京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

セネガルにおけるフェミニズム運動の現在――ダカールに所在する女性支援団体を拠点に――

写真1 Dieuppeul-Derklé区役所にてRSJ職員が関係者にプロジェクトの説明をする

対象とする問題の概要

 セネガルは西アフリカにおけるフェミニズム運動の中心地であり、特に首都ダカールはその拠点となっている。セネガルのフェミニズムは第一波(1980-1990)/第二波(1990-2000)/第三波(2000-)の3つに分類される [Gueye & Ba 2021]。急進的な第一世代に対し、第二世代以降はフェミニズムの「社会化」と「脱植民地化」を目指し、より穏健で文化的・宗教的に受容されやすい運動へと展開していったとされる [Ngom 2021]。しかし先行研究では、運動内部の動態や、活動家達の多様な属性と思想は捨象されており、同国におけるフェミニズム運動の全体像と複層性を十分に説明できていない。そこで本研究では、第2波の最中に設立され、国内外に広範なネットワークを有する代表的女性団体レゾー・シギル・ジゲン(Réseau Siggil Jigéen、以下RSJ)を中心に調査を行い、セネガルのフェミニズム運動の実態と変遷を詳細に記述・分析することで、その全体像と複層性を描き出すことを試みる。

研究目的

 研究の目的は、セネガルのフェミニズム運動の全体像を通時的・共時的に描き出すことである。とりわけ今回の調査では、団体職員の属性(出自、信仰、年齢、性別、学歴、職歴等)や動機(RSJで働くことになった経緯、今後のキャリアへの展望等)をインタビュー調査によって明らかにすることに主眼を置く。

写真2 7月31日「国際アフリカ女性デー」(La Journée Internationale de la Femme Africaine)にRSJオフィスでイベントを開催する

フィールドワークから得られた知見について

 調査では、RSJで働く職員合計11名(内訳:会長1名、代表1名、モニタリング・評価担当官1名、アドボカシー担当官1名、総務・財務マネージャー1名、プロジェクト担当官2名、財務担当官1名、コミュニケーション担当官1名、インターン生1名、国際援助団体から出向しているインターン生1名)に対して半構造化インタビューを行った。インタビュー項目は、会長以外の10名には主に①属性(出自、信仰、年齢、性別、学歴、職歴等)、②RSJで働くことになったきっかけ、③担当している仕事とそのやりがい、④今後のキャリアの目標、⑤今のセネガルにおけるジェンダー・フェミニズムに関する課題について質問した。一方、RSJの創設者である会長には、これら①、③、⑤に加えて幼少期のライフヒストリーやRSJ創設の背景について質問した。
 インタビューからは、会長を除く管理職3名は自身が過去に市民社会団体(Organization de la société civile, OSC)を立ち上げたことがあり、その繋がりからRSJのポストを得たこと、それ以外の人々は類似の女性支援団体で過去に働いた経験があり、その際の人的繋がりからRSJで働くようになったことが分かった。また、職員全員が自身の仕事にやりがいを感じ、女性達や社会に貢献していることに喜びを感じていると語っていた。更に、今のセネガルにおけるジェンダー・フェミニズムに関しては、ジェンダーやフェミニズムという概念を地域の人々に理解してもらうことや、セネガルの社会・文化に合致するジェンダー概念を根付かせることが課題であると語っていた。

反省と今後の展開

 1点目の学びは、渡航前に調査準備をできる限り十全に行っておくべきだということである。本来であれば、前回の調査で収集した機関誌を精読しておき、その内容をインタビュー内容に反映しながらインタビュー項目を推敲したかったが、渡航中は何かと多忙であったり体調を崩したりなどで想定していたよりも準備に掛けられる時間的余裕がなかった。特に今回は2か月という短期間での調査であったため、今後は資料の精読や調査項目の推敲はできる限り渡航前に終わらせておくようにしたい。
 2点目の学びは、1点目と矛盾するようであるが、「準備できたところまででとりあえず調査を進める」という思い切りも大切なことである。やる前から完璧を求めすぎるとそれはそれで調査が進まなくなるため、一先ず走り出しながら考え、改善できるところは改善していくという心持ちを大切にしながら調査を進めていくようにしたい。

参考文献

 Gueye, B. and Ba, S. 2021. Senegalese Feminism Across Generations: From Radicalism to a More Inclusive Feminism. Heinrich Böll Stiftung. <https://za.boell.org/en/2021/07/07/senegalese-feminism-across-generations-radicalism-more-inclusive-feminism>(2025年9月28日)
 Ngom, S. 2021. Femmes et politique au Sénégal : Les dynamiques imbriquées d’inclusion-exclusion de l’indépendance à nos jours. Editions L’Harmattan.

  • レポート:金信 光恵(2024年入学)
  • 派遣先国:セネガル共和国
  • 渡航期間:2025年7月17日から2025年9月19日
  • キーワード:セネガル、第三世界フェミニズム、脱植民地フェミニズム

関連するフィールドワーク・レポート

ラオスの小規模輸送を可能にする長距離バス――家族経営の公共交通機関――

対象とする問題の概要  東南アジアの内陸国であるラオスは、山岳地帯が国土の多くを占めている。道路輸送が全モードの輸送量のうち大半を占めるにもかかわらず、道路の舗装率は周辺国に比べて低い。時間と費用共に輸送コストが高く、大規模なサプライチェー…

現代インドにおけるヒンドゥーナショナリズムの高揚とムスリム社会の動態

対象とする問題の概要  インドは独立以来世俗主義を国是とし、多民族、多宗教、多言語国家である。この国家観を多くのムスリムが信じたことで、パキスタンとの分離独立を経た後でもなお国内に多くのムスリムが残り、ヒンドゥー国家でありながら現在でも世界…

カメルーン都市部のウシをめぐる生業活動――北部都市ンガウンデレにおけるウシ市と食肉流通に着目して――

対象とする問題の概要  カメルーン北部の都市ンガウンデレでは、毎日のようにウシにでくわす[1]。街中に都市放牧されているウシの群れもよく観察されるし、これらの産物や製品にも毎日であう。 カメルーン北部の都市ンガウンデレは国内のおよそ4割の食…

レバノン・シリア系移民ネットワークにおける現代シリア難民 ――国内事例の動向――

研究全体の概要  本研究は、シリア難民のグローバルな経済的生存戦略の動態を明らかにする。19世紀末以降に歴史的シリア(現在のシリアとレバノンに相当する地域)から海外移住したレバノン・シリア系移民は、現在に至るまで自らの商才を生かして世界各地…

ミャンマー・バゴー山地のダム移転カレン村落における 焼畑システムの変遷と生業戦略

対象とする問題の概要  ミャンマー・バゴー山地ではカレンの人々が焼畑を営んできたが、大規模ダム建設、民間企業への造林コンセッション割り当てや個人地主による土地買収などによりその土地利用は大きく変化しつつある。本研究の調査対象地であるT村も、…

インドネシア熱帯泥炭湿地林における土地利用調査

対象とする問題の概要  熱帯低湿地の中で水が溜まりやすい地域には、植物遺体の分解が途中で止まり、炭素と水の巨大な貯蔵庫と称される熱帯泥炭湿地が発達しやすい。インドネシアは世界最大の熱帯泥炭湿地保有国である。泥炭湿地は貧栄養で農業に適さないた…