人新世のイスラーム世界におけるムスリムの環境観と環境実践――エコ・モスクを事例に――
対象とする問題の概要 近年、地球環境問題の深刻化を受け、イスラームの教義を取り入れた環境保護活動が活発化している。2億人以上のムスリム人口を持つインドネシアは、環境問題の文脈に即した新しいイスラーム理解を展開している。この新たなイスラーム…
エチオピア西南部の高地に住むアリの人びとは、バルチモアと呼ばれる木製の3本足の椅子を日々の生活で利用している。調査対象にしたジンカ市T地区に生活する人びとは、バルチモアだけではなく、プラスチック製椅子や複数の素材を組み合わせたソファなどを日々の生活で利用している。
ジンカ市T地区は、街の中心部から徒歩30分程度の距離にあり、アリの人だけではなく、他の民族集団の人も近接して居住し、互いに関わりをもって日常生活を営んでいる。地方の町で椅子や民族集団の境界を越えた椅子の利用の仕方に着目して調査することでそれぞれの生活様式と身体の使い方の関係を明らかにすることができると考える。
エチオピア西南部高地における日用具の中でも、特定の素材(木工品、竹製品、粘土製品、鉄製品など)に限定し、その製作・利用と博物館での展示を通して当該社会における生活文化の保全について検討することである。今回の調査では、来年度提出を予定している博士予備論文のため予備調査を実施し、本調査に向けて調査対象地を選定して、調査課題を深化させることを目指す。
今回の調査では、①日用具の素材の入手方法から利用の過程を体系的に捉えること、②素材の分布やその入手方法を検討することを契機にして、周辺の生態環境の状況や変化を把握することに特色がある。この調査を行うことで、①博士予備論文のための調査地を選定することができると同時に、②多様な素材を使った日用具の製作・利用の変化を把握し、文化資源としての日用具の保全だけではなく、周辺の自然環境の保全について検討する資料を提供できる。
今回、得られた知見は4つある。
1つ目は、椅子を主な対象として予備調査に取り組み、日常生活の行動や姿勢との関わりが見出せたことである。椅子の高さや座面の形、背もたれの有無などの特徴の把握と同時に、利用者の年齢や性別、居住地域に留意し、彼女らの座る姿勢や生活様式などを検討した。
2つ目は、民族集団の境界を越えた利用の仕方に着目して、ジンカ市テナダム地区を主な調査地として選定した点にある。今回訪問した4つの市町村(ジンカ市テナダム地区、アルキシャ村、バイツマル村、ガゼル市)のうち、テナダム地区ではアリ人と周辺の民族集団が日常的に交流を持ちながら生活を営んでいる。
3つ目は、バルチモア/バルチマ(以下、バルチモア)とよばれる椅子とその形態や素材の把握に努めた点にある。バルチモアとは、1本の丸太を掘り出して製作される3本足の椅子である(写真1)。
調査した8世帯のうち、バルチモアを所有していた7世帯にある合計12個を観察・計測した。座面は円に近い形で、座面の長さ(最長部分)は23.5~35cm、椅子の高さ(最長部分)は20.5~35.2cmだった。聞き取りによれば、観察・計測した12個のうち11個は、現地語でアシャと呼ばれる木で製作されていた。また、観察・計測した12個のうち11個で座面にバルチと呼ばれる模様が観察された。
4つ目は、バルチモアの利用実態を把握したことである。T地区に暮らす6世帯においてバルチモアの利用について調査したところ、必要に応じて持ち運ばれて、利用されていた。例えば、台所で作業をしている時に友人が来た際、子どもに指示して台所に持ってきてもらい、そこに椅子を置くことで作業をしながら団欒の場を創りだしていた。
これに加えて、女性たちの座る姿勢について調査したところ、肌が地面に付かないように古着やサンダルを敷いて座っていた(写真2)。例えば、台所で座る時、古着を尻に敷き、足を伸ばしてサンダルの上に踵を置いていた。
今回の調査では、ジンカ市T地区を対象にしたことで、都市部の若い女性を中心に調査を行った。調査した世帯には、複数の素材の椅子があり、地面の上に古着やゴザを敷いて座るなど、民族集団の違いに関わらず、共通点が複数あった。次回の渡航では、都市部だけではなく農村部での調査にも着手し、農村部の若い女性たちの生活様式と身体の使い方についてのデータを収集する。
また、行動観察や聞き取り調査に加え、椅子に対してどのような姿勢をとっているかを把握するため、動画の撮影も行い、そのデータを分析する。今回の調査では、椅子の重さや座面の角度を測できなかった。計測機器を用いて椅子の形態についての情報を集め、身体動作の関係について検討を深めたい。
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