京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ルサカ市周縁の未計画居住区における生活用水の糞便汚染実態の調査と解明

写真1 地下水くみ上げポンプ

対象とする問題の概要

 国際連合の持続可能な開発目標(SDGs)の目標6 において、すべての人が安全な水と衛生的な環境にアクセスできるようにすることが掲げられている。全世界において、下痢は、死亡数の2.7%を占める死亡要因であり、特に、5歳以下の子どもはその8%が下痢によって死亡している [WHO 2019]。そして、下痢による死亡の58% が不十分なWASH(水、サニテーションおよび手洗い)によるものだと言われている [WHO 2014]。とりわけサブサハラ・アフリカ地域では、水・衛生のインフラが十分に整備されておらず、下痢による死亡は大きな問題となっている。特にインフラ整備の遅れている都市周縁の未計画居住区において人口拡大が著しく、水・衛生環境の改善は喫緊の課題である。例えば、ザンビアの都市周縁地域では毎年のようにコレラが発生しており、その主要因として水・衛生設備が不十分であることがあげられる。

研究目的

 本研究では、ルサカ市周縁の未計画居住区の1つであるChawama地区における生活用水の汚染状況の実態を明らかにすることを目的とした。調査地では、水供給システムの脆弱さにより間欠給水が行われている。間欠給水により管内での水の滞留時間が延び、水質が劣化している可能性がある。さらに、管外からの汚染物質の流入も否めない。そこで、改善された水源、とされている給水栓が実際に安全な水を供給しているのか調査した。
 また、昨年の予備調査では、すべての家庭の貯留水からWHOの飲料水基準を大きく上回る濃度の大腸菌が検出された。調査地では、住民はバケツなどの容器への貯留による水利用を余儀なくされている。水は、給水栓から得た時点では清潔だとしても、運搬や貯留などの間に汚染されれば、病原性微生物の曝露の要因となる。そこで、給水栓の水が取水されて運搬・貯留・利用される過程で、どのように汚染が進むのか調査した。

写真2 むき出しになっている水道管

フィールドワークから得られた知見について

 Chawama地区の給水栓の水は、大きく3つのルートから供給されていた。地区内にある2つの給水施設からは、地下水を水源とした水が供給されていた。また、地区外の給水施設からは、カフエ川を水源とした水が供給されていた。パイプ内でこれらの水は混ざり合っており、地点によって、また日によって、どこ由来の水が優勢であるかは異なっていると考えられる。同一日に様々な地点での給水栓の水の遊離塩素濃度を測定したところ、場所によって大きくその値が異なることが明らかになった。基準値を大きく超えるものもあれば、全く遊離塩素が含まれていないものも多くあった。また、同じ給水栓でも、日によってその濃度が大きく変動していた。さらに、複数の水サンプルから多量の大腸菌が検出された。供給される過程で、水がパイプ内で汚染されている可能性がある。水質が担保されていないこと、また場所によって水質に格差があることは大きな問題である。調査期間中は電気不足がひどく、その結果水供給も停止し、水の出ない給水栓が多く観察された。間欠給水は、供給される水の水質劣化の大きな要因となっている可能性がある。
 Chawama地区の給水栓は、ほとんどの場合屋外に位置しており、住民たちはバケツを各々で用意し、給水栓で水を満たし自宅へ運んでいた。そして、水を満たしたバケツを自宅に保管し、様々な用途で利用していた。貯水の大腸菌濃度の時間変化を調査したところ、複数のサンプルで、給水栓の水に比べて大きく濃度が上昇していた。取水直後の水でも大腸菌が大量に検出されたものもあり、これはバケツ自体が汚染されていることによると考えられる。また、時間経過とともに汚染が進んでいるものもあり、これは汚染されたコップなどを用いて水が利用されたことによると考えられる。コップやバケツを洗うためのスポンジから大量の大腸菌が検出され、スポンジの汚染が貯水の糞便汚染の要因の1つである可能性がある。

反省と今後の展開

 住民たちが取水した後の水質の時間変化を調査することに多くの時間を使ったため、給水栓から出る水の水質に関して十分なデータを取ることができなかった。また、同一日において、給水栓の水質を場所ごとに比較するデータをとれたものの、1つの給水栓について、1日の内でどのように遊離塩素濃度や大腸菌濃度が変化するかを調べることができなかった。
 今回の調査は乾季に実施したが、調査地区内でコレラが頻発している雨季において、今回の調査と同様の調査をすることで、乾季の水質と比較できる。さらに、対象試料をろ過したろ紙および培養株からDNA/RNAを抽出し,特異的遺伝子をターゲットとしたデジタルPCRによる定量測定を行うことで、より詳細な分析が可能となる。これらにより、雨季にコレラが拡大する要因を特定できる可能性がある。

参考文献

 WHO. 2014. Preventing diarrhoea through better water, sanitation and hygiene.
 WHO. 2019. Safer water, better health.

  • レポート:髙橋 侃凱(2023年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2024年7月15日から2024年10月2日
  • キーワード:アフリカ地域研究専攻、ザンビア、水、衛生、間欠給水

関連するフィールドワーク・レポート

セントラル・カラハリ・サンの子ども社会への近代教育の影響――ノンフォーマル教育の事例から――

対象とする問題の概要  1977年より、ボツワナ政府は、民主主義、発展、自立、統一を教育理念に掲げてきた。1970年代中頃まで狩猟採集を生活の基盤としていたサンの社会は、政府の定住化政策によって、管理、教育、訓練の対象となってきた。こうした…

山形県朝日町における自然資源管理と超自然的存在 ――中東・イスラーム世界との比較に向けて――

研究全体の概要  本研究は、山形県朝日町O地区における神池A沼と地域住民との間の宗教的な関係性を明らかにしたうえで、O地区集落民の生業である農業と、観光資源としてのA沼の浮島の共的な維持管理において、信仰や超自然的な存在がどのように機能して…

マレーシアにおけるイスラーム型ソーシャルビジネス――その社会的起業の実態と傾向――

対象とする問題の概要  本研究の対象は、東南アジアで活発化しているイスラーム型ソーシャルビジネスである。特にマレーシアに注目して研究を進める。マレーシアでは、10年程前から社会的起業への関心が高まっている。2014年には社会的起業を促進・支…

現代マレーシアにおける資本主義とイスラーム経済のもつれあい――イスラーム型保険を事例に――

対象とする問題の概要  私が研究対象とする「タカーフル」とは、端的に言えば「イスラームの教義に則った相互扶助の仕組み」である。私たちが一般的に思い浮かべる生命保険や損害保険といった商品に近いが、ムスリム(イスラーム教徒)が利用できるように工…