食料安全保障政策に対する村落社会の反応 /エチオピア・オロミア州の事例
対象とする問題の概要 エチオピアでは干ばつ等の発生による食料不足の事態が頻繁に起こっており、これに対し政府は2005年から食料安全保障政策としてプロダクティブセーフティネットプログラム(以下PSNP)を実施している。PSNPは食料が慢性的…
ナミビアの南部には、「ナマ」という民族名で呼ばれている人々が多く生活している。彼/女らは少なくとも17世紀から現在のナミビア国内の広い範囲で牧畜を生業とする生活を送っていたが、主にドイツ統治期の植民地政策と南アフリカ統治期のアパルトヘイト政策の影響により、現在ではその生活の様子が大きく変化している。彼/女らの生業である牧畜は、主に白人所有の牧場に囲まれる形で設けられたナマの共有地(“communal area”)内で伝統的なあり方からは変化しつつも現在まで行われている。
そうしたナマの生活や生業について、それらが変化しているという事自体に言及する研究は多く見られるものの、実際にナマの人々が生活する場へ赴き、その状況を正確に記録した20世紀後半以降の研究の数は少なく、その変化の実態や現在の状況が正確に把握されているとは言い難い。
そこで、本研究では、ナマの人々の生業である牧畜に注目し、その変化の実態と現在の状況を明らかにすることを目的とする。ナマの牧畜はドイツ統治時代の厳しい頭数制限と土地利用制限、そしてその後の南アフリカによる白人優遇政策によって、厳しい環境に対応するため伝統的にもっていた可動性や柔軟性、また相互扶助のシステムといったものが失われてしまったと考えられている。しかし、一部のナマの人々は制限された土地の中でも家畜頭数の維持・拡大に努め、現在まで牧畜を持続させてきた[National museum of Namibia 2007]。
ナミビア南部カラス州にあるナマの共有地では、ナマの人々が自分たちの牧場で主に家族・親戚だけで牧畜を行っている。本研究はそのナマの共有地を調査地として、依然としてその影響力が強く残る白人との関わりやこれまで切り離して生活をすることが出来なかった動物との関わりといった他者との関係に焦点を当て、その現状把握に努める。
今回の調査は、ナミビア南部カラス州のツェス、ベルセバ、ガイナハスという3つの町村を対象に行った。これらの町村はいずれもナマの共有地内に存在し、コエコエ語を日常的に話すナマの人々が多く暮らしている。全ての調査地でそれぞれホームステイを行いその生活の参与観察を行ったほか、いくつかの牧場への訪問、他世帯や住民への聞き取り、牧場や学校、教会における活動の音声・映像での記録を行うなどした。
今回のフィールドワークでは現在のナマの人たちの生活の様子と彼/女らにとっての牧畜の在り方を大まかにではあるが把握することが出来た。多くのナマの人々は現在でも、それぞれの世帯が所有する広大な牧場にて家畜(主に羊とヤギ)の放牧を行っていた。今回の調査では男性が家畜と触れ合う場面を見かけることが多かったが、ナマの男性はほとんどが子供の頃から牧場での仕事を経験しており、家畜の扱い方や解体の仕方、放牧の仕方などをよく心得ていた。また毎食といって良いほど食事の場面には家畜の肉が登場し、牧場から離れた町村部においても解体の場面を頻繁に見かけるなど、日常生活における動物(家畜)の存在感の大きさを感じる。
牧畜が現在もナマの人々にとって日常の一部であることは理解できたが、その牧畜の仕事だけで生計を立てているような人は少なかった。今回出会った、世帯を持つ30代~50代の働き盛りだと思われる男性たちの多くが平日に役所や学校の職員、教師、自動車修理工などとして働いており、そうした職業に就く傍ら週末や休日に牧場での仕事を行っていた [1] 。また牧畜の仕事について、牧場労働者たちからはその過酷さや給料の低さ・他の職業への憧れなどの意見を聞く機会が多く、現在のナミビアの経済・社会状況の中での職業としての「牧畜」に対するネガティブな認識が少なからず存在していることが理解できた。
[1] 話を聞いたうちの一人は、それを冗談めかして”weekend farming”と言っていた。
今回のフィールドワークの反省点として、滞在する事が出来たのが町村部のみであったために、そこから遠く離れた牧場での参与観察がほとんど出来なかったという事がある。彼/女たちにとって日常の一部である牧場での仕事の詳細な観察が行えなかった事で、今回は不完全な現状の概観に終わってしまっている。牧場に滞在することが出来なかった理由としては特に自分の車(また運転免許自体)を所持していなかった事が大きいと思われる。ナマの人たちと牧畜(動物)との関係についての理解を深めるために、次回の調査までに運転免許の取得と移動手段の確保に努めたい。また、今回ナマの人たちの話の中などで間接的にはその存在を感じることがあった「白人」との関係についても、これからより具体的に把握していければと考えている。
【1】National Museum of Namibia
2007 The Nama of Namibia :A Guide to an exhibition. The National Museum of Namibia
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