京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

熱帯地域の屋敷林内に生育する外来有用樹としてのマンゴー――マダガスカル北西部アンカラファンツィカ国立公園での調査報告――

発芽したマンゴーの種子

対象とする問題の概要

 自然保護・環境保全活動の使命のひとつは、固有種や在来生態系の保護である。そして外来種の移入は、在来生態系の脅威として問題視されている[鷲谷 2007]。保護区域によってカバーされる領域は地球上の自然環境を構成する非常に僅かな一部分に過ぎないため、保護区域外の自然環境の保全の重要性が認識されることに加え、政府や公園など公的な主体・専門家ではない一般市民にも、在来の自然環境・生物種の保護者としての役割が期待されている[Gill et al. 2022]。一方で、環境保全の文脈で作物や家畜などドメスティケーションされた種は外来種として問題視されてこなかった。しかし人々の居住地を取り巻く自然環境内には、該当生物種の在来・外来を問わず、また栽培化の程度に関わらず、多様な生物種が生育している [Danthu et al. 2022]。一般市民が環境保全の主導権を握り、地域自然環境を持続的に利用していくためには、栽培化された外来種も保全や資源利用をめぐる議論の対象に含めるべきである。

研究目的

 公の機関や団体により維持される厳正な保護区域と異なり、屋敷林[1]は住民による植物種への選択や栽培管理の上に成立する環境である。世界中の熱帯地域の屋敷林の景観を構成するまでに繁栄している植物のうち、東南アジア原産のマンゴー(Mangifera spp.)は半栽培状態にある熱帯果樹種であり、外来種としての観点から議論されることのまれである植物種として特筆に値する。本研究は、マンゴーの植物種としての生態のみならず、地域住民の生活との関わりを明らかにすることで、在来の野生種以外をも包含した、人々の居住空間を取り巻く自然環境の保全や持続的な資源利用の実現を目的としている。


[1] 屋敷周辺の植栽地.

在来と外来の植物種の入り混じる屋敷林の景観

フィールドワークから得られた知見について

 本調査は、昨年2022年9月から12月(乾季)に実施した前回調査の追加調査として2023年2月から3月(雨季)に前回と同様のマダガスカル共和国北西部、アンカラファンツィカ国立公園で行った。今回実施した調査活動は主に4つである。第一に乾季に種が同定できなかった落葉樹を対象に枝葉の標本を採集した。その結果として方形区内に出現した樹種のうち、1種を除く92種全ての樹種を特定することができた。第二の活動は外来樹としてマンゴーを位置づけ、その侵略性を評価するための調査を開始することであった。調査地域内に生育するマンゴー10個体の母樹下に芽生えた実生480個体を選定し、母樹下および3つの異なるハビタットに植え替えて、その生存状況の記録を開始した。現在も調査助手によってモニタリングは継続されている[2]。第三はマンゴーの品種[3]ごとの特性に関する調査である。6つの品種からそれぞれ母樹の異なる種子を10個体ずつ集め、種皮を取り除いて多胚性を確認した。この多胚性に関する情報は、品種を分類する上で重要である。結果、多くの品種は全てが単胚性であったが、一部の品種では、多胚性の種子がほとんどを占めていた。第四は地域住民に対して行った、地域環境中に生育する植物に関する聞き取り調査である。一例として、侵略的外来樹として他のアフリカ地域で問題視されているスナバコノキ[4]などの樹種に対して、有害であるという判断の他に、着目する特性の違い[5]から、有用であると評価する声が聞かれたことが印象的であった。


[2] 母樹下:10個体の母樹下に,それぞれ30個体ずつ記録している(合計300個体).植え替え:6個体の母樹からそれぞれ30ずつの実生を採取し,3つの土地タイプ別に10個体ずつ植え替えた(合計180個体).
[3] 地域住民による区別に基づく.
[4] 中南米原産の常緑樹.タンザニアなど他アフリカ地域では侵略的外来樹として有害視されている.
[5] たとえば,「本種は水辺での繁殖力が強い」などの印象が持たれている.

反省と今後の展開

 本調査では、方形区内の植物種の同定の完了、またマンゴーの実生の運命追跡実験の開始という雨季にしかできない調査を達成することができた。一方で、地域住民に対する聞き取り調査は件数が少なく、予備的な範囲に留まった。今後の調査では、居住地や生業など、聞き取り対象の置かれた立場に注意を払いつつ、可能な限り多くの人々の考えを聞き取る必要がある。また、マンゴーを外来種として位置づけて理解する試みには、本種の侵略性に対する評価が不可欠であるが、その目的に応えうる調査は現在、継続中の実生の運命追跡実験のみである。実生定着の度合いだけでなく、苗木や若木の密度や個体サイズの頻度分布など、本種の侵略プロセスを多面的に評価するための調査をデザインする必要がある。

参考文献

 Danthu. P, Michel. I, Carrière. S.M., Labeyrie. V, Rakouth. B, Sarron. J, Mariel. J, Lasserre. D and Penot. E. 2022. Coming from elsewhere: the preponderance of introduced plant species in agroforestry system on the east coast of Madagascar. Agroforestry Syst 96:697-716.
 鷲谷いづみ. 2007. 「外来種の定着と侵略性の生態学的要因」. 日本水産学会. 73(6).1117-1120.
 Gill. N, Chisholm. L, Atchison. J, Graham, S, Hawkes. G, Head. L, &McKiernan. 2022. Scaling up qualitative research to harness the capacity of laypeople in invasive plant management. Conservation Biology. 36, e13929.

  • レポート:篠村 茉璃央(2022年入学)
  • 派遣先国:マダガスカル共和国
  • 渡航期間:2023年2月1日から2023年3月16日
  • キーワード:マダガスカル、マンゴー、外来種、屋敷林

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