京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

現代ネパールにおける中学生・高校生の政治活動の実践に関する研究

各政党に付随する学生団体のバナーが掲げられた学校のグラウンド
(11年生、12年生に加えて、学部生と修士学生が学ぶ。)

対象とする問題の概要

 近年ネパールでは、子どもが政党に付随した活動に参加することを規制する立法や啓発活動が、政府や国際組織の間で見られる[MoE 2011等]。子どもと政治の分離を主張する言説の背景には、政治的争点を理解するための理性が未発達な存在であるとみなす子ども観があると指摘されている[McDuie-Ra 2016]。しかし先行研究では、政治的な事柄に関する子どもの認識能力の発達は、社会的文脈や環境が大きな役割を果たすことが指摘されている[Hart 2008]。また、政党のような市民社会を構成する組織の性質は、社会によって異なることが考えられる。以上のことから、政党に付随する活動に参加する子ども達は、特定党派のイデオロギーに染められたり、大人達によって政治目的のために利用される被害者としてではなく、政党が提供する様々な活動に主体者として関わり、自身が所属するコミュニティで暮らすための学びを得ていることが予測される。

研究目的

 本研究の目的は、カトマンズ市とバクタプル市において、政党に付随した学生団体に所属する高校生達が、その活動をいかに経験しているのか、なぜ参加しているのか、実態を明らかにすることである。また、学生団体に所属する大学生や学校の教師へのインタビューを通して、子ども達の参加がいかに捉えられているかについても明らかにする。対象は、主要政党からは、ネパール会議派(NC)、ネパール共産党統一マルクス・レーニン主義、ネパール共産党毛沢東主義センター、ネパール共産党(統一社会党)らの政党に付随した学生団体である、ネパール学生団体(NSU)、ネパール全国自由学生団体(UML)、ネパール全国独立学生団体(Revolutionary) (ANNISU (R))、ネパール全国自由学生団体(US)を対象とした。またバクタプル市に主な支持基盤を有するネパール労働者農民党(NWPP)の学生団体であるネパール革命的学生団体(NRSU)も対象とした。

ホーリー祭に際し、NRSUのリーダーの講義を聴く中学生、高校生、NRSUメンバー達
(講義の内容は「人間社会の発展について」)

フィールドワークから得られた知見について

 高校生が従事していた活動内容に関して主に概説する。学生団体の中で、高校生達が携わっていたことは、主に3つあった。1)学校に対し改善•要求のための声を上げること、2)課外活動の企画・実施、3) 党の政治プログラムに参加すること、である。1)について、例えば、家計が苦しく授業料が払えない生徒がいれば、学生団体のメンバーが、校長先生や学校の事務局に報告し、当該生徒のために奨学金や授業料免除の措置をとるよう交渉するという。2)について、課外活動は学校によって実施されるが、学生団体からも生徒達の要望を集め、企画実施することがあるとのことだった。フットサル大会や学校周辺の清掃活動 (ANNISU (R))、交通安全講習や、ネパールの民主化運動を率いたNCのリーダーであるB•P•コイララの記念日に、彼について講義を行うこと(NSU)などが例として挙げられた。3)についてはあまり活動の例が聞かれなかった。ただ、ANNISU (R)に所属する一人の高校生は、社会のそれぞれの分野(健康、教育、農業等)を発展させるにはどうすれば良いかとの党の議論に参加し、発言もしたと述べていた。
 また、現在大学生であるが、かつて中学生・高校生の時に学生団体の代表をしていたという学生達の話も伺った。ラメチャープ郡出身の男子学生(NSU)は、8年生で代表となり、地元の人々から本を集めて図書館を創設したり、寄付を募って孤児院や老人施設に届けていた。
 インタビュー調査の結果、党のイデオロギーを教えることは学生団体の活動の大部分を占めていないように思われた。この点、さらに検証が必要だが、政党に付随する学生団体において中学生・高校生達が携わっていることは、政治活動というより福祉活動のように報告者には思われた。NSUのメンバーが最後に紹介してくれた、「政治の始まりは社会的奉仕から生じる」という趣旨のネパール語が示唆的であった。

反省と今後の展開

 反省としては、調査対象者をバランスよく集めることができなかったことである。また、各政党の特色について比較分析できる形でデータを集めることができなかった。今後の展開としては、地方で調査を実施する必要性を感じている。これまで、カトマンズ首都圏内で調査を行なっていたが、学生団体のリーダーや、中学生・高校生の時にリーダーを経験した生徒や学生の中には、地方出身者が多い印象を受けた。その理由はいくつかあるはずだが、一つに高校や大学などの高等教育機関の存在が限られている地方において、中等教育を受けた者は、都市部の中学生・高校生に比べて、様々な社会的役割を担うことが求められてきたことが推測される。今後は、地方の若者や子ども達の実践がネパールの民主主義の発展に与える影響を考察する研究が必要だと思われる。

参考文献

 Hart, Jason. 2008.“Displaced Children’s Participation in Political Violence: Towards Greater Understanding of Mobilisation.” Conflict, Security & Development 8 (3): 277–93.
 McDui-ra, Duncan.2016. Chikdren and Civil Society in South Asia Subjects, Participants and Political Agents. In Children and Violence: Politics of Conflict in South Asia. Bina D’Costa, ed., pp.46-61.New York: Cambridge University Press.
 MoE. 2011. “SZOP National Framework and Implementation Guideline, 2068, Unofficial Translation.” Kathmandu: Government of Nepal.

  • レポート:石倉 蓉子(2021年入学)
  • 派遣先国:ネパール
  • 渡航期間:2023年2月5日から2023年3月17日
  • キーワード:政党、学生団体、中学生・高校生、政治、教育、子ども、ネパール

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