京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ザンビアの農業政策における情報技術の導入と農村生活

調理小屋(右)とメイズ貯蔵庫(左)
貯蔵庫の周りにはヤギ除けのために、とげのある木が置かれている。

対象とする問題の概要

 World Food Programme [2016] によると2016年8月現在、アフリカ南部ではエル・ニーニョ現象が深刻な干ばつの被害をもたらし1,800万人が栄養失調と飢餓に直面している。アフリカ南部最大の穀倉地帯とされるザンビア共和国では、農業生産の大部分を担う小規模農家が打撃を受けている。ザンビアにおいて重要な主食穀物であるメイズを生産するには化学肥料の投入が必要である。
 ザンビア農業省は 2015年に農業投入財の配給を容易にする「電子バウチャー」を導入した。この電子バウチャーはプリペイド式で、小規模農家が銀行に入金すると、政府からの補助金が追加されたカードが渡される。各農家の携帯電話に送られてきたコード(数字4桁)とカードを農業資材店で示すと、農業投入財を入手できる。これは補助金給付の透明化と効率化を目的とし、化学肥料の安定供給と人々の生活向上が期待されている。農村部では補助金に対する要望は強いものの、その実態と効果は把握されていないのが実情である。

研究目的

 ザンビアにおける情報技術の導入と主食穀物であるメイズの生産に焦点をあてることで、農村開発における情報技術の可能性とその課題を検討することをめざす。具体的には、電子バウチャーによる化学肥料の普及実態を調査し、農業補助金の電子化に対する人々の受容と改善点を明らかにする。今回の調査では主に以下の内容を調査した。
1) 電子バウチャープロジェクトの計画と進行状況
2) 農家による電子バウチャーの利用、化学肥料の投入量、農業生産量
3) 電子バウチャーの仕組み、肥料供給量に対する農家の意見と改善点

バイヤーの女性がメイズを秤量し、農家より買い取っていく。
バイヤーの女性(左奥)が農家の立会いのもとで計測した重量をノートに記録する。

フィールドワークから得られた知見について

 ザンビア北部のムチンガ州ムピカ県の農村に住み込み、参与観察にもとづき、乾季における農作業の詳細を記録した。また、村内の55世帯を対象に、電子バウチャーによる化学肥料とメイズ種子の受け取り、メイズの収穫と消費、売買についての聞き取り調査を実施した。16世帯に対してはGPSによる農地の計測もおこなった。
 乾季の農作業には、主にメイズの収穫と野菜栽培、焼畑の準備がある。本報告ではメイズの収穫に注目する。メイズの収穫は6月上旬に終了し、6月中旬にはメイズが屋外の貯蔵庫に積まれていた。7月中旬から下旬にかけては、穀粒が袋に詰められた。調査世帯ではメイズの収穫量が高く、収穫量は50kg袋で約100袋となった。ただし、このような世帯は稀であり、ほとんどの世帯の収穫量は数袋から30袋であった。収穫量が30袋であれば、そのうち10袋ほどを販売するが、20袋以下の世帯では自家消費用のみとなり、現金収入を得るのは難しい。
 自家消費用に保管する理由は、調査地域のザンビア北部では降雨に恵まれたが、南部では2018年11月から2019年3月にかけて降雨不足であったためにメイズは不作であり、メイズの国内価格が高騰することが予想されるからである。貯蔵が尽きると食料を購入するのは難しいため、例年以上に保管しておくことを農業組合や教会から推奨されている。
 良好な降雨であるにもかかわらず、収量が芳しくない理由として、政府による化学肥料の供給量が少ないことが挙げられる。政府の財源不足のために、2年前から始まった電子バウチャープログラムでは小規模農家の30%しか、電子バウチャーが与えられていない。そのため、農業組合内では農家どうしが2~4人のグループとなり、50kgの化学肥料6袋を分け合っていた。この肥料では、自給用のメイズを十分に生産することはできない。農家からは、電子バウチャーの仕組み自体には問題はないが、肥料供給量が不足するのは問題だという意見を多く聞いた。

反省と今後の展開

 調査の反省点として、スケジュール調整を挙げておきたい。当初の目標では、55世帯に対して、メイズの袋詰めの前後で2回にわたるインタビュー訪問と、測量を予定していた。インタビューは予定どおり完了したが、時間の不足により測量は16世帯のみとなった。1世帯あたりの農地は3~10か所あり、遠ければ徒歩で片道一時間以上かかる。今後は調査を円滑にするため、インタビューと実測調査を同時に進めるようにしたい。
 今後の研究については、頻発する干ばつへの対策をザンビア政府がどのように考えているのか、農家がどのように対処するのかをみていきたい。

参考文献

【1】“El Niño: Faces of the Southern Africa drought” World Food Programme Insight <https://insight.wfp.org/el-niño-faces-of-the-southern-africa-drought-115c2ede8c33> (アクセス日 September/12/2019)

  • レポート:田端 友佳(平成30年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2019年6月11日から2019年9月3日
  • キーワード:ザンビア、干ばつ、メイズ生産、電子バウチャー、化学肥料

関連するフィールドワーク・レポート

レバノン・シリア系移民ネットワークにおける現代シリア難民 ――国内事例の動向――

研究全体の概要  本研究は、シリア難民のグローバルな経済的生存戦略の動態を明らかにする。19世紀末以降に歴史的シリア(現在のシリアとレバノンに相当する地域)から海外移住したレバノン・シリア系移民は、現在に至るまで自らの商才を生かして世界各地…

分断時代の南ベトナムにおける仏教徒運動とその思想

研究全体の概要  1963年5月釈迦誕生祭にて国際仏教旗の掲揚が禁じられたことを背景に仏教徒は宗教弾圧を訴えながら宗教平等を求める一連の社会運動を起こした。仏教徒はベトナム共和国(南ベトナム)の都市で反政府運動を展開し、自分の命すら落とす焚…

復興期カンボジアの障がい者に対する国際援助政策の研究

対象とする問題の概要  今日のカンボジアの障碍者福祉は、1980年代の人道支援を源流とし、1991年のパリ協定を皮切りとした国際援助とともに形成されてきた。カンボジア政府は、2014年からと2019年からの4年間、障碍者戦略計画を掲げ、障碍…

インドネシア・カリマンタンにおける森林保護の動向 /複数ステイクホルダーによる活動から

対象とする問題の概要  2019年9月の国連気候変動サミットにおいて、スウェーデンの環境活動家グレタ・トゥーンベリが環境問題に対する力強いスピーチが話題となった。彼女以前にも気候変動に対する警鐘は長きにわたってならされたはずであるが、この問…

金融互助実践とコミュニティに関する研究――ジョグジャカルタのアリサンを事例に――

対象とする問題の概要  アリサン(arisan)とはインドネシアの人々が日常的に行うインフォーマルな金融互助実践のことあり、世界各地で共通してみられるROSCA(回転型貯蓄信用講)の一種として知られている。近隣住民や家族・親族、同業者などが…

在タイ日本人コミュニティの分節とホスト社会との交渉/チェンマイ、シラチャ、バンコクを事例に

対象とする問題の概要  2017年現在、在タイ日本人の数は7万人を超え、これは米国、中国、豪州に次ぐ規模である 。タイでは、1980年代後半から日系企業の進出が相次ぎ、日本人駐在員が増加している。加えて1990年代以降は日本経済の低迷や生活…