京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

ザンビア・ルサカ市未計画居住区の水供給システムにおける飲料水の糞便汚染構造に関する研究

写真1 未計画居住区内にある給水塔

対象とする問題の概要

 5歳未満の子どもの死亡要因のうち、下痢は9%を占めると推定される主要な要因である [UN IGME 2025]。下痢による死亡の58%は不十分な水・衛生に起因するとされる [WHO 2014]。このような問題が最も深刻な地域のひとつはサブサハラ・アフリカである。本研究の対象地であるザンビアの首都ルサカでも、都市周縁部に形成された未計画居住区を中心に、数年おきにコレラのアウトブレイクが発生している。飲料水の糞便汚染は下痢の原因のひとつであり、効果的な対策のために、汚染経路や汚染源を特定し、リスクの構造を明らかにすることが必要である。

研究目的

 本研究は、ザンビア・ルサカ市の未計画居住区を対象とし、水供給システムにおける飲料水の糞便汚染の実態と汚染源を明らかにすることを目的とした。
 調査地の人びとは屋外に設置された給水栓を共有し、バケツに水を貯めて飲用している。しかし、間欠給水や水道管の老朽化による水道管内での汚染や、各家庭での貯留中の汚染が懸念される。実際に昨年度の予備調査において、浄水施設よりも給水栓の水、給水栓よりも家庭内の貯留水が糞便汚染の度合いが高い傾向が見られた。
 この予備的な知見を踏まえ、水源から各家庭に至るまでの水供給システム全体における水質の劣化を統計的に検証するため、体系的なサンプリングを実施した。また、後に続く遺伝子解析による汚染源の推定のため、水サンプルをろ過したフィルターが保管された。本調査は乾季に実施したものであり、季節(乾季と雨季)による飲料水汚染構造の変動を明らかにする計画の一環として位置付けられる。

写真2 共有の給水栓で水を汲む住民

フィールドワークから得られた知見について

 3つの未計画居住区およびルサカ市内外の水供給施設から、合計254の水サンプルが収集された。内訳は次の通りであった:水源(河川水, n=6, 地下水, n=41)、浄水施設(浄水, n=45)、給水栓(水道水, n=41)、家庭(貯留水, n=98)、その他(n=22)。貯留水サンプルは、給水栓での取水からおよそ24時間後に収集された。本稿では、大腸菌や残留塩素濃度を指標として、乾季における飲料水の糞便汚染の実態を報告する。
 大腸菌は河川水サンプルの100%、地下水サンプルの58.2%、浄水サンプルの35.7%、水道水サンプルの32.5%、貯留水サンプルの77.6%でWHOの基準値を上回っていた[1]。浄水サンプル、水道水サンプル、貯留水サンプルの大腸菌濃度の中央値はそれぞれ0.4, 0.4, 5.7 CFU/100mLであった。浄水と水道水の間では、大腸菌濃度および残留塩素濃度に有意な差はなかった。一方で、貯留水サンプルの大腸菌濃度は水道水サンプルよりも有意に高く、中央値で10倍以上の差があった。また、遊離残留塩素濃度も貯留水サンプルは水道水サンプルよりも有意に低かった。すなわち、浄水処理後、給水栓に届くまでの間には汚染はさほど進んでいなかったが、給水栓での取水から運搬、貯留の過程で残留塩素も失われ、汚染が著しく進んでいたことが示唆された。
 調査地では、トイレはピットラトリンが主であった。また、給水栓や家庭の周辺には、イヌ、ニワトリ、アヒルといった動物が見られることがあった。このような衛生環境から、糞便汚染の汚染源としてヒトの糞便のほか、動物の糞便も考えられる。
 一部の住民は、家庭でも飲料水に対し塩素の添加や煮沸を行っていたものの、大多数の住民は取水した水をそのまま飲用していた。塩素消毒や煮沸の有効性を認識している世帯においても、主に経済的な理由から、これらの処理は実行されていなかった。


[1] WHOの飲料水質に関するガイドラインにおいて、大腸菌は「100 mL中に検出されないこと」が基準となっている。ここでは、100 mLを超える検水量で検査した場合は、100 mLあたりの濃度に換算して1 CFU以上のサンプルを「WHOの基準値を上回る」または「陽性」サンプルとした。

反省と今後の展開

 本調査では、水源から家庭までの広域的な水供給システムの中での水質の推移を調査した。今後の展開として、まず、日本に持ち帰ったサンプルのDNA解析により、汚染源の推定を進める。また、公衆衛生問題が顕著になる雨季にも同様の調査を行い、季節間の違いについても検討する。
さらなる今後の課題として、住民が水の量や質を確保するためにどのような工夫をしているのかなど、コミュニティの中の、水を取り巻くより細やかな営みにも焦点を当てたい。

参考文献

 UN IGME. 2025. Levels & Trends in Child Mortality: Report 2024 – Estimates developed by the United Nations Inter-agency Group for Child Mortality Estimation. New York: United Nations Children’s Fund.
 WHO. 2014. Preventing diarrhoea through better water, sanitation and hygiene: Exposures and impacts in low- and middle-income countries. World Health Organization.

  • レポート:吉田 頼人(2024年入学)
  • 派遣先国:ザンビア共和国
  • 渡航期間:2025年7月4日から2025年10月31日
  • キーワード:飲料水、糞便汚染、未計画居住区

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