京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

モザンビーク共和国における地場小規模製造業の発展について /マプト州マトラ市の金属加工業を事例に

販売されている様々なデザインの窓(マトラ市)

対象とする問題の概要

 モザンビークは増加する人口と豊富な資源を背景に世界平均を上回る経済成長を遂げてきた。しかし、その多くは一次産品に依存しており、工業製品の多くは輸入で賄われている。GDPに占める工業の割合は増加しているが、その半分以上が2000年より操業を始めたアルミニウム精錬会社のモザール社一社の好調によるものであるうえ[西浦 2014]、アルミニウムも国際価格の変動の影響を受けやすい。この状況を踏まえて、モザンビーク政府は各種報告書において一層の工業化を中期目標とする旨明記しており[Mnistério de Indústriae Comércio 2016]、職業訓練校の整備や海外での工業技術研修を実施している。

研究目的

 モザンビークでは、国産工業品の多くは安価な輸入品に対し優位性に欠ける。しかし家具などの木工製品や建具などの金属製品は、体積や重量が大きく輸送費の面で競争力を持っている。また、人口の増加によりこれらの製品に対する需要も拡大している。現地ではこれらの製品を製造・販売する組織的な集団も出現・増加ており、売り上げや人員を増やし政府への納税義務を果たすフォーマルな企業へ変貌を遂げた集団もある。
 本研究ではるモザンビークの製造業において、金属加工集団を事例に、彼らがどのように生産活動を行っているのかについて明らかにすることを目的とする。
金属加工業においては初期費用が高く、一定期間の訓練も必要である。また、その製造過程で電力が用いられるため、その起業・操業には単なる生業の範囲を超えた努力が必要である。こうしたことを詳しく把握することにより、今後のモザンビークの工業化を展望するための材料を得ることを目指す。

製作中の門扉(マトラ市)

フィールドワークから得られた知見について

 本調査では、旧植民地時代から産業用地として利用されてきたマプト州マトラ市マシャバ地区、マトラ・ガレ地区を調査地とし、主に「Serralharia(鉄工所)」と呼ばれる窓枠や門扉を製造する金属加工業者に対し聞き取り調査を行った。
「Serralharia」で働く人々の多くは徒弟制により技術を習得しており、その多くは政府へ登記をしていないインフォーマルな集団であった。中にはフォーマルな職業訓練学校で技術を習得した職人もいたが、そうした職人が、必ずしも正式に登記をされたフォーマルな企業に就職するわけではないことが明らかになった。また、「Serralharia」と呼ばれる集団内で働く人々は、金属の切断と溶接により多種多様な金属製品を製造している。特に売り上げの多くを占めるのは住宅向けの窓もしくは門扉のいずれかであり、モザンビーク南部で見られる人口の増加が影響していることが窺えた。
 今回対象となった「Serralharia」の多くが、屋外での作業に従事していた。すべての集団は、仕事を得るために顧客からの連絡や訪問を待っていた。モザンビーク南部で雨季となる10月から4月までは作業量が減り、また、顧客の訪問も減るため、「Serralharia」の売り上げも減少するとのことであった。これらの不安定な受注状況は「Serralharia」の年間の収入に影響を及ぼす。多くの「Serralharia」が政府への登記を目指すにもかかわらず、金銭的理由から登記ができないといった回答があった。
 「Serralharia」の売り上げの大きな部分を占める住宅用建具を購入する人々についての聞き取り調査では、所得が低いため家屋を一括で購入することはできず、家屋の建設に必要なものを段階的に購入している実態が明らかになった。調査地の平均的な所得の人々は、住宅施工請負業者に施工を依頼せず、家屋の建材から窓枠などの各建具にわたり、それぞれを自らで準備することが明らかになった。このことにより、最終消費者と金属加工集団の間に直接の取引関係が生ずる。

反省と今後の展開

 本調査では、主に金属加工集団への聞き取りにより、どのように技術を習得し、仕事を得てきたのか明らかになった。今後は、以下2点について異なった視点からの調査が求められる。
 調査地域の中にも複数の「Serralharia」があり、顧客である住民がどの  「Serralharia」を選択するのか、その基準については部分的な情報に留まっている。住民の所得状況、「Serralharia」の技術力などについて住民の視点に立った細やかな調査が求められる。
 調査地で増えている製造業集団は、住宅関連品の需要増加によるものであり、金属製品の他に、家具やドアといった木工製品製造業も同一地域に存在する。そのため、金属に限らない住宅関連の備品の製造についても調査をすることで、地場製造業の多面性をより現実に即して捉えられると考えられるので、今後は木工製品製造についての調査も実施していきたい。

参考文献

【1】西浦昭雄.2014.『南アフリカ経済論―企業研究からの視座』日本評論社.
【2】Ministério da Industriale Coméricio.2016.PolíticaeEstratégiaIndustrial2016-2025.
http://www.mic.gov.mz/por/content/download/6210/44556/version/2/file/PEI+2016+Aprovada.pdf(2019年10月3日)

  • レポート:畔柳 理(平成30年入学)
  • 派遣先国:モザンビーク共和国
  • 渡航期間:2019年6月15日から2019年9月15日
  • キーワード:モザンビーク、インフォーマルセクター、金属加工、溶接

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