京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ザンビア国ルサカ市都市周縁未計画居住区における し尿汚泥管理に関する実態調査

写真1 し尿の引抜き現場

対象とする問題の概要

 世界では、ピットラトリンや腐敗槽などの基本的な衛生施設を利用可能な人数は増え続けている[WHO/UNICEF 2023]。これらの施設を維持するためには、施設からし尿を引抜き、処理場まで輸送するための労働者(以下、「衛生労働者」とする。)が必要であるものの、業務を通して、衛生労働者は感染症への疾患、また差別や偏見の対象となっており労働環境等を改善する必要がある[World Bank et al. 2019]。しかし、これらの衛生労働者に関する情報は限られている。特に、今後アフリカ地域で衛生労働者のニーズが拡大することが想定されているにも関わらず、当該地域における情報はほとんど明らかになっていない[Sterenn et al. 2022]。調査対象地として選定したザンビア国ルサカ市の都市周縁未計画居住区においても、し尿の引抜きや輸送(以下、「し尿汚泥管理」とする。)のニーズの増加に伴い、サービスを提供している会社数が増加している一方で、会社および各社に勤務する衛生労働者の情報は限定的である。

研究目的

 上述した問題に対して、本研究ではルサカ市の都市周縁未計画居住区の1つであるChawama地区でし尿汚泥管理ビジネスに従事している7社を対象に表1の手法で調査を実施した。また、衛生労働者の現場作業に同行することで、現場での課題について調査した。

 マネージャーおよび衛生労働者に対する各調査を通して、会社や衛生労働者が直面している課題を明らかにし、持続的なし尿汚泥管理ビジネスについて検討することを本研究の目的とした。

写真2 し尿汚泥管理ビジネスに従事する会社の事務所

フィールドワークから得られた知見について

 マネージャーに対する半構造化インタビューより、主に以下のことが明らかになった。
・し尿汚泥管理ビジネスへの参入理由
・雨季、乾季それぞれの1日あたりのし尿汚泥引抜回数
・各社のし尿汚泥管理ビジネスの規模(衛生労働者の人数、トラックの数など)
・各社とルサカ市の上下水道公社(Lusaka Water and Sewerage Company)との関係
・各社が衛生労働者に配布している保護具(作業着、作業靴、手袋など)
・マネージャーの視点でのし尿汚泥管理ビジネスを継続するための課題

また、衛生労働者に対するフォーカス・グループ・ディスカッションより、マネージャーの一部回答との差異について確認したことに加えて、主に以下のことが明らかになった。
・衛生労働者が仕事を選択した理由
・衛生労働者が受けている研修や医療等のサービス
・衛生労働者の健康リスク
・衛生労働者が利用している保護具
・衛生労働者が受けている差別や偏見
・衛生労働者の視点でのし尿汚泥管理ビジネスを継続するための課題

加えて、現場作業への同行を通して、し尿汚泥管理の作業を理解し、衛生労働者が直面している健康リスクについて定性的に把握できた。

反省と今後の展開

 ザンビアでの調査は、今回が初めてであった。したがって、関係者に調査概要を説明し、Chawama地区での調査許可の取得、および当該地区でし尿汚泥管理に従事している会社からの調査への同意を得ることに時間を要した。本調査を通して各社との関係を構築し、し尿汚泥管理の作業について理解したため、次回調査では衛生労働者が直面している健康リスクをより精緻に検討したいと考えている。具体的には、まず衛生労働者の現場作業から曝露行動と感染媒体を特定し、次に感染媒体中の大腸菌等を測定することで、リスクを定量化したい。また、Chawama地区を度々訪問し、住民へのヒアリング、および衛生施設を視察したものの、具体的な調査は時間が足りず未実施である。したがって、次回現地滞在では、今回得られた知見に基づき、当該地区の住民を直接対象とした調査も実施したい。

参考文献

 Sterenn, P.; Andrés, H.; Gloria, K.; Jules, S.; Hermann, B. K.; Wandoo A.; Lloyd, B.2022. Challenges Facing Sanitation Workers in Africa: A Four-Country Study. MDPI.
 WHO/UNICEF. 2023. Progress on household drinking water, sanitation and hygiene 2000-2022: special focus on gender.
 World Bank; ILO; WaterAid; WHO. 2019. Health, Safety and Dignity of Sanitation Workers An Initial Assessment.

  • レポート:後藤 正太郎(2023編年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2023年9月11日から2023年11月23日
  • キーワード:アフリカ地域研究専攻、ザンビア、衛生、し尿汚泥

関連するフィールドワーク・レポート

ジャカルタにおける都市住民の洪水対策における隣組(RT)・町内会(RW)の役割

対象とする問題の概要  世界的に都市災害が増加、激化する中、災害時の被害軽減のためには構造物対策だけでなく行政と連携した地域コミュニティレベルの防災活動が重要であると言われている[辻本2006]。ジャカルタで顕著な都市災害としては洪水が挙げ…

キャッサバ利用の変化と嗜好性からみるタンザニアの食の動態

対象とする問題の概要  キャッサバは中南米原産の根菜作物であり、現在世界中でさまざまに加工・調理され食べられている。タンザニアでもキャッサバはトウモロコシやコメとならんで最も重要な主食食材の1つである。キャッサバを主食としていない地域でも、…

イスラーム経済におけるモラリティの理念と実践――マレーシアを事例として――

対象とする問題の概要  現代マレーシアは、1980年代以降、政府の強力なイニシアティブを背景に、イスラーム金融先進国としての道を歩んできた。一方、イスラーム経済の中での金融分野への過度な関心の集中は、イスラームの理念からの乖離として批判の対…

長期化難民/移民に対する援助と地域社会の形成――タイ・ミャンマー国境地帯を事例として――

対象とする問題の概要  2021年以降、ミャンマーでは170万人以上がIDP[1]として国内での避難を余儀なくされている[2]。タイ国境においては歴史的に、国際的な人道支援アクセスが制限されるミャンマーへの「国境を越えた支援」が草の根のCS…

ナミビアにおける牧畜民ナマとその家畜との関係理解

対象とする問題の概要  ナミビアの南部には、「ナマ」という民族名で呼ばれている人々が多く生活している。彼/女らは少なくとも17世紀から現在のナミビア国内の広い範囲で牧畜を生業とする生活を送っていたが、主にドイツ統治期の植民地政策と南アフリカ…