京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

国内における野生動物マネジメントの実態 ―西伊豆町でのニホンジカ駆除を事例に―

右後ろ脚がくくり罠にかかった状態のメスジカ(推定体重15kg)

研究全体の概要

 本研究の目的は、ニホンジカ(以下、シカとする)を対象にした有害鳥獣駆除の取り組みを参与観察し、国内における野生動物マネジメントの実態を明らかにすることである。本研究では、シカによる農作物被害が増加している地域の一つである静岡県賀茂郡西伊豆町において、シカの有害鳥獣駆除を実施しているシカ駆除業者の職員へのインタビュー及びシカ駆除業務の参与観察を実施した。その結果、有害鳥獣駆除を通したシカの個体数管理を行う上での課題を明らかにすることができた。今回実施したシカ駆除業者のみを対象にしたフィールド調査では、実際にシカによる被害を被っている地域住民に関する知見が不十分であるため、今回の調査地及び周辺地域で農業を営む地域住民に対して、地域住民自身で実施しているシカ対策の調査を行うことで、国内における野生動物マネジメントの実態をより多面的に明らかにすることが今後の課題である。

研究の背景と目的

 全国各地でシカ個体数は増加の一途を辿ってきたが、環境省及び地方自治体が主体となった有鳥獣駆除の取り組みが功を奏し、2014年をピークに減少傾向にある。シカ個体数の減少に伴い、農作物への被害も減少している。しかし、令和元年度時点における被害総額は約53億円に上り、依然として高い水準に留まっている。そのため、シカによる農作物被害の対策は喫緊の課題である。効果的にシカによる農作物被害の対策を行うためには、シカの駆除を依頼する地方自治体と依頼を受けた駆除業者が協働したシカ個体数を管理する体制を敷くことが重要であるとされているが、フィールド調査に基づいて両者の関係性を詳細に記述した事例は少ない。そこで本研究では、近年最もシカによる農作物被害が激化している地域の一つである、静岡県賀茂郡西伊豆町で実施されるシカの有害鳥獣駆除の取り組みについて調査を行うことで、国内における野生動物マネジメントの実態を詳細に記述することを本研究の目的とする。

今回シカ捕獲に使用した足くくりわな(渡辺式 R型)

調査から得られた知見

 今回の調査では西伊豆町に事務所を持つシカ駆除業者の職員らに対してインフォーマルインタビュー及び、シカ駆除業務の参与観察を行った。調査期間中はシカ捕獲のために西伊豆町北東部に位置する猫越岳内の林道沿いに計50基の足くくりわなを設置し、調査期間中はわなの見回り及びメンテナンスを毎日行った。調査期間中の猟果は計24頭(うちオス15頭、メス9頭)であった。今回のフィールドワークを通じて得られた知見の中で、特筆すべきことは以下の3点に集約される。
① シカ駆除の依頼した地方自治体と依頼を受けた駆除業者の間に相補的な関係が築けていない
 わなの設置方法やカメラトラップの設置方法など、駆除業務内容に関する取り決めが依頼者側から一方的に行われている場面が多々見受けられた。
駆除業者が業務に従事する過程で蓄積してきた知識・技術を共有することで、より効率的なシカ駆除業務を行うことが可能である。
② 捕獲エリアにおけるシカの生息個体数が不明
 シカ駆除業務に従事するにあたって、あらかじめ目標の捕獲頭数が依頼者より定められている。しかし、駆除エリアに生息するシカの個体数に関するデータが得られていないため、定められた目標頭数の捕獲が有効的にシカ個体数の増加を抑えられるのかは不明である。
③ シカ誘因資材の設置が森林生態系に及ぼす影響が未知
 シカを捕獲するにあたって、シカをわなへ誘因するために、アルファルファを乾燥させて各辺3cmの立方体状に固形化した誘因資材「ヘイキューブ」をわな周辺に設置した。設置数はわな一基当たり平均して10個程度である。これらの誘因資材がわな周辺の植生に及ぼす影響に関する定量的なデータを示した研究は未だ存在しないと思われる。

今後の展開

 今回のフィールド調査では、新型コロナウイルスの感染拡大を懸念して、当初予定していたシカによる農作物被害に関する地域住民への聞き込み調査を中止し、有害鳥獣駆除を実施している業者の職員のみを調査の対象とした。しかし、シカ含む有害鳥獣を適切に管理するためには、駆除業者限らず地域住民が駆除活動へ参加することが効果的であると既往研究で多々言及されているため、業者が行う有害鳥獣駆除の調査に並行して、地域住民の存在に焦点を当てた調査を実施しなければ、一地域の野生動物マネジメントの取り組みについて全体像をつかみとることはできない。そのため、今回調査を実施した猫越岳の山麓部で農業を営む地域住民に対して、シカによる農作物被害の実態及び地域住民自身が行っているシカ対策に関する聞き込み調査を行うことで、地域住民主体の野生動物マネジメントの実態を明らかにすることが今後の展開である。

参考文献

 環境省.2021.「最新のニホンジカ、イノシシの個体数推定及び分布調査の結果等について」令和3年3月15日.
 三浦愼悟.2008.『ワイルドライフ・マネジメント入門』岩波書店.
 宮内泰介編.2017.『どうすれば環境保全はうまくいくのか 現場から考える「順応的ガバナンス」の進め方』新泉社.

  • レポート:赤岡 佑治(2020年入学)
  • 派遣先国:(日本)静岡県賀茂郡西伊豆町
  • 渡航期間:2021年8月25日から2021年9月8日
  • キーワード:野生動物マネジメント、ニホンジカ、有害鳥獣駆除、西伊豆町

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