京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

牧畜社会における技術や知識の学び ――子どもの生活に着目して――

牛舎の手伝いをする子ども

研究全体の概要

 南部アフリカに住んでいるヒンバは、ウシやヒツジなどの家畜を保有して遊牧生活を行なっている。彼らは半乾燥地域に住んでおり、天水農作による農作物の生産性が低い。そのため、家畜を飼育することで、家畜からのミルクや肉を食料として頂くことで生活している。彼らは、日常生活で行われる遊びや手伝いなどの活動を通して家畜管理技術や家事などの知識を獲得する。特に子どもは、年長者や家畜との関わり、遊びを通して家畜管理技術等の知識を獲得していく。日本でも、酪農家は家畜と共に生活をしている。本調査では、酪農家の子どもと家畜の関わりを観察し、聞き取り調査を行う。そこから、子どもが日常生活を通して獲得する知識の内容や、生業にどのように関わっているのかについての調査を行うことで、生業活動に関わる知識の伝達について明らかにする。

研究の背景と目的

 アフリカ乾燥地域における遊牧社会では、日常生活で行われる遊びや手伝いなどの活動を通して家畜管理技術や家事などの知識を獲得する。特に子どもは、年長者や家畜との関わりを通して、家畜管理技術等の知識を獲得していく。日本は第一次産業の後継者が減少しており、酪農の後継者も減少傾向にある。また、アフリカでは近代化に伴い学校に通う子どもたちが増えた。しかし、日本の酪農家は家畜によって生計が成り立ち、アフリカ乾燥地域では家畜に依存した生活をしている。どちらにおいても、家畜と暮らすことに重点が置かれている場所で、子どもと家畜の関わりや家畜管理技術の獲得について考察することは十分意義があると考えられる。
 本調査では、生業活動に関する知識の伝達について考察することを目的とした。そこで、酪農家の子どもを対象に日常生活の中の学びの諸相を明らかにし、子どもと家畜の関係性や、日常生活の過ごし方について検討する。

お産3日後のミルクを使った初乳豆腐

調査から得られた知見

 本調査では、鳥取県の酪農家の家に約1ヶ月、長崎県の兼業酪農家の家に約1週間滞在し、調査を行った。また、図書館にて、町の歴史や酪農等に関する資料収集も行なった。
 今回の調査を通じて、日本の酪農家においてもウシは家族全員にとって生活の一部であり、日常であることが分かった。鳥取県の酪農家では、小学生は学校から帰ると気が向けば宿題を持って牛舎に行く。手伝いをして、親が搾乳を行っている間に宿題を行う。土日になれば、牛舎は遊び場となる。小学生はウシに近付き触れ合い、保育園児はまだ怖いのか遠くから眺める。親だけでなく、子どもたちにとっても牛舎は生活の一部であり、日常的な活動が行われる場であった。小学生が行う手伝いは、基本的にウシと関わることがない仕事だった。しかし、尻尾に叩かれ、糞が飛んでくる状況の中で、ウシとの関わり方を身に付ける。子どもたちの体験談から、知識は親からの情報では無く自らの経験によって獲得されたものが多いと推測される。さらに、彼らは毎日牛乳を持ち帰り食事やおやつに利用していた。ヨーグルトに始まり、鍋や魚料理、豆腐やお餅と様々なレシピが存在していた。食や遊び、彼らの生活にウシは欠かせないものであった。
 一方、長崎県の兼業酪農家は日中に別の仕事をしていた。出勤前と帰宅後に牛舎の仕事を行う。庭には数頭が放せる場が設けられていた。頭数も少なく、ウシも肉用牛であった。聞き取りを行う中で、ウシに投資される費用や敷料、労力を含め数頭が限界であることが確認できた。また、副業ができるのは搾乳を必要とせず、手間も乳牛ほどかからない肉牛だからである。
 今回の調査では、乳牛や肉牛に関係なく、酪農に携わる人の生活や日常に家畜が密接に関わっていることが分かった。世代に関係なく、ウシは生活を行う上で必要不可欠な存在であった。特に、子どもたちにとってウシとの関わりは遊び場である牛舎に行くことから始まっていた。

今後の展開

 今回の調査では、子どもたちの手伝いや遊びの様子を動画に収めた。また日々の出来事を日記に書いており、手伝いや遊びの観察を記入した。今後は、動画や日記を解析しながら、子どもたちの様子について分析を行う。また、今回の調査は子どもたちが学校や保育園に通っている期間に行われ、休日及び朝夕の子どもたちの様子を見ることが多かった。さらに、酪農家は動物が相手のため変動も大きく、インタビューも不定期に行われた。そのため、計画的に子どもたちの手伝いやウシとの関わりの様子を十分に観察することができず、また関係者へのインタビューも満足に行うことができなかった。次回は夏休みに同地を訪れる予定である。そして、子どもたちの観察をメインにしつつ、関係者へのインタビューや、家族間の関わり方についても考察をしていく。なお、町の歴史や酪農に関する諸資料についても満足に収集できていないため、今後は文献調査にも力を入れる。

参考文献

 孫暁剛.2012.『遊牧と定住の人類学−ケニア・レンディーレ社会の持続と変容−』昭和堂
 田暁潔.2017.「日常生活の中の遊び-ケニアの牧畜民マサイ-」清水貴夫・亀井伸孝編『子どもたちの生きるアフリカ-伝統と開発がせめぎあう大地で-』昭和堂,54-67.
 Xiaojie, T. 2016. Day-to-Day Accumulation of Indigenous Ecological Knowledge: A Case Study of Pastoral Maasai Children in Southern Kenya. African Study Monographs. 37(2):75-102.

  • レポート:山本 始乃(2020年入学)
  • 派遣先国:(日本)鳥取県東伯郡琴浦町ほか
  • 渡航期間:2021年2月8日から2021年3月15日
  • キーワード:子ども、遊び、家畜、家畜管理技術

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