京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

エチオピア地方都市における保健普及員の活動と住民の行動変容

住民の保険加入に関する手続きに従事するHEWs

対象とする問題の概要

 アルバミンチ市は、エチオピア南西部に位置し、地方あるいは郊外から人びとが流入し、年々人口が増加している地方都市である。道路の整備や拡充、小学校から大学・専門学校までの教育施設の整備、観光地化が著しく、街が市街地へ拡大することで農地や森林が減少していること、住居不足のために違法居住者が増加していることが指摘されている[Jenberuほか 2019]。
 同市では、マラリア・下痢・呼吸器疾患・皮膚感染症などの感染症にかかる人びとが多く、今日では、高血圧や糖尿病などの慢性疾患にかかる人びとも増加している。公的な医療保健機関には、治療を担う公立病院とプライマリホスピタル、予防啓発や母子保健を担うヘルスポスト(HealthPost:以下、HP)がある。報告者はHPを拠点に保健衛生活動を行なっている保健普及員(Health Extension Workers:以下、HEWs)の活動実態について調査をしてきた。

研究目的

 これまでの調査では、HEWsは、国家の保健衛生政策(Health Extension Program:以下、HEP)にもとづき、世帯を訪問して(1)住環境やごみの処理などについての助言(「環境衛生」に関すること)、(2)マラリアを予防するための助言(「疾病の予防とコントロール」に関すること)、(3)妊産婦や乳幼児の栄養状態や健康状態をアセスメントし助言(「家族の健康」に関すること)を行なっていた。また、HPでは、乳幼児の集団ワクチン接種を実施していた。
 本研究の目的は、HEWsの活動を継続調査することによって、従来からのHEPにもとづく活動に加えて、HEWsが多くの時間を割いていた、新たな活動の実態を把握することである。そして、HEWsの地域社会での社会的役割を検討することである。

蚊帳の配布を待つ住民たち

フィールドワークから得られた知見について

 本調査は、アルバミンチ市グルバ地区で行なった。HEWs(5人)、HEWsを所管するヘルスオフィス(以下、HO)の職員(2人)、および数人の住民に対して、聞き取り調査と活動の観察を行なった。加えて、HOおよびプライマリホスピタルで2次データの収集を行なった。
 グルバ地区は、2年前に地区の編成があり人口が増加した。それにともない、同地区に勤務するHEWsも従来の4人から1人増の5人となった。5人のHEWsは、勤務歴がもっとも長いリーダーH氏を中心に、HEPにもとづく業務を担当する者と、近年、導入された保険制度に関わる業務や臨時的な業務を担当する者に分かれていた。時々の状況に応じて担当者を変えるなど緩やかな分担制のもと業務を遂行していた。
 調査期間中、とくにHEWsが時間を割いていた業務は、住民が保険に加入する(あるいは保険を更新する)際の手続きと、住民への蚊帳の配布だった。これらは、いずれもHOとHPとの連携によって行われていた。
 現行の保険制度では、加入した者(世帯)は、感染症のみならず慢性疾患にも保険が適応され、公的な医療機関では無料で医療を受けることができる、とうたわれている。手続きの流れは、(1)加入を希望する住民は、窓口となるHPに行き、HEWsから制度の概要と手続きの方法について説明を受けた後、書類と保険料をHEWsに提出する、(2)HEWsは、住民から受け取った書類と保険料を、HPを巡回するHOの保険担当者に提出する、(3)HOで書類をもとに各世帯の保険加入の登録おこなう、であった。
 蚊帳の配布では、(1)HOは、各地区の人口とマラリア感染者数をもとに、蚊帳の配布数を決定して、各HPに蚊帳を運搬し、(2)HEWsが各世帯の構成員数にあわせて住民に蚊帳を配布していた。HPが、住民へ蚊帳を配布する場としての機能を果たしていた。

反省と今後の展開

 報告者は、これまで地方都市におけるHEWsの活動実態について調査をしてきた。本調査では、HEWsは、感染症や母子保健に重点を置いた従来から行われてきた保健衛生活動(HEP)に加えて、慢性疾患にも罹患している人びとも対象とする保険制度にも関与し、住民が加入するための窓口の役割を果たしていることが明らかになった。
 今後は、HEWsとの日常的な関わりを通して、住民みずからが健康的な生活を営むために実践している日常生活行動について、丁寧に行動の観察と聞き取り調査を行いながら明らかにしていきたい。

参考文献

 Jenberu,A.et al.(2019).Urbanization and land use pattern in Arba Minch town, Ethiopia :driving forces and challenge. GeoJournal.

  • レポート:鈴木 功子(2018年入学)
  • 派遣先国:エチオピア
  • 渡航期間:2023年1月11日から2023年3月2日
  • キーワード:地方都市、保健普及員、保険制度、蚊帳の配布

関連するフィールドワーク・レポート

ケニアのMara Conservancyにおける 住民参加型保全の取り組みについて

研究全体の概要  近年、アフリカにおける野生生物保全の現場では、自然環境だけでなくその周辺に住む人々を巻き込み、両者の共存を目指す「住民参加型保全」というボトムアップ型の保全活動が注目されている。本研究のフィールドであるMara Conse…

カンボジア北東部における観光開発と先住民の生活変化

対象とする問題の概要  北はラオス、東はベトナムと接するカンボジア北東部の山岳地帯、ラタナキリ州には伝統的には狩猟採集と独自の文化を営んできたとされる複数の先住民グループが存在している。現在彼らの生活は、国家による開発の対象となり、繰り返し…

ポスト狩猟採集社会におけるフォーマル教育とノンフォーマル教育の接続の実態

対象とする問題の概要  ボツワナ共和国(以下、ボツワナ)は、圧倒的多数派民族であるツワナを中心とした統合政策のもとに発展した。こうした国民国家形成の普及を実質的に担う学校教育もまた、ツワナの文化・社会システムを中心としたカリキュラムを採用し…

「アイヌ文化」を対象とした民族展示の調査

研究全体の概要  本研究は、民族文化の表象をめぐる問題を考察していくために、博物館展示のあり方を比較しようとするものである。本調査では、日本の先住民族であるアイヌに着目し、その中心的居住地である北海道の博物館・資料館の展示を対象として「アイ…

ナミビアにおける牧畜民ナマとその家畜との関係理解

対象とする問題の概要  ナミビアの南部には、「ナマ」という民族名で呼ばれている人々が多く生活している。彼/女らは少なくとも17世紀から現在のナミビア国内の広い範囲で牧畜を生業とする生活を送っていたが、主にドイツ統治期の植民地政策と南アフリカ…