭、メス1頭)にGPS首輪をつけて、夜間約12時間の行動域を記録したところ、イヌは村の周辺を遊動していることがわかった。この結果は、地域住民から頻繁に得られる「イヌは村の警備をする役割を担っている」という意見を支持するものであった。

表 1. 自動撮影カメラで撮影された生物種と撮影回数

 食肉目の食性に関する調査については、計17個の糞(フォッサの糞13個、イヌの糞1個、コジャコウネコの糞1個、その他の糞2個)を集め、洗浄して内容物は保存したが、糞内容物の種同定はまだ行っていない。聞き取り調査では、地域住民18人(男性16人、女性2人)に対して、森に棲むフォッサ、コジャコウネコ、ネコ、コバマングースと村に棲むイヌ、ネコの食べ物を尋ねた。その結果、フォッサと森に棲むネコの食べ物は、ニワトリやネズミなどの肉類を中心とした同様の構成であった。コジャコウネコの食べ物はムクナージ(Mokonazy)という果実、コバマングースはミミズや昆虫、という回答がもっとも多かった。村のイヌは米のおこげ、ネコは米や魚という回答が多かった。
 以上の結果から、アンカラファンツィカ国立公園における外来食肉目3種のうち、生態系におよぼす負の影響がもっとも大きいのは、ネコだと考えられる。なぜならば、自動撮影カメラによる撮影回数の多さから、在来食肉目との生息域や餌資源をめぐる競合、在来生物の捕食が予想され、さらに、地域住民への聞き取り調査の結果から、とくに森に棲むネコとフォッサの餌資源における競合が生じていると推察されるからである。

反省と今後の展開

 自動撮影カメラの結果が示唆するように村のイヌが森へ行かないということを示すには、さまざまなタイプのイヌにGPS首輪をつける必要があるが、今回は人に慣れている個体を選んでしまったので、結果に偏りがあるかもしれない。今後首輪のつけ方を工夫する必要があるだろう。糞分析は、ほとんどがフォッサの糞だったので、次回以降はネコの糞をみつけられるようにしたい。また、首都にあるアンタナナリヴ大学で動植物標本を使わせてもらって糞内容物の同定作業ができるようにスケジュールを立てていきたい。

参考文献

【1】Aymoz, B. G. P., Randrianjafy, V. R., Randrianjafy, Z. J. N., and Khasa, D. P. 2013. Community Management of Natural Resources: A Case Study from Ankarafantsika National Park, Madagascar, Ambio 42(6): 767–775.
【2】Farris, Z. J., Gerber, B. D., Karpanty, S., Murphy, A., Andrianjakarivelo, V., Ratelolahy, F., and Kelly, M. J. 2015. When carnivores roam: temporal patterns and overlap among Madagascar’s native and exotic carnivores, J Zool 296: 45-57.

  • レポート:綾仁荘子 (平成28年入学)
  • 派遣先国:マダガスカル共和国
  • キーワード:外来種、食肉目、行動パターン、食性

関連するフィールドワーク・レポート

モロッコにおけるタリーカの形成と発展(2018年度)

対象とする問題の概要  モロッコ初の大衆的タリーカであるジャズーリー教団の形成過程を明らかにするにあたり、教団の名祖ムハンマド・イブン・スライマーン・ジャズーリー(d. 869/1465)の思想と事績が重要となる。現在流布している伝記では、…

復興期カンボジアの障がい者に対する国際援助政策の研究

対象とする問題の概要  今日のカンボジアの障碍者福祉は、1980年代の人道支援を源流とし、1991年のパリ協定を皮切りとした国際援助とともに形成されてきた。カンボジア政府は、2014年からと2019年からの4年間、障碍者戦略計画を掲げ、障碍…

導入品種の受容と栽培 /エチオピア南部ガモ地域におけるライコムギの事例

対象とする問題の概要  エチオピア南部ガモ地域では、約半世紀前に導入されたライコムギが、現在まで栽培・利用され続けている。同じ時期に北部地域にもライコムギが導入されたが、農家に受け入れられなかったという[Yazie 2014] 。ガモ地域に…

アジアにおける有機農業普及 ――宮崎県綾町における行政と農家連携の事例――

研究全体の概要  ブータンは、100%有機農業国化を目指す唯一の国家である。本研究の主題は、タシガン県において行政・大学・農民組織連携による有機農業普及の実態を実践的に明らかにすることである。本邦においても、自治体をあげて有機農業振興に取り…

手作りおもちゃの世界的な分布と地域ごとの特徴に関する研究

研究全体の概要  世界各地でみられる手作りおもちゃには普遍性がある一方、地域や時代によっては特殊性が存在する。本研究の目的は、愛知県日進市に位置する世界の手作りおもちゃ館の館長への聞き取り調査から、手作りおもちゃの地域ごとに共通する特徴およ…