京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

島根県津和野町のカワラケツメイ茶の生産や歴史から読み解く茶の文化

写真1:カワラケツメイを草食することで羽化できる絶滅危惧Ⅱ類のツマグロキチョウ
(2022年7月津和野町:調査者撮影)

対象とする問題の概要

 島根県津和野町では、マメ科の草本性植物であるカワラケツメイ(Chamaecrista nomame (Makino) H. Ohashi)を材料とした茶が生産されている。元来カワラケツメイは河原の砂地や道端また森林の緑辺部など、日当たりの良いところに自生する植物である。現在では、河川工事や除草作業などによる環境の変化により、自生地が少なくなっている。津和野町内には3軒の緑茶園と1軒の茶舗が営業しており、無農薬を前提に茶園みずからがカワラケツメイを育てたり、津和野町周辺の農家に生産を委託したりしている。カワラケツメイの根を除いた地上部の植物体を乾燥させ、一定の大きさにカットし、焙煎した茶葉は「ざら茶」もしくは「まめ茶」と呼ばれている。カワラケツメイ茶は利尿作用や腎炎、脂肪吸収に効果があるとされ、根強い人気がある。
 本研究では、土づくりや除草、収穫といったカワラケツメイの生産過程と流通、そして歴史を調査し分析することで、緑茶生産も盛んな地域で野草茶カワラケツメイ茶を飲み続ける理由と地域に根ざした茶の製造の実態を明らかにする。

研究目的

 日本で初めて緑茶が飲まれたのは815年であり、それ以降17世紀後半まで、緑茶は高貴な人しか飲めない嗜好品で、庶民には縁の無いものであった。緑茶を飲むことができない庶民は、代わりに緑茶の原料となるチャノキ(Camellia sinensis)以外の植物を使って煎じたお湯を飲んでいたとされている[静岡産業大学こどもお茶小事典作成事業室2012]。カワラケツメイ茶は、緑茶ではない茶「野草茶」あるいは「茶外茶」のひとつである。カワラケツメイをお茶にして飲む地域は、日本国内に複数存在しているが、津和野町のカワラケツメイ茶は少なくとも17世紀の藩政時代から嗜まれつづけている。また、津和野では緑茶を城主の亀井家に献上するために昔から生産しており、現在でも緑茶生産は続いている[鳥取市鹿野往来交流館童里夢]。本研究では元々、野草であるカワラケツメイの生産や緑茶と茶外茶の歴史を調査することで、カワラケツメイと地域に根ざした茶の製造の実態を明らかにすることを目的にしている。

写真2:緑茶畑(両端)とカワラケツメイ畑(中央)上空写真
(2022年8月津和野町:撮影者高知大学岡田)

フィールドワークから得られた知見について

 2022年7月1日から9月1日までの2ヶ月にかけて島根県津和野町で参与観察、聞き取り調査、また味覚評価を実施した。今回のフィールドワークでは、主にカワラケツメイの生産から収穫までの一連の作業や植物の観察などを中心に実施した。
 津和野町では、5月初旬のまとまって雨が降りそうな日の2日前にカワラケツメイを播種する。芽生えてから2週間は、周りに生えてくる雑草を抜く作業を怠ると、雑草に埋もれて日差しが遮られてしまい、カワラケツメイの育ちが悪くなる。背丈20cmほどに育てることができれば除草作業は1週間に一回ほどと頻度が減っていくため、芽生えた後の2週間がとても重要になる。7月頃には、背丈60cmほどに生長し、黄色い花を咲かせはじめ、豆鞘が形成される段階に突入する。そして豆鞘が黒く熟し始める8月中旬に、生産者は収穫作業を始めていく。播種する日や収穫する日は、それぞれの生産者によって異なるが、だいたい播種から90日から100日が経過してからカワラケツメイが収穫される。収穫してからの乾燥方法は、販売する茶園及び茶舗によって違っており、天日干しをお願いする茶園もいれば、風通しの良い倉庫の中で陰干しをお願いする茶舗もいる。
 津和野町のカワラケツメイをお茶に加工していく習慣は、茶園がカワラケツメイのお茶を販売し始める前から存在していた。津和野町のある集落では、自家消費するお茶として庭先や田んぼの空いている場所に、カワラケツメイを植え、茶へと加工していた。遡れる年数に限界はあったが、少なくとも150年くらい前までは津和野町では日常的にカワラケツメイを育て、お茶にしていたということを聞き取ることができた。緑茶を生産する地域であるが、昔から「茶」と言えばカワラケツメイ茶だと語る人が多く、津和野町では緑茶よりもカワラケツメイ茶の方が親しみやすいお茶だということがよく理解できた。

反省と今後の展開

 津和野町の茶園及び茶舗から、カワラケツメイのお茶は藩政時代の頃から嗜まれていたと聞いてきた。その野草茶であるカワラケツメイ茶が、現在まで生産され、飲まれ続け、地域の生活や文化に根ざしていることには、感銘を受けた。次回は、昔から津和野町に住んでいる方々一人一人に、カワラケツメイ茶や緑茶についてお話しをお伺いし、津和野における茶をたしなむ文化や、茶に対する価値観についてまとめていきたい。

参考文献

 静岡産業大学こどもお茶小事典作成事業室.2012.「めざせ!お茶博士 こどもお茶小事典 お茶の基本108と88のQ&A」.(https://www.ocha-festival.jp/contents/images/ocha_dic.pdf
 鳥取市鹿野往来交流館童里夢.「冊子:鹿野藩主 亀井茲矩」.

  • レポート:木戸 大貴(2021年入学)
  • 派遣先国:(日本)島根県津和野町
  • 渡航期間:2022年7月1日から2022年9月1日
  • キーワード:カワラケツメイ、無農薬、茶文化、野草茶、ざら茶、まめ茶

関連するフィールドワーク・レポート

インド指定部族の社会移動への意識とその実践/タミル・ナードゥ州指定部族パニヤーンを事例に

対象とする問題の概要  これまでインド政府は貧困問題を解決するために様々な政策を実施してきた。その成果はある程度認められるものの、依然として多くの貧困層を抱えており、貧困削減はインド社会において重大な社会問題として位置づけられている。なかで…

ベナン中都市における廃棄物管理システムを取り巻く価値観――日本の生ごみ資源化事業の研究動向から――

研究全体の概要  アフリカ諸国では、近年の急激な人口増加と都市化に伴い、経済発展における中小都市の重要性が高まっている。将来のさらなる人口増加に備え、アフリカ中小都市の廃棄物管理体制の整備が重要であり、ごみの資源化は有効な方策の一つである。…

サードプレイスとしての泥棒市 ――あいりん地区における公共空間と不法占拠――

研究全体の概要  本研究は、あいりん地区の泥棒市を事例とし、路上営業を通じて公共空間に自らの居場所を確保していくという「創発」を生み出す主体としての露店商を捉えていくものである。まず、夏季に比べて冬季の露店営業規模は縮小し、60代以上の高年…

ダークツーリズムと住民および労働者の歴史認識 /セネガル・ゴレ島の事例

対象とする問題の概要  セネガルのゴレ島は、奴隷貿易の拠点として利用された歴史を有し[Maillat  2018]、現在では奴隷収容所が多くの観光客を集めている。1978年に世界遺産に登録された同島は、ダークツーリズム的観光地である一方で、…

植民地ケニアにおけるオーストラリア人女性宣教師

対象とする問題の概要  キリスト教は成立の初めから、「宣教的宗教」として[戸田2016]、普遍的な「神の言葉」である聖書を、言語や文化、民族の境界を越えて伝えるよう求めてきた。特に19世紀以降、宣教師が世界のあらゆる場所へ赴くようになったこ…

東南アジア大陸部におけるモチ性穀類・食品の嗜好性について

研究全体の概要  東北タイ(イサーン)およびラオスでは、日常的に主食としてモチ米が食されている。一方、タイ平野部を含めた東南アジア大陸部の多くの地域では主にウルチ米が主食として食されており、主食としてのモチ米利用は、イサーンやラオスの食文化…