京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

マダガスカル・アンカラファンツィカ国立公園における保全政策と地域住民の生業活動(2019年度)

国立公園局に認められている公園内住民の樹木伐採

対象とする問題の概要

 植民地時代にアフリカ各地で設立された自然保護区のコンセプトは、地域住民を排除し、動植物の保護を優先する「要塞型保全」であった。近年、そのような自然保護に対し、地域住民が保全政策に参加する「住民参加型保全」のアプローチがアフリカ各自然保護区で始まっている。
 マダガスカル北西部に位置するアンカラファンツィカ国立公園は、政府によって施行されたCode de Gestion des Aires Protégées(COAP:保護区管理法)に沿って、Madagascar National Park(MNP:マダガスカル国立公園局)の管理下におかれた保護区である。住民参加型保全をめざした同国立公園には6ヵ村の集落が存在し、公園内に人びとが居住し、生業活動が営まれている。公園内における住民の暮らしに焦点を当て、地域住民の生業や公園管理者との関係に着目した研究はまだ不十分である。

研究目的

 本研究はアンカラファンツィカ国立公園内の1ヵ村、アンブディマンガ村における生業活動と環境利用に着目し、住民参加型保全を実施する国立公園とその内部で生活する地域住民の、共生のあり方を明らかにすることを目的とする。
 雨季の稲作と有用植物利用を参与観察と聞き取りによって調査した2018年度のデータをふまえ、今回の現地調査では乾季の住民活動を明らかにすることを努めた。具体的には、参与観察と聞き取りによって乾季に栽培される作物とその農事暦、採集される野生植物の種類などを調査した。またGPSを用いて農地面積を計測し、雨季と乾季の土地利用の相違を調査した。村落における調査のほかに、保全政策についても資料を収集した。アンタナナリヴ国立公園事務局において行政文書を入手することで、国立公園において施行される環境政策を理解し、マダガスカル国土地理院における地図と航空写真の購入などから、経時的な森林減少の実態を把握した。

公園外住民による違法伐採と公園内住民による取り締まり

フィールドワークから得られた知見について

 アンカラファンツィカ国立公園はマダガスカルの北西部に位置する保護区であり、区内の森林は熱帯乾燥林に分類される。熱帯乾燥林は雨季と乾季の明瞭な気候によって形成される。公園内村落の住民活動も、このような季節ごとの差異によって大きく変化する。調査地における雨季はおよそ11月から4月まで、乾季は5月から10月までである。前回の渡航では11月から2月の雨季に滞在し、稲作を中心とする生業活動を調査したが、今回の渡航では7,8月と降雨のまったく見られない乾季の生業活動を調査した。乾季における生業活動も、その大部分が稲作に関連する生産活動によって構成されていた。また保全政策については、公的機関で行政資料の収集を実施した。過去の地図や航空写真を現在の土地利用と比較することで、森林の減少や土地開発の進行を把握する予定である。今回の調査結果において特に重要と考えられる項目は、以下の3点に集約することができる。
 ① アンブディマンガ村は19世紀のおわりに形成された村落であり、初期移住者はマダガスカル島東海岸より耕作地を求めて当地を訪れた。最初期の移住者は1組の夫婦であり、現在村に居住する住民214人のうち、彼らとの親族関係を有する住民は、136人と全体の63%を占める。
 ② アンブディマンガ村の住民は、国立公園より村内の森林管理を委託されており、森林域における違法行為の監視業務を担っている。調査者は監視業務に従事する住民と数日間にわたって行動をともにし、公園外からの違法伐採者が多数存在することを確認した。
 ③ アンブディマンガ村内を流れる2河川のうち、公園外に水源をもつアンジャルメーナ川による土砂流出の問題は、住民の大きな関心事である。今回は水田における土砂堆積の様子を、条件の異なる20ヵ所の土壌の比較によって確認した。アンジャルメーナ川を利用する水田においては砂の堆積が顕著であった。

反省と今後の展開

 前回の渡航では、村落で展開される全ての出来事に関心を抱き、多角的な調査を実施したが、今回は予備論文で執筆する研究テーマが定まったことで、決められた期間のなか、渡航前に立てた目標通りのデータを取得することができた。
 今回の現地調査では、アンカラファンツィカ国立公園内の住民活動や保全活動に着目し、調査項目を設定した。しかし現地調査を通じ、公園外の住民による違法活動を観察したことで、アンカラファンツィカ国立公園を理解するためには、公園外の住民活動の調査が必須であることを痛感した。アンカラファンツィカ国立公園は保全政策による努力にもかかわらず、現在でも森林減少が続いており、それらは調査者の確認した違法な樹木伐採や、焼畑耕作による耕地面積の拡大行為が原因であると考えられる。公園内とその近辺における經濟活動を詳細に調査し、森林減少の実態を明らかにすることが次回調査の主要な目的となる。

参考文献

【1】Madagascar National Park. 2017. PLAN D’AMÉNAGEMENT ET DE GESTION-Plan quinquennal de mise en œuvre 2017-2021-.Madagascar National Park.
【2】William, J. and Chiristian, A. 2014. Deforestation in Madagascar-Debates over the island’s forest cover and challenges of measuring forest change. Conservation and Environment Management in Madagascar, ed. Ivan R, 67-104. London: Routledge-Earthscan.

  • レポート:山田 祐(平成30年入学)
  • 派遣先国:マダガスカル共和国
  • 渡航期間:2019年6月28日から2019年8月26日
  • キーワード:マダガスカル、生業活動、森林保全

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