京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

セネガルにおけるグラフィティの流行とその役割

写真1 グループ外の仕事を請け負うグループDのグラファー

対象とする問題の概要

 セネガル共和国(以下セネガル)の都市部の壁には、多くの落書きや壁画が描かれている。それらは「グラフィティ」あるいは「ストリートアート」として市街の風景に溶け込み、グラフィティを描く人びとは、自らを「グラファー」や「アーティスト」と自認している。
 グラフィティとは、都市空間にスプレーやマーカー等で自らの名前やサインを拡散的に書き残していく行為、および書かれたものを指す。欧米を中心とした従来の研究では、グラフィティを落書きや政治的主張の場と捉える国家や行政による規制 [Glazer 1979] と、グラフィティの描き手との間で発生する緊張関係 [Lewisohn 2009] に焦点が当てられてきた。この文脈から、グラフィティは、多くの国で処罰・罰則の対象となる一方で、若年層による公権力へのカウンターカルチャーや、新たなアートの表現方法として議論されていく。しかし、途上国で行われるグラフィティ活動や、社会への影響は十分に議論されてこなかった。

研究目的

 セネガルでは、独立から現在までグラフィティを描くことが禁止されておらず、街なかでは至る所にグラフィティが描かれている。グラフィティの描き手たちは昼間から集団でグラフィティを描き、その動機を市民への意識変容を促すためだと述べる。彼、彼女らが描くグラフィティは、教育・啓蒙的なメッセージが多く、また、路上という開かれた空間での活動は子どもたちが美術に触れ、参入する機会にもなっている。このように、セネガルではグラフィティが、単なる「落書き」や「カウンターカルチャー」ではなく、ローカルな文脈が組み込まれて再解釈されている。では、いかにしてグラフィティは受容されているのか。
 本研究では、グラフィティを描く人びと、そして、グラフィティを見る住民への調査を通じて、グラフィティの意味や価値がどのように生産され、受容されていくのかを明らかにする。

写真2 私立高校の外壁に描かれた大規模なグラフィティ

フィールドワークから得られた知見について

 今回の調査では①グラファーたちの仕事内容②住民のグラフィティへの意識調査を中心に行った。①ではグラファーらとともに働きながら調査をし、②ではグラフィティが描かれた私立高校の1年生41名に対し、アンケート調査を行った。上記調査の結果、以下の知見が得られた。
① グラファーたちの仕事内容
 同国内では現在、10あまりのグラフィティグループが活動している。中でもグループDとグループRはメンバーの多さ、メディアへの露出頻度の高さ、そして描くグラフィティの大きさなどから国内外を問わず注目を浴びている。しかし、彼ら、彼女らはグラフィティのみで生計を立てることは少なく、建物の塗装や看板製作、美術教師など別の仕事に従事している。
 また、双方のグループから1名ずつ「グラファー」として生計を立てている人物に2024年12月の仕事内容と収入を聞いた。グループDに所属するAさんは、グループの仕事以外にも国内各地から建物装飾の依頼を得ており、休日も7日程度しかないことがわかった。他方、グループRに所属するBさんはグループの仕事しかしておらず、実働日数は9日であった。さらに、Aさん、Bさん双方から仕事量は月によって異なるとの回答を得ており、グラファーの仕事は不安定であることが示唆された。
② 住民のグラフィティへの意識調査
 2024年11月、グループRが上記高校の門を囲む壁に、同グループが主催するイベントの一環として大規模なグラフィティを描いた。
 これに関し、報告者は生徒へグラフィティに対する印象や、今後もグラフィティを描いてほしいかという質問を行った。すると、アンケートに答えた生徒全員がグラフィティをポジティブに捉えており、地域を美化するためにもグラフィティを描いてほしい、という言葉が多数見受けられた。
 以上から市民はグラフィティを好意的に捉えており、グラファーも仕事の増減はあるものの定期的に顧客を獲得できている現状が明らかになった。

反省と今後の展開

 今回の調査では、滞在日数が短かったこともあり、限られたグラファーからしか生活状況を聞くことができなかった。次回調査では、できるだけ多くのグラファーに生活状況の聞き取りを実施したい。
 アンケート調査は今回初の試みであった。今まで調査の対象にしてこなかった年代の人々の回答を得られたことは本研究にとって大きな進歩だった。一方で、質問設定やその書き方が回答者にとって混乱を招いた可能性がある。次回はその点を改善し、別の集団にも調査を実施したい。
 今後は、グラファーの顧客への聞き取り調査を行い、顧客がグラファーをどのように認識しているのか、また、顧客の要望がグラファーの表現方法にどのような影響を与えているのか調査を進めていきたい。

参考文献

 Glazer, N. 1979. On Subway Graffiti in New York, The Public Interest (54): 3-11.
 Lewisohn, C. 2009. Street Art: The Graffiti Revolution. London: Tate publishing.
 Rabine, L. 2014. These Walls Belong to Everybody: The Graffiti Art Movement in Dakar, African Studies Quarterly 4(3): 89-112.

  • レポート:前田 夢子(2022年入学)
  • 派遣先国:セネガル共和国
  • 渡航期間:2024年12月1日から2025年2月2日
  • キーワード:セネガル、グラフィティ、アフリカ都市、芸術の人類学

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