京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

導入品種の受容と栽培 /エチオピア南部ガモ地域におけるライコムギの事例

耕起の様子(畑を分割して耕していく)

対象とする問題の概要

 エチオピア南部ガモ地域では、約半世紀前に導入されたライコムギが、現在まで栽培・利用され続けている。同じ時期に北部地域にもライコムギが導入されたが、農家に受け入れられなかったという[Yazie 2014] 。ガモ地域において積極的に取り入れられてきたライコムギの栽培・利用の経験を検討しておくことは、新しい作物がそれまで栽培されていなかった地域に導入される際に、地域の人びとや行政が直面する課題をあらかじめ想定するうえで参考になると思われる。

研究目的

 本研究は、ガモ地域におけるライコムギの栽培と利用について現地調査をおこない、その実態を把握することを目的としている。導入品種が栽培され始めた時期や導入経路について聞き取り調査をおこない、ライコムギとほかの導入品種の違いを比較した。収穫物の利用に関する聞き取り調査と耕起と施肥の観察をおこなった。

間隔をあけて置かれている有機肥料

フィールドワークから得られた知見について

 ある世帯を対象に実施した食事日記および聞き取り調査の結果からは、収穫したオオムギ、コムギ、ライコムギを製粉せずに、粒食していることがわかった。オオムギやライコムギは炒り麦として消費され、コムギは炒り麦と粒がゆとして消費されていた。
 調査地域において、改良品種のオオムギやコムギの栽培は20年ほど前から始まっていることが聞き取り調査により明らかになった。ライコムギには現在栽培されている2品種(カルンツォ、ブルソ)と栽培が確認できなかった1品種(カリツァ)があり、カルンツォ、カリツァ、ブルソの順で導入されたことが確認できた。カルンツォは改良品種のオオムギやコムギよりも以前から栽培されていることが明らかになった。
 耕起は牛耕によってもおこなわれるが、主に鍬を用いて人力によっておこなわれる。人力で耕起する場合は、1人で耕起する場合もあれば、2人で横並びになって息を合わせながら耕起する。畑を分割し、小さな区画を数回に分けて同じ方向に耕す事例が観察された(写真1)。耕起はもっぱら男性がおこなうのに対して、畑にイーサと呼ばれる自家製の有機肥料を運ぶ作業は年齢を問わず女性がおこなっていた。有機肥料は前年度に収穫したオオムギやコムギ、ライコムギの稈を牛の糞に混ぜてつくる。直方体形にまとめられ、背中に担いでいた。その重量は平均19.1 kg (N=5)であった。畑に有機肥料を施す場合は一定の間隔をあけていた(写真2)。

反省と今後の展開

 今回の調査では、施肥と播種、収穫物の利用について十分に調査することができなかった。調査地域では、半世紀前にライコムギが導入されて以降、従来の生業に変化が起きていることが予想される。今後の調査では、耕起から収穫、利用までの全過程を通して調査したい。その中で、農業体系、食文化、販売、社会制度の4点に焦点を絞って、オオムギやコムギと比較しながら、ライコムギが生業の変化に果たしてきた役割を明らかにしていきたいと考えている。

参考文献

【1】Yazie, C. 2014, Comparative Advantage Study of Major Crops: A Case Study in Triticale Growing Areas of Farta and Lai-gaint Districts of Amhara Region, Ethiopia”, International Journal of Agriculture and Crop Sciences, 7(1): 35-41.

  • レポート:下山 花(平成29年入学)
  • 派遣先国:エチオピア
  • 渡航期間:2018年6月3日から2018年7月20日
  • キーワード:ライコムギ、農業、食文化

関連するフィールドワーク・レポート

カメルーンのンキ国立公園におけるカメラトラップを用いた 食肉目の占有推定

対象とする問題の概要  食物網の高次消費者である食肉目は、草食動物の個体数調整などの生態学的機能を通じて、生物多様性の高い森林構成維持に関わる生態系内の重要な存在であるが、近年世界各地で食肉目の個体数減少が報告されており、その原因究明と保全…

復興期カンボジアの障がい者に対する国際援助政策の研究

対象とする問題の概要  今日のカンボジアの障碍者福祉は、1980年代の人道支援を源流とし、1991年のパリ協定を皮切りとした国際援助とともに形成されてきた。カンボジア政府は、2014年からと2019年からの4年間、障碍者戦略計画を掲げ、障碍…

エチオピア西南部地方都市における椅子と女性の身体動作

対象とする問題の概要  エチオピア西南部の高地に住むアリの人びとは、バルチマと呼ばれる木製の3本足の椅子を日々の生活で利用している。調査対象にしたジンカ市T地区に生活するアリの人びとも、バルチマやプラスチック製椅子、アドミチャルと呼ばれる木…

タイにおける文化遺産マネジメント/マルカッタイヤワン宮殿の事例を中心に

対象とする問題の概要  タイにおいて文化遺産の保護管理の多くは、法的規制のもとに国家機関である文化省芸術局が担っている。政治的背景や文化行政における予算や人員の不足から、芸術局による文化遺産マネジメントの取り組みは特定の文化遺産に偏重するも…

ソマリ語歴史叙述の展開

対象とする問題の概要  ソマリ語の正書法が1972年に制定されて以降、現在に至るまで約50年間にわたって、ソマリ語での著述がなされてきた。しかし、ソマリアは1991年に内戦によって国家崩壊をきたし、現在に至るまでその政治状況が回復していない…