京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

エチオピアにおけるヘルスエクステンションワーカーによる保健衛生活動の実践とコミュニティ活動について

Gカバレの郊外

対象とする問題の概要

 アフリカでは、感染症による死亡者の割合は高く、現在でも解決すべき問題と捉えられている。個々の生活の維持向上を脅かすだけでなく、社会全体の発展を阻害する大きな要因と指摘されている。エチオピアにおける上位をしめる疾患にも、下痢、HIV/AIDs、結核、マラリアなどの感染症があげられる。また、エチオピアでは、産婦、新生児、5歳以下の子どもの死亡率が高い現状がある。政府は、ミレニアム開発目標の達成と貧困の終焉を目標に掲げて、ヘルスエクステンションプログラムを推進し、コミュニティレベルで世帯に焦点を当てたヘルスサービス(以下、HEP)を実施している。HEPの目標は、健康的な社会を作り、産婦および子どもの罹患率・死亡率を減少させることである。その担い手がヘルスエクステンションワーカー(以下、HEWs)である。

研究目的

 本研究では、エチオピア南部諸民族州アルバミンチ市にあるGカバレ(カバレとは村や地区に相当する行政単位のアムハラ語)において、地域コミュニティに暮らす人びととHEWsによる保健衛生活動等の実態を把握することを目的とする。HEWsは、各カバレのヘルスポストに籍をおく職種で、女性が従事していることが多い。各世帯を訪問し、住民に対して主に母子保健や感染症予防に関する様々な助言等を行なっている。
 今回の調査では、主にHEWsに同行しGカバレに在住する世帯を訪問した。HEWsの保健衛生活動を観察するとともに、英語-現地語通訳を介して世帯主へ聞き取り調査を実施した。HEWsが世帯訪問を行なわない日は、当該地域内で住民へ同様の聞き取り調査を行なったほか、ヘルスセンターに勤務する医療従事者への聞き取りや、市内の常設市場において食糧の価格や販売単位等に関する調査を行なった。

世帯に訪問し、母子の健康や住環境の衛生についてアドバイスを行なうHEW

フィールドワークから得られた知見について

 Gカバレにおいて、HEWsに同行し、彼女たちによる住民に対する保健衛生指導の観察を行なった。同時に、住民に対して、世帯調査(家族構成、年齢、収入源および収入、出身地等)や病気の罹患経験やその対応の仕方について聞き取り調査を行なった。その結果、以下の9点について明らかになった。(1)Gカバレは、マラリア発症が多い地域であるため、HEWsは母子保健や水環境の衛生を促す助言を多くしていた。(2)トイレに手洗い用の水を設置する、病院に行くといった保健衛生に関わる行動については、日雇い労働のような不安定な職業に就いている世帯では優先順位が低かった。(3)HEWsは、全世帯を一律に同じ頻度で訪問することはなかった。妊産婦や頻回な訪問が必要な状態にある住民を優先的に訪問していた。(4)HEWsは、ヘルスポストが立地するカバレの中心地から周縁にある山あいの世帯まで広域に訪問して保健衛生活動を実施しており、コミュニティ全体へとヘルスサービスが浸透し始めていることが示唆された。(5)GカバレのHEWsは、看護師免許を取得後HEWsとして勤務するための訓練を受けているが、臨床経験がないため、ヘルスセンターの看護師がスーパーバイザーとして助言をしていた。(6)産後間もない褥婦については、HEWsに看護師が同行し世帯訪問する等、ヘルスセンターとヘルスポストが連携してコミュニティにおける活動を実施していた。(7)その一方で、調査者だけで実施した世帯の聞き取り調査により、HEWsがほとんど訪問していない地域があることがわかった。(8)Gカバレには、4人のHEWsが在籍しているが、調査期間中、実際に世帯訪問を行なっていたのは2人だった。(9)週5日の勤務日数のうち2~3日は活動レポート等をまとめ、残りの2~3日は世帯訪問を行なっていた。彼女たちがG地区内全ての世帯を等しく一律に訪問することは困難であることが推察された。

反省と今後の展開

 HEWs仕組みは、エチオピア政府が地域住民に情報提供等をする時に利用する行政単位ブディン(Buddinアムハラ語で複数世帯を一つのグループにした単位)リーダーに保健衛生に関する助言を行ない、リーダーが各世帯に周知するシステムとして確立された。今回、73世帯を対象に調査を行なったが、リーダーは1人しか面会できなかった。そのため、地域コミュニティが保健衛生に関わる情報をいかに共有しているか十分に見聞・観察できなかった。加えて、聞き取り調査では、調査者の現地語(アムハラ語およびガモ語)能力が不十分なため直接住民と会話をすることが難しかった。次回調査では直接コミュニケーションを図るべく現地語の向上に努めたい。
 今後は、今回の調査をもとに聞き取り内容を改善し引き続き世帯調査行い調査数を増やす。そこで得た情報をもとに、人びとの健康の捉え方と生業の関係およびコミュニティとのつながりについて次回の調査で明らかにしたい。

  • レポート:鈴木 功子(平成30年入学)
  • 派遣先国:エチオピア
  • 渡航期間:2018年8月6日から2018年11月14日
  • キーワード:ヘルスエクステンションワーカー、コミュニティ、母子、保健衛生活動

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