京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科 COSER Center for On-Site Education and Research 附属次世代型アジア・アフリカ教育研究センター
京都大学大学院アジア・アフリカ地域研究研究科
フィールドワーク・レポート

現代パキスタンにおけるパルダの実践とその意義/パンジャーブ州の事例

ラーホールのパンジャーブ大学にて現地の女性たちと。右端の女性が着ているのがブルカーで、写真中央の報告者を含め他の全員シャルワール・カミーズを着用している。

対象とする問題の概要

 本研究は、現代パキスタンにおけるパルダの実践を、主に女性に対する聞き取り調査や、参与観察を通して明らかにしようというものである。パルダとは、インド、パキスタン、バングラデシュを中心とした南アジア地域に広く存在する性別規範であり、狭義には女性が衣類を用いて自らの身体を覆うこと、そして広義には男女の生活空間の分離を指す。先行研究においてパルダは「女性隔離の慣習」とされ、女性蔑視や低い識字率や女性の健康軽視などを生み出していると、しばしば批判されてきた。しかし、現地の女性たちの間ではその捉え方、実践の方法は実にさまざまであり、その多様性に目を向けることが必要であると思われる。よって、本研究では、女性たちによるパルダの多様な実践方法に焦点を当て、その意義を探ることを試みる。

研究目的

 本研究の目的は、現代パキスタンにおけるパルダ実践の意義を明らかにすることである。パキスタンは、州や地域ごとにその言語や文化、慣習を異にするが、ここでは特にパキスタン中部のパンジャーブ州の事例を扱う。本研究では、社会情勢の移り変わりとともに近年様々に変化しつつあるパルダの現在の姿を捉えることに加え、変容の過程についても焦点を当てたい。パルダの実践方法、そしてその意義を明らかにすることは、パキスタンにおける女性の社会へのかかわり方を理解すること、ひいてはパキスタン社会の構造を理解することにもつながりうる。現地では、都市と農村の両方において、主に女性たちへの聞き取り調査、参与観察を行い、彼女らの行動や言説からパルダの姿をあぶりだすことを試みる。

調査で訪れたラーホールの農村、Jarpāl villageにて現地の女性たちと。プレゼントの腕輪をはめてもらっているところ。

フィールドワークから得られた知見について

 フィールドワークの内容は、⑴聞き取り調査、⑵新聞記事収集、⑶ブルカーの販売店へのインタビューの3つに分けられる。
 ⑴聞き取り調査においては、半構造化インタビューと非構造化インタビューを組み合わせたうえで、パキスタンの国家語であるウルドゥー語にて女性70名、男性10名の計80名からの聞き取りを行った。うち45名からは、所定の質問用紙を設けず、自由な会話形式での聞き取りを実施し、残りの35名からは質問用紙に則ったうえで、対話形式で聞き取りをした。聞き取り調査実施地は、大都市のラーホール、地方都市のムルターン、比較的小規模な地方都市のサヒーワールである。ラーホール、サヒーワールにおいては周辺の農村へも足を運んだ。聞き取り調査の結果、都市と農村では、パルダの実践方法に違いがあるということがわかった。現在はデータの書き起こし途中であり、データをもとに分析を行う予定である。
 ⑵新聞記事収集においては、9月4日World Hijāb Dayに関する記事を、ラーホールにあるパンジャーブ大学の図書館にて収集した。ここでは、ウルドゥー語の主要新聞4社のものを過去8年間にわたって写真に収めた。記事には、フランスにおけるヘッド・スカーフ禁止令に対抗する形で、2004年から9月4日をWorld Hijāb Dayとして祝うことが始まったということが書かれており、また、パキスタンでは、宗教政党ジャマーアテ・イスラーミーの女性支部の主導のもと、World Hijāb Dayが祝われていることがわかった。
 ⑶ブルカーの販売店へのインタビューでは、ラーホールの主要なマーケットの1つである、アナールカリーマーケットにて聞き取り調査を実施した。ここでは三店舗回り、店主に簡単なインタビューを行った。その結果、少なくともアナールカリーマーケットにおいてはブルカーの販売店が70年ほど前に比べて増加していることがわかった。

反省と今後の展開

 ⑴ と、⑶の調査について反省がある。
 ⑴聞き取り調査における1つ目の反省点は、カーストや収入などの基本情報を聞きそびれたことである。次回の調査の際には、事前に質問項目を決めて、基本情報だけはしっかりと得られるようにしたい。次に2つ目の反省点は、パルダ実践に反対する人の意見を聞くことができなかったことである。今後人脈を広げていく上で、このような人々からも聞き取り調査を行いたい。また、今回農村に行ったにもかかわらず、そこで参与観察を十分に行うことができなかったことも反省点として挙げられる。次回は、1つの家にある程度の期間止まって、聞き取りだけでなく参与観察もしっかりと行いたい。
 ⑶ブルカーの販売店へのインタビューに関しては、今回試行的に行ったものであるが、次回はいくつかのマーケットを回って本格的に調査をしたいと考えている。販売店の増加の事実は、ブルカーの着用の増加を示す指標になりうるからである。

  • レポート:賀川 恵理香(平成29年入学)
  • 派遣先国:パキスタン・イスラーム共和国
  • キーワード:装い、性別規範、イスラーム、パキスタン

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