セントラル・カラハリ・サンの子ども社会への近代教育の影響――ノンフォーマル教育の事例から――
対象とする問題の概要 1977年より、ボツワナ政府は、民主主義、発展、自立、統一を教育理念に掲げてきた。1970年代中頃まで狩猟採集を生活の基盤としていたサンの社会は、政府の定住化政策によって、管理、教育、訓練の対象となってきた。こうした…
伝統的な自然経済から工業化、産業化の高度発展のもとグローバル化が急速に進んだ今日、コミュニティそのものの在り方も大きく変動してきた[山田2020]。一方、都市部でありながら依然として村落共同体的な性格が色濃く残る場所も存在する。インドネシアのジョグジャカルタも、そうした場所の一つである。ジョグジャカルタは巨大都市と周辺農村を結ぶ接点としての中間都市であり、社会的・経済的にも都市的な特質と農村的な特質の両方を兼ね備える傾向にある地方中心都市である[古屋野1987]。本研究は、そうした地方都市における「つながり[1]」の様相の現在を捉えようとするものである。
インドネシアの地方都市に暮らす人々が形成する社会経済的なネットワークの動態を明らかにすることが、本研究の目的である。都市化が進むなか、人々はどのような「つながり」のなかで生きているのだろうか。その「つながり」は、都市の生活のなかでどのように機能しているのだろうか。こうした関心にもとづき、人々の社会経済的なネットワークの一つとしてみなされているアリサンを調査対象とした。アリサンとは、インドネシア各地に広くみられる互助組織、頼母子講のことである。ジョグジャカルタを調査地とし、インドネシア語による聞き取り調査と参与観察を行った。
調査を行ったP地区[2]の住民が参加するアリサンは、大きく二つのタイプに分けることができる。一つは水平的つながり(地縁関係が軸となるコミュニティ)を基本原理とするアリサンで、もう一つは垂直的つながり(血縁関係が軸となるコミュニティ)を基本原理とするアリサンである。
前者のアリサンにはRT(隣組)単位で行われるものや、PKK(家族福祉育成運動)単位で行われるものなど、多層的である。女性のみが参加する集会が一般的である一方、RT単位のアリサンには男性のみが参加する集会もあった。そこでは信頼を土台に、顔の見える地縁的つながりによって活動が維持されていた。しかし、地区内のつながりはそうした集会だけに限定されない。日が沈むとP地区の住民たちは家の軒先でくつろぎ、前を通りがかる隣人と自然発生的に世間話が始まる様子を何度も目にした。こうした世間話のことを彼らは「ノンクロン(Nongkrong)」と呼んでいた。また、地区内にあるアンクリンガン[3]に集まり夜遅くまで世間話に興じる住民たちもいた。
後者のアリサンにはtrah単位にもとづくものがあげられる。trahとは特定の祖先を共有する親族集団であり、ジョグジャカルタと隣町スラカルタにみられる。宮廷の親族組織を起源に持ち、時代を経て民衆の間でも組織化されるようになっていった[Sjafri 1982]。先述したRTやPKK単位のアリサンでは金銭の授受や積み立てが主要な目的であったが、trahのアリサンは親睦が目的であることが多い[宮崎1986]。報告者が調査したtrahの集会においても、会員は少額の会費を払うだけで、くじの当選者はせいぜい日用品か少額の資金が入った封筒を受け取るくらいであった。
これらの活動は、定期的に繰り返され、人々の日常の暮らしのなかに根づいている。そしてこれらのコミュニティは非常に重層的であり、住民たちは参加するコミュニティを各々のニーズに沿って選び取っていることが分かった。
今後の課題として、2つあげたい。まず、より幅広い対象にアプローチする必要性についてである。報告者が調査したアリサンは、P地区のなかでもごく一部のものに過ぎず、十分な資料が得られたとは考えにくい。今回の調査で得られたネットワークを活かして、さらなる調査に励みたい。次に、オンラインで行われるアリサンの実態を追えなかったことだ。昨今は若い世代を中心に、水平的つながりでも垂直的つながりでもない、オンラインを通した新しいアリサンが登場している。しかし信頼を土台に成り立つアリサンにおいて、匿名性のあるオンライン・アリサンには多くの問題が孕んでいる。人々の「つながり」の現在の様相を捉えるためにも、昨今のデジタル化を利用した動きは注目に値するものであると考える。
[1] 「家族、親族、コミュニティなどのさまざまな集団内における個と個との相互の関わりあいをとおして形成される関係性[山田2020]」の意味で用いる。
[2] ジョグジャカルタ特別州スレマン県に位置する。P地区はジョグジャカルタ市内に近く、都市的な様相を持つ住宅密集地(kampung/都市村落)である。
[3] 飲み物や軽食を提供する簡易的な屋台
古屋野正伍編. 1987. 『東南アジア都市化の研究』アカデミア出版会.
宮崎恒二、宮崎寿子. 1986. 「文化現象としてのtrah」『東南アジア研究』23(4): 439-451.
山田孝子編. 2020.『人のつながりと世界の行方―コロナ後の縁を考える』英明企画編集.
Sairin, Sjafri. 1982. Javanese Trah, Kin-Based Social Organization. Yogyakarta: Gadjah Mada University Press.
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